7.夏の日、保健室での健全な一時
どちらかと言えばS気質の男がいた。
どちらかと言えばM気質の女がいた。
出会うべくして出会った二人だが、学生の本分は学業であるし、情熱を燃やすなら部活に励むべきであるし、未成年がにゃんにゃんするなど以ての外であると貞操観念もしっかりしていた。
つまりここから先の話は全くエロくないし健全だし合法であるということだ。何か思うところのある人は、その人自身が疚しい心の持ち主なのだ。そういう前提を踏まえて読んで欲しいのだ!
二人は保健室で、一つのベッドに腰掛け体を寄せ合っていた。
何をしているかといえば、決していやらしいことではなく、真面目に校内の美化活動に励んだ結果、女が虫刺されでかゆくなってしまい、ステディであるところの男がかゆみ止めの薬を塗ってあげているところなのだ。健全な行為なのだ。
二の腕から半袖の下まで薬を塗ると、つい高い声が出てしまうのも、冷たいしくすぐったいので致し方あるまい。首筋から鎖骨にかけてなぞる時もまた同様である。
足を塗る時はソックスが邪魔になるので丁寧に脱がせてやり、指で広げるように丹念に薬を塗りつけていく。足先まで終わると今度は逆に太股の付け根へ向けて昇るように指を這わせる。だがまさかスカートの中にまで手を入れることなど出来まい。なので女自身にその折り目の付いた布をたくし上げてもらい、ともすれば純白のフリルに触れる境界まで、そっと、撫でるように薬を広げる。純白のフリルがナニを指すかはご想像にお任せする。
かゆみを堪え悶える様子の女は吐息も荒く、頬は紅潮し、時折我慢できずにその肢体を振るわせることもあった。身悶える、とも言う。ヒクつかせる、なんて表現方法もある。どれでもいいが内容は「かゆくて我慢できない」様子を描写しているだけである。実に健全だ。
そして男はかゆみに苦しむ愛しい人の体を慰めるために一心不乱に指でなぞる。だが刺激を欲しがる箇所は多く、両の手では到底間に合わない。ならばと工夫を凝らし、唾液で十分に濡らした舌を這わせて女の身体に奉仕してやる。唾液に抗菌作用があることは広く知られているし、かさついた肌はかゆみを感じやすくなるため潤いを持たせる必要がある。即ち舐めるという行為は立派な医療行為であり男の行動は理に適っていると言えよう。実に健全である。
二人して沸き上がるもの(つまりかゆみ)を抑えていたその時、不在であった保険医が戻ってきた。「あら、誰かいるの?」と声をかけながら人気のする方向へ歩み寄る。二人と保険医を隔てるものは、日の光でやや透ける程の薄いカーテンだけである。
女はすぐさまスカーフを結び直して胸元を隠し、スカートに付いた折り目を正した。保険医も養護教諭であるからして、乱れた服装で対面しては失礼に当たるからだ。
そして男は慌てることもなく状況を説明した。虫刺されがひどくかゆみの治まらないクラスメートのために薬を塗って癒しているのだ、と。
「でも何故あなたが? その子は女の子でしょう。お友達に代わってもらった方がいいのではないかしら」
保険医の疑問は至極全うである。
それに対して男は答えた。
「自分は保険委員なので薬品の置き場も使い方も心得ています。それに、恥ずかしながら、彼女は僕の恋人なのです。苦しんでいるのなら僕の手でなんとかしてやりたい」
と、文字通り両の手で女の身体をさすりながら。
保険医はこの真摯な返答に納得し、「若いっていいわね」などと揶揄するような言葉を残し、再び部屋を出て行った。忘れ物を取りに来ただけで、また別件で留守にするらしい。「あとのことはよろしく」とも。
乱入してきた大人はカーテンを開けることすらなく去っていった。そしてまた、薄布に囲まれただけの二人の空間が戻ってきた。
元より疚しいところなど無いが、養護教諭の承認を得て、行為を続けることにした。つまりこれは学校公認の行為であって、いやらしいところなど微塵も無いということが証明されたのである。誰はばかることもなく続けることが出来るのだ。
さて、合間を挟んだことで折角塗りつけた薬の潤いが乾いてしまったように感じた男は、先程よりも多くの液体を手の平の上で混ぜ合わせ、相手の柔らかな肌へゆっくりと撫で付けていった。潤いの増した肌は男の手の平に吸い付くようであり、過剰な薬液はにちゃりと音を立てて二人の肌と肌の隙間に糸を張った。それはまるで、皮膚というよりも粘膜をなぞるような心地であった(* 個人の感想です。この場で行われているものは健全な行為です)。
女は男の為すことを、身体の痒みを抑えるためのことと納得してされるがままにしていたが、かゆみはくすぐったさに変わり、そしてまた形容しがたい感覚が湧き出てくるような錯覚を覚えた。吐息の隙間から艶やかな声が漏れ出てしまい、恥ずかしさを覚えて必死で抑えようとする。しかし男の優しくも容赦のない動きがそれを許さず、せき止めようとする意思に反して零れ出てしまうのだった。
女の内面から耐え難い衝動が溢れ、我慢できずに男の体を引き寄せてしまった。抑えきれない嬌声(いやらしい意味ではない)が招き寄せる力へと換わり、男を胸の内へと誘い込んで強く強く抱きしめてしまう。
男は抵抗することなく寄り添い、女の耳元に男の唇が触れた。
「今はどこが堪えられない?」
耳たぶを噛んで弄ぶような囁きであった。
そして女は惚けたような声を絞り出す。
「唇の内側が――」
男は言い終わるのを待たなかった。口内の粘膜を傷付けぬように、自分の口の中の、柔らかく濡れたモノで、丁寧にその箇所を撫でてやった。
夏の熱い日差しの中、保健室での一幕であった。
本当はM気質の女装男子とSっ気のある男装女子が制服交換しながら云々ってやるつもりだったけど、「ギャグにはなるけどエロくはねぇな」と思ってやめました。
女装子の腰布から見え隠れする太股とか書かれても興奮しねえ。
いえ、健全な話なのでエロさは元から無いんですけどね。