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19-3.(社会的に)デスゲーム・その3

 思ったより長くなったので分割投稿しています。

 未読の方は19-1からご覧ください。

[ジャッジ! 『春』の罰ゲーム終了]

【それではゲームリセットです。皆様、山札から一枚ずつ引いてください】

「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっ!」

 淡々と進行する天の声にみかんからの物言いが入る。

「ちょっと待ちなさいよ! す、進めるの? っていうか、これってどうなの。ネットとはいえ、流せるの? これ、ダメな感じの動画になってないかしら」

【当社は過激さを売りにしております。私共も事前調査の段階で把握しておりました。ここまでの内容で放映できない映像はございません】

 愕然とするみかん。足下が崩れたような、所在の無さを醸している。

「嘘でしょ。これで問題無しなわけ? 政府は何をやってるのよ。だってこれドラマとかじゃないのよ。台本のないリアルな事件じゃない。法律は? 日本の法では裁けないことなの?」


「この国に近親相姦の罪はないわ。結婚できないだけでね」

 さなえ、復活。だがその目は未だ淀んでいる。


「あっ……ご、ごめんなさい。この場で一番辛いのはあんたよね。弟が、その、あんたからすると妹になるのかしら。二人で――――っごめん! なんでもない…………」

 あれだけいがみ合っていたというのに、憎しみは更なる衝撃にかき消されて霧散した。みかんのさなえへの想いは今や哀れみしかない。

「いいの。いいのよ。

 続けましょう。ゲームを。あたしは勝つわ。もう、それしかない……」


 ポイントはセイメイだけが更新された。

 ヤマジ :1ポイント

 みかん :1ポイント

 さなえ :6ポイント

 セイメイ:6ポイント


 そしてゲームはリセットされ、再び手札は新しくなった。

 その内容は次の通り。


 ヤマジ :標的は『夏』(さなえ) 禁止行為は『「嫌」と言う』

 みかん :標的は『秋』(ヤマジ) 禁止行為は『首を傾げる』

 さなえ :標的は『夏』(さなえ) 禁止行為は『五歩以上歩く』

 セイメイ:標的は『冬』(みかん) 禁止行為は『「五月蠅い」と言う』


 意気消沈するさなえが二人から標的にされた。泣きっ面に蜂である。

 ここに及んでみかんは意識を切り替える。哀れみは持ってもゲームはゲーム。容赦・手抜きなど無くさなえを、他のプレイヤーを叩きつぶすつもりでいた。特に変態とケダモノには手加減する必要を感じない。

 だが、秋桜姉弟に対してポイントで大きく離されているのが現状。追いつき巻き返すためにはさなえを狙い撃ちにして、且つ、誰かの手札の内容を指摘して当てるしかない。

 みかんが求めるものは圧倒的な勝利だ。ホーラ社の執り行う過激なゲームでグゥの音もでないほどの一人勝ちを掴み取る。そうしてネット配信を通じて自分の有能さを広く知らしめ、名声を手に入れる。それを足掛かりに世界規模でのし上がるのだ。


 ターゲットに狙いを定める。

 視線の先にはさなえとセイメイ。二人は寄り添い合って――――っていうか、セイメイが自分の手札をさなえに見せている。


「いいの?」と目で訴える姉に「いいよ」と目で応える弟。


「はい、禁止行為を指摘します」

「ちょっと待てぇーーーーいっ!」

 うっかり見過ごしそうになったが、間一髪で間に合った。運営からの承諾が出る前に物言いを入れる。これがみかんに出来る精一杯の抵抗であった。

「堂々とイカサマしてるんじゃないわよ! そんなの、自分で指摘するのと何が違うのよ」

「ルールの上では、不正はしてませんよ。先程追加で禁止されたのも、『自分の手札の禁止行為を指摘』することだけです。他の人の札を見てはいけない、とは言われていません」

