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19-1.(社会的に)デスゲーム・その1

 思ったより長くなったので分割して投稿します。

 今宵集められた参加者は四人。


 金欲しさに参加した小春ヤマジ。

 名声を求めて参加した甘夏みかん。

 娯楽のために参加した秋桜さなえ。

 姉が勝手に応募した秋桜セイメイ。


 勝者には報賞として『何でも一つ願いが叶えられる』夢のゲームが、今、始まる。

 ※ 叶えられる望みは主催者が出来る範囲に限られます


「ははぁん。見事に春夏秋冬で揃ったわね」

「いや、冬がいないでしょ。秋が二人いるから。僕ら名字一緒だから」

 さなえの言葉に即反応するセイメイ。

「あんたら漫才でもしに来たの?」

 馬鹿にした様子でみかんが揶揄する。

「違いますけどっ!!」

「分かってるから。分かって言ってるから。

 ごめんなさいね、ウチの姉、ちょっとアレなもんで」

「あたしが間違ってるみたいな言い方やめてもらえます~? 甘夏は夏みかんだけど旬は冬なんです~。ほんで早苗は夏の季語なの! だから春夏秋冬揃ってるね、で合ってるのよ!」

 豆知識を披露したさなえが勝ち誇る。

「知ってるわよっ!!」

 ガチ切れし返すみかんに対して、「ああ、こっちもか……」と落胆せずにはいられないセイメイ。

 ちなみに我関せずと傍観を決め込むように見えるヤマジは、心の中で「小春も冬の季語なんだぜ……」と思いながらも口に出来ないでいた。


【お疲れ様です。準備はよろしいでしょうか?】


 一気に険悪な空間になった小さな部屋に、司会進行の天の声が届く。

【皆様、本日はホーラ社のゲーム企画にご参加頂きありがとうございます。

 事前説明の繰り返しとなってしまいますが、今回、ゲーム中の行動は全て記録され、ネットを通じて配信されます。また、過激な内容の罰ゲームなども用意されておりますが、その結果生じる不利益・損害に関して我が社は一切の責任を負わないものとします。

