第6話 ~秘匿されしもの~
「発見が遅すぎる?」
ザウは改めて報告書をしげしげ眺める。
「そりゃまあ……そういうこともあるんじゃないか? ちょっと気を抜いてたとか」
ヤイはふう、とあからさまにため息をつく。
「この国の監視体制、どのくらい知ってる?」
「ええ? そうだな~……」
ザウは天井を見上げる。
「報告書にある城壁監視兵だろ?近くの村とか街の巡回兵とか、街道の商人警備隊も実質そうか。あとは魔力の極端な変動には世界樹の苗が反応するとか……あ、周辺の強い国にいる密偵もそうかな?」
「そうね。まだあるけど……発見って、この国だけの話じゃないのよ。龍が住めるような山はこの辺りにはない。地理的には北か南だろうけど、どっちにしろ、ここに辿り着く前に発見されてなきゃおかしいのよ。災害発生は日中だしね。念のため調べたけど、周囲の村が急に滅んだりはしてなかったわ」
「? あー、滅ぼされてれば通報できないってことか。こわー」
「ま、とんでもない上空から飛んできたなら別だけど……それでも、"天文台"だけには引っかからないとおかしい」
「テンモンダイ?」
「知らない? 周辺の魔力の増減を、結構広範囲で観測してる施設。主に超遠距離攻撃や、大規模なモンスター発生に備えてるらしいけど……龍なんて魔力の塊もいいところだもの。見逃しようがないはずよ」
「ふうん。でも、報告書にはそんなのなかったぜ?」
「ええ。つまり、機密情報A以上ってこと。"天文台"の存在自体は隠匿されてない。むしろ国の魔術の技術力を喧伝する格好の材料だから、成果はことあるごとに発表されてる。でも今回は隠ぺいされてる。それはつまり、『何かあった』、ってことよ」
「何かって、なんだ?」
「さあね。例えばだけど……龍がなんらかの手段で"天文台"の目をごまかしたとしたら、他国には知られたくないでしょうね。利用されかねないから。でも……」
そこでヤイはハッと口を手で押さえた。
「どした?」
「これ……どっちのほうが悪いのかしらね」
ヤイは苦々しげに言ってから、
「あたし、さっきまで"新種の龍が出た"、と思ってたのよね。姿を隠せるタイプの。それはそれで大変なことなんだけど……」
「そういう龍って、今までいなかったのか?」
「詳しいことは専門家に聞きたいけど……あたしが知る限りではいないし、龍のイメージに合わないわ。だって、隠れる必要ないんだもの。強すぎて」
「ああ、そりゃそっか」
本来、龍に狙われる、というのはそのままその国の滅亡を意味する。
故に、片手の指で数えるほどの龍を撃退した英雄譚が長く詠われるのだ。
「でも、例えば龍同士の戦いで必要になったり、突然変異だったり……そういうことはあるかもしれない、と思ってた。でも……もっと悪い可能性があるわ」
「えーと……テンモンダイにスパイがいるとか?」
ザウの指摘に、ヤイは目をぱちくりとさせた。
「そっち? いや検討はするべきかもだけど、他の監視網にも引っ掛かってないワケだから一回置いといて」
ヤイは存在しない箱を横に置くジェスチャーをしてから、
「──つまり。人間の手引きがあった可能性がある、ってことよ」
どこか厳かに、そう言った。