「屁理屈だわ! 常識で考えれば、やっちゃいけないことなんて分かるでしょ!」

「分かりますよ。だから『確認している』んです。それで、今回の場合はどうなるんでしょう?」

 天井を見上げて訊ねる。しかし天の声は答えない。


 少しだけ間が空いた。

 みかんはセイメイを睨み付けていた。

 ヤマジは下半身を落ち着かせるのに必死だった。

 さなえはとりあえずぼんやりして回答待ち。

【お待たせしました】

 そして裁定が下った。


【今回の件は、『自分の手札の禁止行為を指摘する』ことの類似例とし、今後自分の札を見せること、他人の札を見ることを故意に行った場合、マイナス三ポイントの上で罰ゲーム一回を受けて頂きます。

 ただし、元々は私共の不手際でありますので、今回に限り不問とさせて頂きます。禁止事項の指摘が行われる前でしたので、ポイントの増減も罰ゲームも無しで、リセットして仕切り直しとさせて頂きます】


 セイメイは肩をすくめる。みかんは「当然よ!」と言った態度。ポイントを取り損ねたさなえは不満顔で、ヤマジの勃起はようやく納まった。

 しかしゲームはセイメイの思惑通り進んでいる。今度はペナルティー無しに無事姉の不利な状況を抜け出せた。


 そして再びゲームが始まる。


 ヤマジ :標的は『春』(セイメイ) 禁止行為は『舌打ち』

 みかん :標的は『夏』(さなえ)  禁止行為は『首を横に振る』

 さなえ :標的は『秋』(ヤマジ)  禁止行為は『「よし」と言う』

 セイメイ:標的は『冬』(みかん)  禁止行為は『勃起する』


 みかんは思わず舌打ちした。残り時間は三〇分を切った。この短時間で標的のさなえに禁止行為を四回以上行わせ、且つ誰かの禁止行為を言い当てなければいけない。しかし手札の内容は『首を横に振る』。実に分かりやすい動きだ。誰からも指摘されることなく四回。やり過ごすことが出来たとしても、圧勝とは言い難い。


 ヤマジは舌打ちしたみかんを確認し、「これがセイメイだったら……」と内心落ち込む。気分は無駄打ち。損はしていないのに、得をしていないことに気落ちしていた。


 さなえはとにかく禁止行為を見破ることに注視している。リセットタイムが一番時間を稼げるし、成功すればヤマジ・みかんの両名を更に引き離すことが出来る。姉弟で大きくリードを広げているこの状況、一ポイントを争う必要はない。このままゲームを流すことが出来れば、自然、姉弟のどちらかが勝つ。


 セイメイは自分が引いた禁止行為の内容に頭を抱えていた。『女性相手に勃起させる』というこの難題。勃起とは男性器だけでなく、女性の陰核や乳首に対しても使う言葉であったはずだ。その点で言えば、罰ゲームにより下着を脱いでいるみかんが標的であるのは不幸中の幸いである。胸のポッチさえ確認できれば一ポイントだ。

 しかし、まずもって何をどうすれば乳首が勃つのか。

 流石に無理矢理触って揉んで興奮させるのは無理だ。番組が許しても世間は許すまい。


 膠着すればみかんは勝てない。なのでここで賭けに出た。

「運営に質問があるわ。もしもわたしが一度に三人分の禁止行為を宣言した場合、ポイントはどうなるのかしら」

【一度に指摘する旨を宣言前に伝えて頂ければ、三人分の判定をいたします。三つの指摘の内一つでも正しければ当たった分と間違えた分のポイントの合計を得られ、間違えた分だけ罰ゲームを行って頂き、そこでゲームはリセットされます。

 ただし、一人相手に複数の指摘をすることは出来ません。対象一人に対して、一度に指摘できるのは一回までとさせて頂きます】


 この解答にみかんは拳を握った。一度に三人分指摘し、正解できればポイントは九点。みかんの持ち点は十ポイントとなり、逆転も可能である。そして二位に四ポイントも差を付けられれば、それは圧勝と言っても良いだろう。

 喜色満面。喜びで血が滾る。


[デンデデーン♪ 『冬』が禁止行為を行いました。『春』に一ポイント]


「ええ!?」

 みかんとセイメイが同時に驚きの声を上げる。

 特にセイメイは、何故今この瞬間にみかんが勃起したのかがさっぱり分からなかった。


 だが、禁止行為の判定が下った瞬間、勃っていた。確かにみかんに乳首は勃っていたのだ!

