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1.レモンとイチゴ

 A子は日曜だというのに自分の部屋でゴロ寝していた。

 K子は日曜だというのに友人の部屋でだらけていた。

 つまり二人は日曜だというのに特にやることもなく、部活などもせず、勉強なんてなおさらで、恋人だっていなかった。いたことがなかった!

 最近の中学生は進んでいると言うが、それは一部の話で、遅れている奴はやはり年相応に遅れているのだ!

 (ゆえ)にである。K子がティーンズ誌のちょっと過激でアレなページを見てほんのりムラついてしまうのは自然な事なのだ。自然なことなのである!


「なぁ英子」

「なーにー、景子」

「キッスはレモンの味って言うだろ。本当かねぇ。本当にレモンなのかねぇ」

 そんな如何にも処女臭い会話を切り出してしまうのも自然と言えよう。

「レモン……イチゴじゃないの?」

「えぇっ! イチゴなのか。ヤベェな。メッチャ好みじゃん。イチゴ食べたくなったらキスするじゃんか。毎日するじゃんか…………」

 未経験のK子には驚きのカルチャーショックであった。

「いや、知らんけど」

 しかしA子も未経験であった。

「なんだよ、知らねぇのかよ。使えねぇ処女だな」

「使ってねぇから処女なんだよ。てかお前も一緒だろ」

「やめろよ指差すな、処女が感染(うつ)るわ。それよりちょっと今からスーパー行ってくる」

「お? おぅ、唐突だな。プリンも買ってきてよ。お金渡すから」

「ふふん、お子ちゃまめ。無垢な少女のままで待ってな。帰ってきたらキスの味を教えてやるよ」

「おぅ…………え? 何してくる気だ? え、ちょ、待ちなさいよって」

 予期せぬ返答に困惑するA子。しかしK子は不敵な笑みを残し去っていったのであった。


 それから二十分後。


 K子の思わせぶりな台詞に悶々としながら待っていたA子であったが、その様子を知ってか知らずか、勝ち誇った顔をしてバカが帰ってきた。

「待たせたな! ほら、プリン」

「……サンキュ。それで、なんだ、キスは? あー、してきたのか?」

 なんだか照れくさくてK子の顔をまともに見られない。しかしその初心(うぶ)な様子にK子はご満悦のようだ。

「がっつくなって。ほら、買ってきたぞ」


 ――買えるのかよっ!?


 近代化の進んだ日本はやっぱりすげぇなと驚愕したA子であったが、すぐに冷静さを取り戻した。バカがビニール袋からレモンとイチゴを取り出して並べ始めたからである。

「大丈夫。二人分ある」

 へへへっ、と嬉し恥ずかしの照れ笑いをするK子を見て、A子は困ったように微笑んだ。自分より格下を見るとホッとする。優しい気分にもなれる。今丁度そんな感じだったからだ。「仕方ねえな。付き合ってやるか」と寛大な心で受けとめてやることにしたのだ。


 二人は並んでレモンを囓った。すっぱかった。

 K子が言った。

「すっぺーーーーーー」

 A子が言った。

「すっぺーーーーーー」


「これがキッスの味だというならわたしは一生しないでいいや。なあ、英子」

「いや、構わんよ。私はするよ。チュッチュするよ。軽い感じで。唇が触れあう程度で」

「おい卑怯だぞ。じゃあわたしもするよ。毎日するよ」

「むりすんなよ」

「『行ってらっしゃい』と『お帰りなさい』で二度するよ!」

「年間七百三十回もチュッチュすんのかよ。淫乱だな。恐るべき性欲だな」

「そんなに!? 参ったな、七百回超えるのか……うーん、まあ、うーん。まあ、頑張るけど」

「頑張り屋さんめ!」


 次に二人でイチゴを食べた。甘酸っぱかった。

 K子が言った。

「うまい! これがキスの味か!」

 A子が言った。

「……そんなにか? ハズレ引いたかな」


「いやー、これならいけるだろう。日に三度でもいけるだろう」

「一年で千回以上もやんのかよ。怖いわ。景子さん怖いわ。ところで他のイチゴもそうでもないんだけど。これ安い奴だろ。ケチったろ」

「イチゴはイチゴだろう」

「いや、イチゴにだって色々あるだろ。私がいつも食べてるのはもっと甘いもの。甘くて酸っぱいもの。甘酸っぱくてもっと美味しいもの!」

「なにぃ? じゃあ、どういうことなんだ。チッスはこれより甘くて酸っぱいのか。なんてこった。夢心地じゃないか。すげえな。キスしたい。彼氏が欲しい」

「どんな理由で欲しがってるんだ。イチゴ食べてろよ。彼氏作るよりお手軽だろ」


 その後二人でプリンを分け合い、キスの味について軽く意見を交わしあったあと、K子は帰って行った。そのうち日が暮れて、A子の弟が部活から帰ってきた。

「ようお帰り。今日、景子来てたよ」

「知ってる。帰りに会ったから、送ってきた」

「なんだと、ひゅーひゅー、色男め」

 そしてすかさず閃いた。これはぶっきらぼうな弟をからかうチャンスだと。

「今日は景子とキスについて話してたんだよ」

「聞いたよ。相変わらず二人してバカなことばっか話してるんだな」

「わはははは、生意気な奴め。キスの味も知らないくせに言いよるわ」

「いや。今日は――――プリンの味だったな」

「はぁ~ん。


 …………ん?」


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