9.プレミアム
家に帰ると裸の女が出迎えてくる。
家族ではない。恋人でもない。友達以上ではある。
割と親しくなれたと思い、それなりの関係性もあって、同棲をする運びとなった訳だが、その辺の紆余曲折は割愛する。
大切なことは『家に帰ると毎回裸で出迎えてくる』というただ一点だからである。
そして、今日、遂に訊ねた。
「なんでいっつも裸なん?」
その返答はこうだ。
「誘ってるんだよ! 察しろよ!」
頭を鈍器で叩かれたような衝撃を受けた。なんということだろう。オレは毎日性交渉に誘われていたのか。誘われていたのかぁっ!
「そういうことは口で言えよぉ」
「いや、分かるっしょ。友達以上恋人未満の同棲相手が毎日毎日裸でお出迎えしてたらさぁ。答えは一つでしょうよ」
「てっきり裸族の方かと……」
「理解が想像の斜め上だわ」
「いやでもほら、段階ってものがあるだろう。急に全裸でお出迎えでは『よし、セックス!』とはならんだろう」
「付き合う前から同棲しといて何を言うかな」
「じゃあ付き合おっか」
「わぁい、とんとん拍子だ! なんかムカつく」
「逆に?」
「順だよ! まあ、置いといて。じゃあ、なんだね、ごほん。今日から恋人同士ということで。じゃあ、ベッド行く? お、お風呂からかな。ああ、ゴムか! 近藤さん買って来るか!」
「?」
「キョトンとするなぁっ!」
「まぁ待て。待て待て。付き合ったら即合体か? リピドー溢れた中坊じゃないんだよ。あるだろ、雰囲気作り。キスから始まってちょっと過激に触れ合いつつベッドイン、みたいな」
「めんどくせぇっ! 乙女か! めんどくせぇっ!
男でしょ。目の前に裸の女がいるんだよ? ガツンと来なさいよ。穴があったら入りたいって言うでしょ!」
激しく意味が違うけどな!
「じゃあさあ、そのさあ、根本的な事言っちゃっていい?」
「……なによ」
「エロくない」
「…………おん?」
「お前の裸に興奮できない」
言葉は返ってこなかった。代わりに拳が飛んできた。
「おおおおお、落ち着け! 落ち着こう!」
「こ、これが落ち着いていられるかぁっ! き、きさ、貴様! わたしの健康的な美貌に向けてなんたる暴言!」
「だってお前、毎日全裸じゃないか。見慣れたんだよ。いくらハンバーガーが好きでも毎日だと食欲無くすだろ?」
「嘘だね! お米なら三食三六五日でも食べてるじゃない! 主食は飽きが来ないのよ! わたしのことは遊びなんだ、エロマンガと同じレベルなんだー。おーいおいおい」
「落ち着けよ。いくら主食だって二四時間ずっと米だけ出されても一日でギブだよ。間を開けるのも大切だし、何より変化がないとさ」
直訳すると『いいから服を着ろ』という意味だ。通じただろうか。
「嘘よ! 初日から興奮してなかったもの! むしろ若干引いてたもの!」
「当たり前だろ。同棲初日から全裸生活って。変な企画AVかと思ってカメラ探しちゃったよ」
「一体わたしにどうしろって言うんだ!」
「服を着なさいな。四六時中裸を見せられるより、見えそうで見えないチラリズムだとか、きわどいところで隠れてるもどかしさみたいな方が、こう、グッと来るんだよ」
「あんたAV見る時裸のシーンまで飛ばすじゃん!」
「あれは見てる時点で興奮してるから、早く本番でMAXまで達したいんだよ。落ち着いてる時に見ると服を着てインタビューするとこも許せる。内容によっては興奮もする」
「分かった。わたしの裸も興奮しながら見なさい」
「どんな折衷案だ……同棲してるのに興奮しっぱなしだったら病気になるわ」
「病むほど愛して!」
「愛は、まあまああるんだよ。同棲するくらいには。毎日見慣れてるから興奮しないと言うだけで」
「なんだよ! 安い裸みたいに言いやがって!」
「実際安いだろうが。百均の雑貨並みに安いわ」
「ファッキン! 畜生、覚えてろよ! 明日こそは目にもの見せてくれるわー!」
そう捨て台詞を吐くと全裸のまま寝室に閉じ籠もってしまった。オレもそこで寝るんですけど……。
開けて翌日。仕事から帰ると――
――キグルミを来た不審者に出迎えられた。
警察に通報すべく携帯を取りだしたが、叩き落とされる。そしてそのまま玄関のドアに押し付けられ、壁ドンされてしまった。
「どうだ。着てやったぞ。興奮するんか? おぉん? これで満足かーっ!」
……色気もクソもねえ。
なんてガッカリな女だ。こいつは男心ってものを何も理解しちゃいない。
これは一丁説教してやらねばなるまい。リビングまで押しやり、無理矢理脱がしにかかる。
ただその時のいやがる様子と無理矢理脱がすシチュエーションには興奮したので結果オーライだったのかも知れない。
1週間毎日更新しても評価0なのが堪えたんで毎日更新はやめます。
31話完結予定なので、かけたら更新します。
活動報告を更新したので興味があれば読んでやってください。