 己のファインプレーにより逆転の芽が出たという、その事実に興奮して!


 何かしようとする度に墓穴を掘るみかん。その無様な様子を馬鹿にして、さなえはやれやれといった様子で首を振る。


[デンデデーン♪ 『夏』が禁止行為を行いました。『冬』に一ポイント]


「どえぇっ!?」

 そして自らも墓穴を掘る。

 しかしこの痛恨のミス(ファンブル)がゲームを大きく動かした。


 今さなえが取った行動は『人を馬鹿にした態度』、そして『首を振る動き』。更には無言であったため、NGワードの禁止行為ではない。一ゲーム目でヤマジの禁止行為となった『五分間沈黙』も侵してはいない。ならば選択肢は二つに一つ。

 この手札を持つのはみかんだ。自分の手札の内容は指摘できない。

 ヤマジは例え指摘が合っていてもポイントが足りず優勝できない。しかし秋桜姉弟のどちらかに正解されれば更に引き離される。しかもゲームがリセットされ、さらに計三回分の罰ゲームによって時間が失われる。八方塞がりのこの状況。

 現在六ポイントの姉・さなえ。七ポイントの弟・セイメイ。どちらかが外しても、どちらかが正解する。結果、どちらに転んでも秋桜姉弟の優勝がほぼ決まる。


 さなえは娯楽を求めて参加した。なので勝敗など最初からどうでもよかった。

 セイメイは姉に応募されての強制参加であった。なので最初は勝利など求めていなかった。


 しかし、ここで両者の違いが現れた。

 姉・さなえは『罰ゲームですらどうでもよかった』。

 弟・セイメイは『姉に罰ゲームを受けさせたくなかった』。そして、ゲームを続けるうちに『賞品が必要になった』。


 結果――


「禁止行為を指摘します」

 手を挙げたのは、セイメイであった。


【それでは、禁止行為の指摘を行う前に、『冬』・『夏』お二人の罰ゲームを執り行います】


 みかんは逡巡した。ここは手早く罰ゲームを終え、ゲームをリセットし、短い時間に賭けて再挑戦するしかない。だが。

 圧勝の目は消えた。勝ちの目も薄い。無念――その思いがみかんの動きを止める。されど強制執行まで引きずるのは往生際が悪い。結果、緩慢な動きでボールを引く。

「『その場で下着を脱ぐ』。もう履いてないっつーの! なんでわたしばっかり同じ札引くのよ! どうなってんのよ運営!」


 お前が一番罰ゲームやってるからだよ。運営含めて皆が思った。


 続いてさなえがボールを引く。みかんと違ってこちらは躊躇わない。だがその後ろでセイメイが祈りを捧げている。「どうか、無難な罰ゲームで終わりますように」と。

 だが現実は非常である。さなえが引いた罰ゲームは――

「『初めて性行した相手の名前は?』」

 セイメイが一番引いて欲しくなかったものであった。一方でさなえは「この瞬間を待っていた!」と目を輝かせている。

「ほーん。随分と嬉しそうですこと。ラブい夜を過ごしてるお相手ってのが初めての人なわけ?」

「その通り。昨日もヤったよ!」

「お熱いことで。はぁ~あ、もういいわ。わたしの負けは決まったようなもんだし、あとはあんたらの勝手にしてちょうだい」

「なんだよ~。聞けよ~。

 まあね、あたしもね、妹に先を越されてたことには驚いたけれども。結局最後は生きてる方が勝ちって事でね。両親の許可も貰ってるらしいし、ここで一発宣言しとくしかないでしょ」