 ただし、リスクに見合うリターンはもちろんご用意しております。

 それではリアルタイム二時間に渡るゲームをお楽しみください。


 と、その前に。

 皆様既にご察しの通り、我が社の社名にちなんで、季節の入った氏名の方にご参加して頂きました。各人の名前がそのまま役割となっております】


 天の声による説明が進む中、突然天井から大きな名札が落とされ、傾聴していた一同は飛び退くほど驚いた。ポーカーフェイスを気取っていたヤマジも内心はドッキドキだ。


「はー、ビックリした。どこが社名にちなんでるのよ」

「姉さんそっち!?」

「ふん。ホーラってのはラテン語で『季節』って意味なのよ」

「へー。知ってたわ」

「知ってたんかい!」

 とボケだか天然だか分からない会話の中、天の声だけは動じない。


【そこには皆様の名前と、それにちなんだ役割が書かれています。視聴者の方に分かりやすいよう、胸元へお付けください】

「凄いですね。この流れでなんて事務的な」

【お仕事ですので】


 ビジネスライクな物言いに合わせて淡々と従う四人。

 しかし、各々の名札を改めて確認したところで疑問の声が上がる。

「わたしが甘夏だから役職が『冬』なのは分かるわ。秋桜さなえが『夏』なのも自分で言ってたから。

 けど、なんで弟君が『春』で、こっちのでかいのは『秋』なわけ?」

 字面だけ見れば小春は『春』、秋桜は『秋』だろう。そしてヤマジは内心「小春は冬なんだぜ…………」と一抹の寂しさを覚えていた。


【それはご本人様がよく御存知でしょう。敢えてご説明申し上げるならば、清明(セイメイ)が春の季語、山嵐(やまじ)が秋の季語となるためです】


「へー」←知らなかった

「知ってたわー」←知らなかった

「僕の名前は春だったのか……」←知らなかった

「…………」←知らなかった


【さて、それではルール説明をさせて頂きます】

「ルールなら聞いたわよ」

【視聴者様向けの説明ですので、お手数ですがお付き合い願います】

「やーい、怒られてやんのー」

「怒られてないわよ。うっさいわね」


一.参加者は山札からカードを一枚ずつ引く。札には禁止行為が書かれている。

二.参加者はサイコロを振り、出た目で標的となる季節を決める。

  例:春が四を出した時、夏→秋→冬→夏で標的は『夏』

    秋が五を出した時、冬→春→夏→冬→春で標的は『春』

三.標的が、自分の引いた札の禁止行為を行えば、自分に一ポイント。

  自分の札の禁止行為を誰かに言い当てられた場合、言い当てた人に三ポイント。

  禁止行為を宣言して間違えた場合は持ち点からマイナス一ポイント。

  ただし持ち点は零ポイントより下がらない。

四.禁止行為をしてしまった場合、または言い当てられた場合、罰ゲーム。

  禁止行為の指摘を間違えた場合も罰ゲーム。

  罰ゲームを行う本人がボックスからボールを引き、そこに書かれた内容を行う。

  拒否した場合、または五分を過ぎた場合、強制的に執行される。

五.禁止行為が言い当てられた場合、ポイントを引き継いで一から仕切り直し。

六.二時間のゲームを終えて累計ポイントの一番高い一人が優勝。


 ルールに従い四人は札を引き、賽を振った。

 その結果は次の通り。


 ヤマジ :標的は『冬』(みかん) 禁止行為は『欠伸(あくび)

 みかん :標的は『夏』(さなえ) 禁止行為は『溜息』

 さなえ :標的は『冬』(みかん) 禁止行為は『「なるほど」と言う』

 セイメイ:標的は『秋』(ヤマジ) 禁止行為は『五分間沈黙』


 みかんは全員を見渡してニヤリと笑みを浮かべた。標的はさなえ。初めから気にくわない相手だった。それは良い。しかし二人から標的にされたことで多少不利。逆に誰からも標的にされていないセイメイがやや有利。その点で運が絡む。しかし、自分に不利なターンは誰かの禁止行為を指摘することで仕切り直すことが出来る。

 つまりこのゲーム、不利なターンは誰かと協力してでもとっとと禁止行為を言い当て、有利なターンは長引かせつつ禁止行為を標的に促すことが肝心。

「なるほどね」

 ルールを読み切った、と確信しての言葉であった。


[デンデデーン♪ 『冬』が禁止行為を行いました。『夏』に一ポイント]


「はぁーーーーっ!? ちょ、おぅぇ~っ!??」

 困惑するみかん。呵々大笑のさなえ。

「ば……馬鹿す…………馬鹿すぎる…………ひぃ~、く、苦ちぃ~」

「おま、こ、この……っ!」

「あっはっは、ほら、さっさと罰ゲーム引きなさいってのよ。あっははっは……はぁ~」


[デンデデーン♪ 『夏』が禁止行為を行いました。『冬』に一ポイント]


