26.百合漫才
「世の中は間違っている!」
『おっとどうなすった藪から棒に』
「花の中学三年生だぞ。言っちゃあ何だがわたしは可愛い。頭も良い。スポーツだってできる。クラスでも人気者なんだ。
なのに。
何故!?
わたしには恋人がいないんだ!!」
『女子校だからじゃない』
「女子校だからって関係ないだろうが! 彼氏のいる娘なんかいくらでもいる! 実崎さんだって尾藤先生と付き合ってるし」
『それ言っちゃダメなヤツ。尾藤先生結婚してるから。それでなくても教師と生徒だから』
「大丈夫だろ。もうすぐ生徒じゃなくなるし、教師も辞めさせられるし」
『あわわわわ、社会的に制裁されてる……』
「中等部だけでも在校生が百人ちょっといるんだぞ! なのに、何故、わたしに告白してくる奴がないんだ!」
『女子校だっつーに』
「女の子同士は付き合っちゃいけないんですかー!?」
『推奨はされないだろう』
「そんなことないですー。女の子同士の恋愛は尊いってネットに書いてありましたー」
『ダメなまとめサイトを見るな! 純粋培養の人間に2chは刺激が強すぎる!』
「2chじゃないよ! Vipperだよ!」
『VIP板は2chなんだよ素人が!』
「いいじゃないか、女の子同士で恋したって! 可愛い後輩を先輩権限で部屋に連れ込んでノンケをレズの道に引き込んで、表では『お姉様』とか呼ばせてイチャイチャしながら裏ではニャンニャンとかバブーとかしてキャッキャウフフすることの何が悪いって言うんだよ!」
『不純! 超不純! 恋とか言いながらお前セックスのことしか考えてないな!』
「や、やめろよ、こんなのところで、セ、セック…………とか…………」
『今更どこで照れてんだよ!』
「わたしもさ、これで結構本気なんだよ。真面目に女の子同士の恋愛を勉強してるんだよ」
『不真面目さしか感じないけどなぁ』
「昔の人は言いました。『…ふたなりは……邪道!!!!』」
『お前何見て勉強してんの?』
「分かるね。それは百合じゃない。別のジャンルなんだ」
『ジャンルとか言うな。っていうか、求めてるのは百合なの? 恋人なの?』
「恋人だよ。ダーリン・ハニーの関係だよ。わたしは誰かを愛したい。そして誰かに愛されたい。7:3の割合で愛されたい」
『わがまま娘め』
「告白するよりされたい派なんだよ、わたしは! そしてたくさんの人に告白されてチヤホヤされつつ、最後には一人を選んでラブラブカップル生活を送りたいんだ! せめて学生のうちは!」
『お前最低だな』
「社会に出たら男が欲しい」
『お前最低だな!』
「まあ最終的にはね。落ち着くよね、男に。子供とか生んでみたいし。それにあいつら可愛いんだぜ、タンポン入れたら処女膜破れるって思ってるの。非処女が言い訳に使ったら信じたんだって。あはははは」
『それ爆笑する要素あるかな!?』
「ただわたしはこうも思う。男が一人いて女が二人いても良いんじゃないかって」
『また不思議なことを言い出した』
「わたしがいるでしょ。わたしに夫がいるでしょ。でもわたしには愛人の妹がいるのね」
『愛人の妹って何だ。愛人なのか、妹なのか、愛人さんの妹さんなのか』
「学生時代の妹的なポジションの娘が社会に出るとわたしの愛人にクラスアップするってことさ」
『そんなさわやかに解説されても……』
「わたしは男と女を楽しめてお得。旦那は3Pを楽しめて満足。愛人はわたしと暮らせて幸福。皆得しかしない。ねえ、これって最高じゃない?」
『そうだね。最高にゲスいね。どうしたらそんな発想に辿り着くのか』
「この間読んだエロ本でさぁ」
『エロ本って言っちゃった!』
「とある女の子がね。先輩の女性のことが大好きなのね。でね? 先輩は恋人がいるのよ。男性の。だから、『男なんかに先輩は渡せない』みたいな可愛い事言っちゃってね。3人でセックスするのね」
『飛んだな。ストーリーが端折られてるな。ほんでお前、さっきまでセックスって言葉に照れてたはずだよな!』
「後輩ちゃんは男のテクニックにちょっと感じちゃってるんだけど、『先輩の方が上手だもん』とか可愛い事言っちゃって、堪えるの。ところがどっこい、そこで先輩が彼氏に加勢してさわさわ~ってするの。それで後輩ちゃんもアンアン言っちゃって、うふふふふ、遂に陥落」
『友人相手にエロ本の内容を嬉しそうに伝えるお前は何なの? 頭おかしいの?』
「2話目でね?」
『続き物!?』
「どうしても先輩を独り占めしたい後輩ちゃんが、男を呼びだして勝負を仕掛けるの。男を自分に惚れさせて、先輩とは別れさせて、その後男を切り捨てれば先輩とは二人きりになれるわっていう。そこに一回セックス挟んじゃうのよねぇ。もうね、発想がエロ漫画」
『エロ漫画だからなぁ』
「まあ、最後は先輩が現れて彼氏との波状攻撃で後輩ちゃんを堕としちゃう訳なんだけど」
『後輩チョロいなぁっ!』
「で、3話目」
『もういい! エロ本の話はもう結構だ! 結論は何なんだ!』
「ここからがいいところなんだけどなぁ。エロ本って言うのはさ、抜けるだけじゃあダメなんだ。心に残るストーリーが無いとさ」
『売れないけどな。そういうエロ本』
「わたしはね。中学も三年生になってそういう可愛い後輩が欲しいなって。ちゃんと可愛がってやれる先輩になりたいなって。そう思うんだ」
『きれいにまとめてるつもりかもしれないけど、内容が屑だから。可愛がるの意味がド畜生だから』
「あーあ、エロくてチョロい後輩が告白してこねぇかなぁ!」
『シンプルに屑だな!』
「…………あ、今、凄いことに気付いてしまった」
『唐突に?』
「卒業して高一になったら、後輩ポジションにはなれるなぁ、って」
『……正気か?』
「ゆるふわ系の先輩────女子校ならではの無垢な存在────後輩からの下克上攻め――――悪くない」
『悪いよ。悪魔かお前』
「わたし、これから色々と頑張るよ――頑張りますわ。憧れのお姉様と釣り合うように!」
『会ってもいない相手のために――――告白はするよりされたいとか言っておいて』
◆
「世の中は間違っている!」
『!? びっくりしたなぁ。久しぶりだねそれ。一年ぶり二回目?』
「花の高校一年生だぞ。言っちゃあ何だがわたしは可愛い。頭も良い。スポーツだってできる。クラスでも人気者なんだ。
なのに。
何故!?
わたしには恋人がいないんだ!!」
『女子校だからじゃない』
「そんなはずないだろう。こんなに可愛い後輩が告白してきたら普通OKするだろう。わたしなら即日ベッドインだよ!」
『そんなはずあるんだよ。同性で肉食系の後輩にガツガツ来られたら怖くて引くわ』
「おかしい。おかしいよ。恋人が欲しいよぉ」
『肉欲優先で動くからダメなんだよ。もっと自己分析してみたら?』
「自己分析したらどうなるのさ」
『恋人を作りたいなら、大切なのはIだろ?』
「――――――――どういうこと?」
『いや、だから、私って意味のIと、愛情って意味をかけて……言わせんなよ、分かるだろ!』
「? ? ああ、なるほど?」
「分かれよ! ああ、もう、君とはやっとられんわ! もういいよ!」