「はいはい。あんたの彼氏になんか興味ない――――なんかおかしな事言わなかった?」


「言うぞ! ほら、カメラアップ! どこにあるか知らんけど。

 あたしの初めての相手は! 『秋桜セイメイ』! だ!」


 ピースサインに満面の笑顔。だがその言葉は常軌を逸している。一瞬意味が分からなかったみかんだが、事実を飲み込むにつれ、化け物を見るような表情に変わっていく。


 勃起してばかりの性欲の権化。

 嬉々として近親相姦を公表する気狂い。

 二人の姉と関係を持った恐るべき性の怪物。


 この空間には変態しかいない!


「いやぁぁぁぁ! 助けて! 出して! こいつらと一緒にしないでぇぇぇっ!」

 みかん絶叫。貞操の危機を強く感じたが故の狂乱。だが扉は閉ざされている。ゲームは続行される。


【それでは禁止行為の指摘に――――移りたいところですが、時間的に、これが正解すれば『春』の優勝が決まります。折角なので、優勝賞品に何を望まれるのか、視聴者にお伝えください】

「僕が望むのは、次回以降のゲームで――」

 セイメイの元々の望み。ゲーム参加者を事前に調査することは聞いていたので、その調査内容を破棄して貰うつもりであった。しかし想像以上に入念な調査をされていることを知った今、口約束だけで全ての情報を無かったことにして貰えるか、不安が残る。更に言えば、自分のことがどこまで調べられているのか、その全容を把握したかった。

「――運営として、参加させてください」

 なので、セイメイはホーラ社の内部に入り込むことを望んだ。


 数秒、返事を待つ。

【セイメイ様は今回のゲームで運営側の不手際を指摘してくださいました。貴方のような方が主催者側に付いて下さることは、私共にとっても喜ばしい事です】

「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですよ」

【世辞などと、とんでもない。

 さて、お待たせしました。それでは、『春』は禁止行為の指摘をお願いします】

「…………『冬』の手札を指摘します」

 二択の問題。しかし、確率が高いのは『首を振る』事だと思っていた。『馬鹿にした態度』というものは個人の主観が入るし、否定することも出来る。禁止行為として設定するには不適切だ。それでも『ない』と言い切れないのは、運営のルール設定がザルなせいもある。そしてセイメイは選択した。

「『冬』の持つ札に書かれた禁止行為は――『首を振る』」


[ジャッジ! 『冬』の手札が言い当てられました。『春』に三ポイント。言い当てられた『冬』は罰ゲームを執り行ってください]


【コングラチュレーションズ! おめでとうございます。この時点でゲーム開始から二時間が経ちました! 優勝は『春』の秋桜セイメイ様です!

 優勝賞品は先程望まれた『運営への参加』の権利! 私共は貴方様を歓迎致します、セイメイ様!】


 興奮した天の声。流れてくるファンファーレと拍手の効果音。


 今宵集った四人の戦いはこうして幕を閉じた。しかし、セイメイの本当の戦いは、ここから始まると言ってもいい。賞賛の言葉を受け取る中で、彼は静かに闘志を燃やすのであった。


 ◆


「…………何この感じ。ゲーム終わった? わたし罰ゲームしなくていいの?」

【いえ、最後の締めとして、『冬』の罰ゲームを執り行います。それでは、罰ゲームボックスからボールを引いて下さい】

「はいはい。ほんじゃあさっくり終わらせちゃいましょう。

 ええと、『今現在好きな人を告白して下さい』。急に――なんていうか、落差激しいわね。小学生か」


 みかんはカメラにドアップで映されながら答えた。

「お父さん」


「おめぇもファザコンの変態じゃねーか!」


 ― 完 ―

 これはもっと長い話で書き直せる気がする。

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