表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/33

30.天命をイチャイチャしながら待つ

 俺には彼女が二人居る。うらやましいだろ。居るんだよ。

 まあ、正確には彼女候補なんだけど。

 俺を取り合って困っちゃってるんだよね-、でへへへへ。


「にゃーん。ほーらシューちゃん、にゃんこですにゃーん?」

 水着姿でネコ耳カチューシャを着けたヒロカが俺を手招きして誘う。かわいい。しあわせ。でもその尻尾はどこから生えてるの?

「わんわん。わんこですわん。ご主人様、遊んで欲しいわん」

 水着姿でイヌ耳カチューシャを着けたアイナがおすわりの格好でおねだりする。かわいい。しあわせ。ほんで、その尻尾はどこから生えてるのよ?


 ああ、こんなラブコメみたいな展開が俺の人生に訪れるなんて。

 神様ありがとう。この一瞬の幸せでこの先百年は生きられそうです。

 ありがとう、ありがとう!


 ◆


 牧島修司は何の疑いもなく喜んでいるが、旨い話には裏がある。

 いや、彼の場合はその実力の賜物ではあるが。


 これから四十二年後の未来で、牧島修司はカルツァ=クライン理論を発展させネオ・ボソンという新しい粒定義に分類される粒子を生成してしまう。これは時間跳躍と空間跳躍の二つの可能性を持ち、その後二十年でタイムスリップ技術を可能とした。


 ヒロカ=ネル=イオニールはそのタイムスリップ技術を封印するために未来からやって来たエージェントだ。

 タイムスリップについて知る方はこの時点でタイムパラドックスを思い浮かべるかもしれないが、そもそも時間軸に矛盾は存在しない。

 これを説明するには光の性質が近い。光は必ず最短経路を通る性質がある。これは、光が二点間を結ぶ際に、最短のルート以外は逆位相により消滅し、最短経路のみが同位相により強調されて観測できるためである。

 今回で言えば、ヒロカの干渉により四十二年後にネオ・ボソンが生まれる未来と生まれない未来の二つの平行世界が誕生する。そして時間軸的最短距離のみが強調され、他の平行世界は消滅する。この時の最短距離とは、四十二年後以降の到着時点。つまりは『あるべき未来』。一言で『運命』と言い換えても良い。

 この『運命』に矛盾しなければヒロカの行為は成就し、『最初からネオ・ボソンなど存在し得ない』未来経路が確定する。矛盾するのであればヒロカの行為はそもそも無駄である。


 牧島修司は「この一瞬の幸せで百年生きられる」と表したが、そもそもが経路を模索しているだけの『消滅する一瞬』なのである。この時空点のみで存在するが、そのほかの全ての時空点では存在しない虚数空間。

 一睡の幻。胡蝶の夢なのだ。


 このような物理法則に矛盾しないが虚数的にしか存在しない桃色空間を、専門家達は「エロ漫画時空」と呼ぶ。

 何のことはない、小難しいことは一切考えずにエロいイチャラブを楽しめばよい。


 ◆


 そんなわけで当人のヒロカは修司の気を引くことに必死である。

 なにせ自分の一挙手一投足が未来を決めるのだという使命感に燃えている。宇宙の命運がその双肩にかかっているのだと。自分こそが世界を守る勇者なのだと。


 修司が色に溺れてくれるのならば、転けた拍子に胸を押しつけるし、不自然な風に吹かれてパンツも見せるし、もつれ合って修司の顔面にケツで着地するようなエクストリームラッキースケベもやってのける。

 なんなら「いや~ん」みたいな猫なで声だって出してみせる。

 毎晩鏡の前で修司の写真に向かって「私は修司が好き、私は修司が好き」と呟いて全力で自分を騙す。

 その成果もあって、最近では自然とエロハプニングを起こせるし、なんなら本当に修司のことも好きになってきている。イチャイチャしたいしキスもしたい。積極的にしていきたい。


 今だって仰向けになり、無防備に腹を晒して、「にゃんにゃん」言いながら修司の顔にネコパンチを繰り返している。

 ここだけの話、彼女の上司は「こいつほんまに大丈夫かいな」と疑問を抱いている。

 それ程までに。

 完璧に。

 彼女は役割をこなしているのだ!


