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チンピラ、異世界へ行く。  作者: 磯辺
第1章 旅立つ理由
3/24

壊れていく日常

 ツバキは、1人が好きだった。

 そのくせ、寂しいのは嫌いで、誰かと一緒にいる自分を冷めた目で見ていた。

 1人でいるのに寂しくない。

 誰かといるのに独りぼっち。

 そんな矛盾の中に身を置くことで、ちっぽけな自分を守っていた。


 ツバキは、音楽が好きだった。

 好きなように自分を表現できたから。

 けれども、その表現を誰かに期待されるのが嫌いだった。

 誰かの期待に添うように表現をしてしまったら、そこに自分はいなかったから。


 だからツバキは、誰にも期待さずに表現できる、独りぼっち集まる、この薄暗いクラブが好きだった。


 そんな空間で、寂しくない1人を楽しみながら酒瓶を煽り、またカウンターに突っ伏す。

 組んだ腕をカウンターに乗せ、その腕に頭を乗せて、ボーっとフロアーを眺める。


 いつもと変わらない光景。

 いつもと変わらない独りぼっちの群れ。

 いつもと変わらない独りぼっちの群れに紛れて、いつもと変わらない本心を隠す。






 本当は、誰の期待にも応えられない自分が嫌いで、1人が好きだ、期待されたくない理由があるんだと嘯いて、今日も逃げているだけだった。


 コトンっと、カウンターを硬いもので叩く音がして、ツバキははっとしながら顔を上げる。


 さっきまで煽っていた空になった自分の酒瓶の横に、琥珀色の満ちたロックグラスが置かれている。


「そろそろ、これのタイミングだろ。」


 カウンターの中でバーテンが瓶を戻しながら言う。


 ボーっと考え込んでいた自分を隠すように、口元だけで笑いながらグラスに手を伸ばす。

 量は、ダブルより少し多め。

 ウィスキーを呑むには少し品がないその量を三分の一程流し込んで、自分を落ち着ける。


 鼻で二、三回息をする。

 自分の吐き出す息にアルコールの臭いが混じるのを感じて、やっと自分の存在をはっきりと認識する。

 物思いに耽っていた意識が身体に帰ってきて、確かめるように声を出す。


「23時から何人かステージに上げるって聞いたけど。

バトル?サイファー?」


 バーテンが、グラスを磨きながらちらりとツバキを見て答える。


「人数によるけど、バトルじゃないか?

最近のブームのお陰でこの手の商売も多少は賑やかになったからな。

ウチも今のうちにそれに縋っとかなきゃな。

なんだ?ステージ上がる気になったのか?」


 ツバキが答えを聞きたくて質問したわけじゃないことを、バーテンはわかっていて意地悪く笑う。


「いや、上がらない。

上がるにはもう呑みすぎてて、呂律回らねぇよ。

なみなみ注いだウィスキー出した張本人がそれ聞くかね。」


「おかしいな、お前は呑んでた方が調子良かったはずだけどな。

お前がステージに上がるの楽しみにしてるやつ、結構いるんだぞ。」


「やめてくれよ、引退したアイドルじゃあるまいし。

別に俺はこれで食ってるわけじゃねぇし、悪いけど、自分のやりたい時に、やりたいようにやるよ。」


 お互いに冗談交じりの会話をしながら自然と口元が緩むのに、ツバキの心はまた逃げた自分を責める。


 グラスに残っている琥珀色を、口に入るだけ流し込みながら目を瞑る。

 口の端から少し溢れたそれが、首元までたれてくる。

 その冷たさに目を開けたツバキは、身体の火照りが酔いのせいでない事を自覚していた。




 何故だろう。

 今日はここにいても逃げ切れない。

 自分を責める自分から。


 別に誰も俺になんて期待していないはずだ。

 ここは独りぼっちの群れ。

 期待されるのが怖いなんて、、、

 ここでは無縁の話のはずだ。


 そんな風に自分に言い聞かせるツバキは、さっきの路地裏でのチンピラじみた男とはほど遠い。

 まるで泣き出す寸前の迷子のようだ。



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