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6.マインドコントロール

 八畳一間の安アパートで男女が向かい合いコタツに入ってくつろいでいる。そんな一コマ。

「聞いてくれ加奈。オレは凄いことに気付いてしまった」

「それって今聞かなきゃいけない話?」

「……それなら、いいや。ベランダ行ってサボテンに話してくる」

「いやいやいや、いいよ、悪かったよ。冗談だから」

「じゃあ話すけど、雑誌のグラビアとかでさ、薄着だったりほとんど裸だったりで写真撮っちゃう女の子がいるじゃない」

 ああ、これは下らない話だな、とすぐさま看破した女は顔だけ向けて聞き流すことに決めた。

「あれってさ、女の子も最初から好きこのんで脱ぎたいわけじゃないし、無理矢理脱がせても内心嫌々なのが顔に出て表情がぎこちなくなるんだって。でもそこをカメラマンは話術で誘導して、自分から脱ぐように仕向けちゃうんだよ。そしたら自発的に脱いだわけだから女の子もノリノリで、いい写真が撮れるんだって」

「ふーん」

「つまりさ、グラビアカメラマンに大切なのは撮影の技術じゃなくて、話術なんだよ!」

「そーなんだー」

「それでほら、オレってマインドコントロールできるじゃん? だったらオレでもカメラマンになれるんじゃないかって思ったわけ」

「……へー」

「そんなわけでグラビアっぽい感じで写真撮らせてくれないか」

「ヤだよ」

 話術はどうした、とか、マインドコントロールが使えるなんて知らないよ、とか、ツッコミどころはあったが女はそれを飲み込んだ。相手をするのが面倒だったのだ。

「まあそう言わんと」

 ピロリロリン、とスマホの撮影音。

「ちょっと勝手に撮らないでよ。っていうか、スマホのカメラなんだ。そういうのって一眼レフとかの本格的なカメラで撮るんじゃないの」

「素人が試し撮りするだけなのにそんなん買わないよ。それに最近のスマホは画素数多いし、色々機能も付いてるし、十分十分。ほら、良く撮れてるだろ」

「えー? やだ、口半開きになってるじゃない。急に撮るからー」

「じゃあちゃんとポーズ撮ってよ。ほら、ピースしてピース」

「今頃ピースってダサくない?」

「そう? 今の流行ってどんなのさ」

「手をパーにして前に突き出す……のもちょっと古いか。親指と人差し指をクロスさせてちっちゃいハートを作ったりとか……そう、ハート作るの。両手の人差し指と中指で、こう、ハートの形作ったりとか?」

「へー。気にしてなかったけど、言われてみるとやってるの見た気がするな」

 と相槌を打ちながら男は女を連写する。

「座ってばっかりってのも変化がないな。ちょっと立ってみてくれる?」

「やーよ。寒いんだから」

「じゃあ、寝そべってくれ。仰向けじゃなくて、そう、横向く感じ。そうそう」

 狭いコタツに入ったままで体を横にすると、上半身だけを捻る形となり、自然カーペットに押し付けられた胸が強調される形となった。それから何枚も撮りつつ、仰向けで大の字に寝かせたり、俯せにして顔だけ上げさせたりとポーズに指示を出しフレームに収めていく。

「ふーむ、結構撮れたな」

「終わり? 飽きた?」

「飽きたわけじゃないけどさ、コタツから出たくないんだろ? 寝っ転がっただけじゃポーズも限られてくるからさ」

「ん~、じゃあ、立ってもいいけどさぁ、エアコン強くするよ?」

「おー、いいよ」

 立ち上がる仕草から部屋が暖まるまでの寒がる様子まで連写して、体を温めるためにと動きのある仕草を取らせ続ける男、まあいいかと流される女。


 やがて室温が上がると、今度は動いた反動で体に熱を帯びてくる。男はさほど動いていないが、さっさと上着を脱いで涼しげな格好でスマホを構え続けていた。しかし女に向かって「脱げば?」とは言わない。あくまで自主的に言い出すのを待っていた!

 一方、女の方も半ば乗せられている事を自覚している。しているが、拒否しない。むしろ「そんなに脱がせたいなら、一枚くらい脱いでやろうか」というサービス精神すら持ち始めていた。

「いいよー。可愛いよー。加奈は写真映えするよな。お前にモデルを頼んで良かったよ」

「まーたそうやって調子のいいことばっかり言って」

 軽く受け流す女。しかし――だがしかし――――


 ――この時、悪い気はしていない! むしろまんざらでもない!


「インスタに上げたりしないでよね」

 などと乗り気でない素振りを見せつつ、焦らしながら脱いだり肌を見せ付けたり性的なふくらみを強調してポーズを取ったり。心の内は完全に追従している。「いやよいやよも好きのうち」とは良くぞ言ったものである。

 そして男の方も「まさかこんなに上手くいくとは!」と興奮気味である。血流は興奮状態の脳と局部の張りに集中して流れていた。「俺のマインドコントロールも中々のものだ」と自画自賛して調子に乗りまくっている。

 撮影が止まらない男。しかし――だがしかし――――


 ――この状況は男の功績ではない。マインドコントロールなどと片腹痛い!


 二人は元より恋人同士。いちゃつく空気は始めから出来ていた。むしろこの流れは予定調和。カップル特有のタガが外れた理性の成せる技。

 決して誤解をしてはならない。これが別の女子(おなご)相手であれば成立するはずのない今! 勘違いして誰彼構わず試していればビンタは必至の黒歴史。


 ダーリンハニーの間柄でこそ成立するのだっ!


 なのでこのあと二人はめちゃくちゃSEXした。

 そんで次の日隕石が墜ちてきて死んだ。

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