14.レディ・ピンクを拘束中
人権戦隊ヒトレンジャー。
日曜朝から放送している世の少年達に人気の戦隊ものその中の一作である。
そしてなんやかんやあってピンクが敵に捕まった。
詳細は省く。大切なことはお色気担当のピンクが敵に捕まったという一点のみだからだ。
「くっ! おのれサイバーンの怪人め! この拘束を解きなさい!」
「ふぁーっふぁっふぁっふぁー。解けと言われて解くやつがどこにいるものか」
敵に捕まったピンクは変身前の姿で歯医者にある診察イスみたいなやつに縛り付けられていた。しかも足下はM字で拘束だ。大股開きの開脚である。
しかし、正面から映す時は上半身のみ、全身を映す時は背後からというカメラワークにより、健全な少年少女に卑猥な思いを抱かせない抜群の構図であった。一方、健全でないお父さんは想像力を働かせてニンマリだ。
「一体何を企んでいるの、サイバーン!」
「教えてやろう。今からお前を洗脳し、権利や平等なんて寝言は吐けない性格に矯正してやるのさ。そして憎きヒトレンジャーを内部から崩壊させてやる! そうなればインダストリアル・ジャパンなぞ我らの手に落ちたも同然!」
「な、なんて邪悪な考え! そんなこと、わたしがさせるものですか!」
「はーっはっはっはー! 威勢はいいが手足を縛られ身動きとれないその状態で一体お前に何が出来るというのだ!」
「洗脳なんて! かかってやるもんか! お前達の言いなりになんか決してならない!」
「威勢はいいようだが、それもいつまで保つかね。お前達、例の物を持って来い」
指パッチンと共に部下に合図を出し、直ぐさま大きな機械が運び込まれる。
「な……何よこれ…………」
「見えるかね。この細長い無数の電極が。こいつを貴様の脳に直接突き刺し、電流を流すことで人格を矯正するのさ!」
これにはピンクもドン引きである。
「が、ガチ目のやつじゃないの。ちょっと、ヤだ、ムリでしょそれ!」
「大丈夫だ。脳には痛覚神経が無いから痛くはない」
「刺す時点で痛いでしょ! そもそも痛いとかの問題じゃない!
ねえ、低予算なんだからムリしないで。しょっぱい見た目と安価な合成でお茶を濁しましょうよ」
「なにか勘違いしているようだなピンクよ。我々は悪の組織だぞ。放送局の懐事情もスポンサーのイメージも一顧だにしない! これを機に放送枠も午前二時とかに移そうとしているのだ」
「深夜枠! それ二十六時の深夜枠だから! ますます予算付かなくなるから!」
「だが円盤は売れるぞ。主に大きなお友達に」
「売れるか!」
「売れる内容にするんだよぉっ! 貴様も洗脳を受けた暁には人権戦隊ヒトレンジャーのレディ・ピンク改め、サイバーンの怪人・桃色ビッチだ」
「いっそ殺せ!」
「じゃあ殺す」
「嘘! 死にたくない! あああ、死にたくないけど洗脳も嫌だ。わたしは一体どうすれば……」
「はーい、それじゃあビリビリしようねー」
「ポップな感じで作業始まってる……苦悩している暇もない…………。
あーわわわわわ。待って! 本当に待って! そ、そうだ、こうしよう。協力する! わたしの意思で協力するから!」
「信じられんな」
「ホントよ。正義の味方、嘘吐かない!」
「ふーむ……では、忠誠の証として質問に答えてもらおう。もしもそれが嘘であれば……分かっているな?」
「い、いいわ。何でも答えましょう」
「では第一問」 チャラッチャラン♪
「クイズ? クイズなの?」
「レディ・ピンクのパンツの色は?」
「……………………」
ピンクはちょっと迷った。何でもとは言ったが、あまりに下らない内容なのでツッコミ精神を発揮してキレようかとも思った。しかしヘタを打てば脳に直接電極を刺されるこの局面。短絡的な行動は出来ない。
「し、白……です」
ならば答える。恥辱に耐えてでもピンクは生き延びる道を選んだのだ。
「なんだ、ピンクの下着はピンクじゃないのか。がっはっはー!」
「くぅぅ……自由になったら覚えてなさいよ…………」
「では答えが本当か確認するか。お前達――いや、オレが直々に脱がしてやろう」
「どぅあっ! ちょっ、ふざけんな! レッドー! カントクー! やだ、マネージャー! 洒落にならないから! 助けてー!」
いつもなら仲間が助けに入り戦闘、敵の巨大化、合体ロボを呼んでからの勝利と大団円という流れである。しかし、来ない! 仲間は来ない!
台本も無視して既にグダグダのこの展開。それでもカメラが回り続けるのは円盤を売りたいスタジオの意向と、懐柔された事務所社長の思惑が合致しているためである。
ピンクに逃げ場無し! 急転直下のお色気担当へ転向コース!
「訴えてやる! 裁判だ! 弁護士を呼べー!」
「ちょっとそれ怪人側の捨てゼリフなんですけどー」
このあとマジギレしたピンクは撮影終了後にスタッフ全員しばき倒してレディ・ピンク役を降りた。
なお、いつもより過激にはっちゃけたこの放送は神回として色んな意味で話題になり伝説を残したという。