「えぇえぇえぇぇっ!!?」

「あらやだ。こんな所にも馬鹿がいるわ。馬鹿笑いする大馬鹿が。やーねー、知能指数が低いって」

「オー、マイ、ガッデム」

【お二人とも、罰ゲームボックスからボールを引いてください】

「分かってるわようっさいわね。わたしから引くわよ。はい、これ!」

【罰ゲームの内容を読み上げてください】

「えー、『今週したオナニーの回数は?』。なんじゃこりゃ!」

 ヤマジは内心「AVのインタビューかよ」と思った。

「AVのインタビューかよ」

 セイメイは口に出していった。

「あんた、AVとか見るのね。お姉ちゃん、弟のそういう生々しい性活事情とか聞きたくなかった」

「ん!? いや、んんっ? み、見るよ。健全な男子だから。……見るよね?」

 セイメイはヤマジに同意を求めるが、むっつりヤマジは目線をそらして我関せずを決め込んだ。

「ほんで、みかんちゃんは今週何回ミカン汁プッシャーしたわけ?」

「しないわよ! バッカじゃないの!」

 顔を真っ赤にしてみかんは吠える。しかし運営は非常である。

【罰ゲームは不正の無いようにお願いします。虚偽の申告を続けられる場合、証拠映像を以て強制執行します】

「証拠映像って何よ。盗撮? 犯罪じゃないの!」

「そういう契約だったでしょ。嫌ならギブアップしてお帰りなさいよ」

「……っか、この、……くっ!」


 しばしの沈黙。天の声によって告げられるカウントダウン。

 やがてみかんは覚悟の声を上げた。

「……かぃよ」

「はい?」

「二回よ!」

[ジャッジ! 『冬』の罰ゲーム終了]

 羞恥に顔を染め、涙を目尻に溜めながらも、みかんは罰ゲームを乗り越えた。

 しかしその告白を聞いた男性二人はなんか悶々とした気持ちになるのであった。


「わたしは終わったわよ! 次! 早く引きなさいよ!」

「はいはい。で、引いたら読めばいいのね? えーと、『今週したオナニーの回数は?』」

「運営ちょっと顔出しなさいよ! ぶっ飛ばしてやるわ!」

「あたしそういうのしないのよね。ゼロ回」

「はぁーっ!?」

[ジャッジ! 『夏』の罰ゲーム終了]

「はあぁーーーっ!!??」

「何を大騒ぎしてるのよ」

「納得いかない!」

「って言われてもね-。真実だからねー」


[デンデデーン♪ 『秋』が禁止行為を行いました。『春』に一ポイント]


「…………は?」

 女性二人から揃って間の抜けた声が上がる。『秋』のヤマジは(だんま)りしたまま、微動だにしていないはずであった。しかし禁止行為の判定を取られている。そして本人も信じられないといった表情だ。

「どういうことかしら。あたし達のオナニー回数聞いて興奮した? ちょっとみかんさん確かめてよ。あいつチンコ()ってる?」

「知らないわよ! 弟さんに聞きなさいよ」

「いえ、僕は答え知ってるので。ノーコメントで」


 ――じゃあ、やっぱり()ってたんだ。


 女性二人に軽蔑の眼差しを向けられ、ヤマジは目を伏せた。禁止行為を「勃つ」事だと疑われている。濡れ衣なのだが、興奮はしていたので強く否定も出来なかったのだ。

 そして罰ゲームのボールを引く。そこに書かれた内容は。


「『今週したオナニーの回数は?』」


「運営コラー! 降りてこい運営! 説教してやる!」

【たまたまです。同じ内容の罰ゲームが四つずつ入っているので】

「ボールだけにたまたまですってか?」

「ああ、なるほどね。って、お馬鹿!」


[デンデデーン♪ 『冬』が禁止行為を行いました。『夏』に一ポイント]


「あー! ちくしょー!」


【盛り上がっていて何よりですが、まずは罰ゲームの執行をお願いします】

「……覚えてないな。あー、多分、二十二?」

[ジャッジ! 『秋』の罰ゲーム終了]


「ちょっと待って。おかしくない? 一週間って七日よね」

「あたしらと罰ゲームの内容一緒だったよね。あれ、違った?」

 女性二人はこそこそと話す。疑問をぶつけ合う。

 だがそれがただの事実の確認でしかないと悟った時、二人は恐怖におののいた。

 寡黙なウドの大木は、敵にもならない朴念仁だと思っていた。

 しかし、違う。

 怪人。フリーク。モンスター。

 いや、彼を表す端的な言葉が存在する。


『性欲の権化』


【『冬』は罰ゲームボックスからボールを引いてください。もしもし、聞こえていますか?】

 天の声を聞き、我に返る二人。

「シット! ちょっと考え事してただけよ。引くわ、引けばいいんでしょ」

 ボールに書かれた内容は――


「『その場で下着を脱ぐ』――――だと――――?」


 息苦しさを感じる。なんたる変態行為。しかし、先程の恥辱に比べれば――下着だけ脱いだところで何を見られるわけでもない。この場で脱ぐというのはもちろん恥ずかしいが、紳士であれば当然目を背けるはずだ。


 そう――紳士であれば――――


「はぁ……はぁ……はぁ……」

 意図せず呼吸が荒くなる。それは羞恥から来る艶やかな吐息ではない。恐怖から生まれたプレッシャーだ。


 見られている! 性欲の権化に!!


