第8話 ~第二回龍災調査評価委員会~
シャクマ15年 6の月 13の雷 昼
場所:環境省第一大会議室
出席者:
●アオイ 環境省・環境大臣
●ゴットー 環境省・自然環境局・自然災害対策課 課長
●バッシュ 環境省・自然環境局・野生生物課・希少種保全推進室 課長
●セコンジ 環境省・自然環境局・総務課 調査官
●ウィオ 環境省・自然環境局・総務課 (書記)
●デッチ 環境省・自然環境局・総務課 (会場セッティング)
●ベアリウス 防衛省・防衛戦闘局・大型獣課 副課長
●匿名希望 天文台より
●ザウ 環境省・龍災対策室・室長
●ヤイ 防衛省・防衛戦闘局・大型獣課
「……報告は以上です」
書類を読み終えたヤイは、前に並んで座る五人に一礼して一歩下がり、ザウに並んだ。知能が上がる眼鏡をくい、と触る。
会議室は重々しい空気に包まれていた。ザウは重苦しい空気に嫌なものを感じながら、影の国の者の習性で、全員を"掃除"するのは一苦労だな、とぼんやり考えていた。
しばし間があってから、自然災害対策課長のゴットーは首をコキコキ、と鳴らして、けだるげに口を開いた。
「よく頑張ったねぇ。ただ、想像を確信めいて書くのはよくない。ましてこんな不穏は内容は、ねぇ」
「ですが、"人間が龍を操れる"とすれば、危険な龍より危険です」
ヤイはすぐに言葉を返す。想定された反応だった。
「それは勿論。出されたら負けの札をチラ見せされたようなものだからねぇ。ただ、その意味が本当にわかってる?」
「……ただちに対応が必要、ということですか?」
「若いね。世界の終わりを国民に知らせる必要があるか? ということだよ」
ゴットーは抑揚なくそう言って、ブラックコーヒーをひとすすりした。ゴクリと、飲み込む音が会議室の静寂に響く。
ヤイは反論のために口を開いて、しかししばし言葉に詰まる。
「チッ」
一番端に座る防衛戦闘局大型獣課副課長のベアリウスが、あからさまに舌打ちした。
「どうしたい、ベアリウスさん」
ゴットーは顔を向けずにベアリウスに尋ねる。
「不甲斐なし。堂々と敗北宣言するなら、さっさと尻尾を巻いて逃げればいいものを。そんなものに呑まれる未熟者も腹立たしい」
低く太い声。獰猛な目つきでゴットーとヤイを睨む。
「そうは言ってもねぇ。国宝でも手当たり次第に捧げてみるかい?」
「愚問だ。爪を隠し続けた鷹は、爪が錆びるのに気付けもしない。だから嫌なのだ、この手の茶番は!」
ベアリウスが吼え、部屋全体が裂帛の気合に震えた。
「おぉ、怖い怖い。今震えた子たち、忘れるな。見られてたよ」
震えたセコンジ、ウィオ、デッチ、ザウはそれぞれ恐怖した。
『結論、龍は倒せる。自明なこと』
突如、部屋の隅に置かれた通信魔導具から、怪しく揺れる声が響いた。
「……天文台からの方。見学のみと聞いていたけどねぇ?」
ゴットーの声音に、ベアリウスに対するものとは異なる緊張が走る。
『動機、龍を解体し、豊富な魔力を山分けしたい。協同出来る組織は?』
「気が早いねぇ。そりゃあ出来れば千年安泰だけどねぇ」
「山分けなど笑止千万。対等な相手と行うものだ」
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一方その頃、ザウとヤイは会話に入る余地がなく立ち尽くしていた。
「なぁなぁ、俺たちに椅子ないのか?」
「そういうもんなのよ。我慢しなさい」
二人はこそこそ会話する。
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「やめ」
それまで黙っていたアオイが、面倒そうに片手を挙げた。
それだけで会話が一度止まった。
「環境省は破滅主義者でも自然主義者でも征服主義者でもない。具体的にどうするかだ。テレーゼくん、だったかな?そちらは何をしてくれる?」
『結論、魔素分解。龍ですら時間を掛ければかじれる』
「ふむ。それは凄い」
龍は魔力密度が濃く、それは物体としての堅さや、魔術行使の際の強さとなって現れる。
古龍ともなれば、いかなる攻撃やいかなる魔術も受け付けない、と言っても過言ではない。
「では、今後の龍災対策室は"龍への対処"と"人災想定"で動くように。また、"龍への対処"について、テレーゼくんと協議すること。"人災想定"については、また後程会議しよう。デリケートな問題だからね。一旦今日はここまで。お腹空いたよ」
アオイのその一声で、会議は終了した。