「にゃお~ん♪ にゃおぉ~ん♪」


 ◆


 出雲愛奈は神である。

 いわゆる創造神や絶対神ではなく、八百万の神と呼ばれる霊的な存在だ。

 その昔、ただの子犬であったアイナは幼少の修司に飼われて一緒に遊んでいた。だがある日、大嵐による水害で修司の家が流され、アイナは濁流に呑み込まれてしまった。アイナはパニックに陥り、生きるために必死にもがいた。為す術もなく流される中、必死に掻いた爪が何かに突き刺さった。

 それはアイナを助けるべく濁流に飛び込んだ修司だった。

 当然子供の力でどうにかなるわけもなく、一緒に流されるがままになっていたのだが、奇跡的に潰れた家屋の屋根に引っかかり、斜面となった瓦の上に乗り上げたことで一命を取り留めた。

 その時の恩義をアイナは忘れたことがない。そして十年の時を経て、人の姿に変化し恩返しをするために修司の世話を焼くようになったのである。

 なので現在のわんこスタイルは彼女にとってほぼ自然体。イヌ耳もカチューシャではなく、尻から伸びた尻尾も自前のものである。

 ただ、元がイヌだけあってちょっとお馬鹿さんだ。

 今だって修司と取り合っているつもりはなく、ご主人様とお友達と一緒に遊べて嬉しいなぁと喜んでいる。

 そして「わんわん」鳴きながらおっぱいを押しつける。ご主人様が喜んでくれるので、アイナはおっぱいを押しつけるのだ。


「わぉ~ん♪」


 ◆


「ぺろぺろ」

 耳朶を舐められ法悦に浸る修司。

「あああ、アイナ、あなた何してるの!」

「ぺろぺろだわん。ご主人様をお舐めするわん。気持ちよさそうでしょ? ヒロカちゃんも舐める? わん」

「やらな──舐め────うおぉ……」

 エージェントのくせにねんねなお嬢ちゃんであるヒロカは顔を赤くして煩悶する。アイナの積極性に一歩遅れを感じるのだ。

 これいっとくべきか。いやぁ、さすがにこれは恥ずかしい。

 悶々、悶々。

 悩んだ末に意を決して顔を近付ける。目標は修司の鼻先辺り。ちょびっと舌を出してゆーっくり接近。

 触れるか触れないかの瀬戸際、飛び退き顔を隠して床を転がるヒロカ。その顔は真っ赤っかだ。恥ずかしさが臨界点を超えて「んなぁ~ご」と鳴きながら転がり続けている。


 修司的には実にありな展開だ。かわいいし、嬉しいし、しあわせ。

 だがしかしここで問題発生である。我慢していた修司のリトルがテントを膨らませてこんにちわしようとしているのだ。これを美少女二人に悟られるのは恥ずかしすぎる。

「や~ん、シュウちゃんどうしたのこれ? ねえ、もう我慢できないの?」

「ご主人様はエッチだわん。お仕置きが必要だわん」

「そうね。でもまずは確認しないとね。ほら、シューちゃん、自分で出して見せて」

「早くするわん。モタモタしてたら鮮度が落ちるわん」

 みたいな展開になったらどうしよう、なんて責められるシチュエーションを想像してさらにエレクチオンしようとしている。何故ならそれはそれでドストライクだからである。


 ギブアップ寸前だ。トイレに行こう。一度解脱して賢者に生まれ変わる必要がある。

 修司は逃げの一手を選択した。


「あの、俺ちょっとトイレ」

 おっぱい押しつけてくるアイナにやんわり離れてと促す。

「なんで?」

 アイナの無邪気な一言。「トイレに行く」と言う相手にまさかの「なんで?」。

 アイナに他意はない。ただ元がイヌなのでちょっとお馬鹿なだけなのだ。「こんなに楽しいのにどこ行くの?」という純粋な疑問なのだ。トイレだって言ってんのに。


 だがその一言が更に修司のマゾ心を刺激する。

 無垢で従順なおっぱい大きい女の子が「我慢しなさいね?」と優しく命じてくるのだ。なんという背徳感。股間のサイヤ人がスーパーサイヤ人になってしまう。

 そこへ更に追い打ち。ヒロカの視線。彼女は修司の股間をガン見している。

 ヒロカ的には「あれ、トイレ行かなくて良いのかな?」という疑問。しかし修司的には「こいつ勃起()っ立ててんじゃねーの?」という疑惑の視線に感じる。事実、修司の股間は膨張中だ。言い逃れはできない。

 賢者に。賢者にならねばならぬ。

 修司は気持ちを落ち着かせるため、心の中で般若心経を唱え始める。だがアイナがおっぱい押しつけながら「なんで? ねえなんで?」と訊ねる度に現実世界へ呼び戻される。


 緊張と焦燥。だがその中に凄まじい喜びがあった。

 金払ってもできる体験じゃあない。


 なんかもう使命とか恩返しとか関係無いくらいに各がイチャコラを楽しんでいるような気がするが、彼・彼女らは知らなかった。

 ラブコメにはテコ入れが存在することを。修司を巡る争い(?)にお姉さんキャラとロリ要員が参戦することを。


 果たして未来はどこへ収束するのか。

 運命だけが知っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