 脱がなければいけない。五分が経てば強制執行。誰とも知れぬ運営に無理矢理下着を脱がされる恥辱。自分で執り行う方が圧倒的にマシな状況。


 ――しかし出来ない。『見られている』恐怖がそれを許さない。飢えた捕食者に狙われている感覚。『足が竦む』と言う初めての経験。


 だが、そこへ、差し伸べられる救いの手。

 さなえとセイメイの二人が、ヤマジとの間に壁になるように立ち塞がる。

「あ……あんたたち…………」

「話は後よ。ちゃっちゃと済ませちゃいなさい」

 手早く下着だけ脱ぎ捨てた後、みかんは腕を組み高圧的な態度で応えた。

「ふあ~あ。欠伸が出るわね。温いんじゃないの、あんたら。

 お礼は言わないわよ」

 だがその口元は微笑んでいる。

「でも、この借りは絶対に返――」

[デンデデーン♪ 『冬』が禁止行為を行いました。『秋』に一ポイント]

「――っ! 運営! 空気読め運営!」

【ルールですので】


 善きライバル風に応えようとしていたさなえもこれには流石に呆れ顔だ。

「いやちょっと待ってよ今のは不可抗力でしょだってわたし自分の禁止行為分かってないし二人から標的にされてて不利な立場だし」

「いいよ。やめろよ見苦しい。さっさとボール引いて罰ゲーム終われよ」

「あぅあぅあぅ…………」


[デンデデーン♪ 『秋』が禁止行為を行いました。『春』に一ポイント]


「どのタイミングで!?」

 またもやみかん・さなえ両名のセリフがハモる。しかしそうは言ってみたものの、二人の中で答えは決まっていた。

 脱ぎ捨てられた下着。性欲の権化。そして禁止行為の抵触を告げる天の声。

 ならば導き出せる解答は自明のものである。

 みかんは自分の下着をそそくさと拾い上げ、ポケットに無理矢理詰め込んで隠した。


 ヤマジは悲しんだ。内心「濡れ衣なのに……」とも思っていた。そして何故禁止行為を宣言されたのか考える。ヤマジは先程から――いや、この部屋に入ってからこちら、基本的には黙りで、腕を組み壁にもたれかかって立っているだけなのだ。なのに禁止行為と取られる。女性陣が疑うように本勃ちしているわけでもない(半勃ちだと否定できない)。


 ともあれ、まずは罰ゲームである。

 みかんが引いたボールの文言は――

「『今週したオナニーの回数は?』。二回だっつったろーがー!」

【ボールを投げ捨てるのは危険なのでおやめください】

「うっさい! 出てこい運営!」


【続けて『秋』は罰ゲームボックスからボールを引いてください】

 ヤマジが引いたボールの文言は――

「『初めて性行した相手の名前は?』」

 罰ゲームボックスには同じ内容の罰ゲームが四つずつ入っている。なので処女であるみかんはホッと胸を撫で下ろした。そして目敏くもセイメイが引きつった笑みを浮かべたことに気付いていた。

 同じ罰ゲームばかり引いた時は「テストプレイしてないのかよ!」と憤ったものだが、こうして「内容が分かるからこそ罰ゲームをやりたくない」と必死になる展開もあるということか。

「なるほどね」

 一人呟く。

[デンデデーン♪ 『冬』が禁止行為を行いました。『夏』に一ポイント]

 そして案の定、このざま。

 周囲の視線が居たたまれないものに変わっていた。


 自ら墓穴を掘っていく甘夏みかん。今一番罰ゲームを受けている女。

 続きます。

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