第4話 ~(困惑の)聞き取り調査~
■避難所の聞き取り調査1
「いや~、ほんまに! ほんまにあかんわほんまに~! 焼けてねん家が!! こんがり! 柱だけ残ってもしゃ~ないねんほんま! もう~!! どうせなら全部燃えろっちゅ~ねん!! なぁ?」
「は、はぁ……その、龍の姿とか…見ました……?」
「龍て! そうそう龍ね! なんやお隣のシャマルさんは見たみたいやけどね~! 知っとる? あのシャマルさん」
「い、いえ」
「なんや知らんの遅れとんな~。まあええわ。あそこびゃー行ってびゃー行ったらおるから! 行ってみぃ! まだ生きてたらやけどなー! わはは!」
「う、ういす」
■避難所の聞き取り調査2
「龍…ですよね。すごい風と炎が来て……しばらくして空を見たら、去り際が見えたんですけど……龍かどうかまでは……」
「空に何かいた……ってことですか?」
「はい……みんなが『龍だ!』って言ってたので、そうなのかなって……」
「なるほど……色くらいは見えました?」
「うーん……白と青……?」
■避難所の聞き取り調査3
「いや、あれは竜巻だったね」
「竜巻……?」
「そう、自然現象。炎は竜巻のせいで火事が起きただけ」
「龍を見たっていう証言がありますけど……」
「パニックになるとよくそういうのを見るのさ。自分が被害に遭ってる時に、空を見上げてる余裕があるかね?」
「それは、まあ……」
「風で巻き上げられた家財か何かを、見間違えたんだろう。龍が国を襲うものか。そもそもこの国は昔から龍と共に……」
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「うぇえ……なんか疲れたな……」
ザウはぐったりとして、避難所の外で座り込んでいた。
龍を見た、という目撃情報自体はかなり集まった。
しかしその内容は人によって大きく異なり、まとめようとすると龍なのかユニコーンなのかミノタウロスなのかわからなくなってくる有様だった。
これなら目撃者がいないほうがマシだ、などとザウがやさぐれていると、
「ふふん。その調子じゃ、上手くいかなかったようね」
何やら自慢げな様子のヤイが現れた。
「まーな。そっちは?」
「もちろん、バッチリよ。と言っても、基本的なラベル付けをしただけだけどね」
「ラベル付け?」
「……えーっとね。例えば、『同じ時間』に『同じ方角』で何件も目撃されてたら信憑性が高いでしょ? その辺がわかりやすくなるように、『時刻』『方角』『場所』みたいに項目を作って、わかりやすくしただけ。データの統合は部屋に帰ってからやるわ」
「なんつーか、助かるぜ」
「ったく、こういうのはそっちのほうが専門じゃないの?」
「いやぁ、今まで書類仕事はしてこなかったからなぁ。掃除ばっかで」
「ふうん。ま、これから覚えなさい。室長サマなんだからっ!」
ヤイがザウの頭を叩こうとしたが、ザウはサッとかわした。
「まっ生意気」
「どっちがだ!」
などとわちゃわちゃしながら、二人は一旦、環境省にある龍災対策室に戻り、情報の整理を行った。
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「ふう。こんなものかしらね」
二、三時間ほどの作業を終え、ヤイはわざとらしく肩を叩いた。
「おう、お疲れさん。どうだ?」
ヤイが作業をちょうど終えた頃に、ザウが部屋に戻ってきた。
ザウは途中までヤイの作業を手伝っていたが、「それより欲しいものがあるのよ」とヤイに頼まれて外に出ていた。実際のところは、ザウの作業の遅さに困ったヤイが体よく厄介払いをしたのだが、ヤイはそれを悟らせなかった。
「時刻と方角と、時間はだいたいわかったわ。短時間で、真っすぐ来て、同じ方向に帰ってる、可能性が高いわ。つまり、通りすがりではないわね。この国を狙って来てる」
そう言ってから、ヤイはザウの淹れたコーヒーを飲んで、苦味に顔をしかめた。
「ミルクないの?」
「え? 大人ってみんなブラックじゃないのか?」
「んなわけないでしょ。……影の国ってそうなの?」
「個体による好みの違いとかは、あんまないなぁ」
「ふぅん。楽そうなんだか、大変そうなんだか……ま、いいわ。そっちは貰えた?」
ヤイが尋ねると、ザウは誇らしげに胸を張って書類をばばん、と掲げた。
「どら! 機密情報様のお通りだ!」
「はいはいすごいすごい。早く出して」
「ちぇ」
ザウはテーブルにドサリ、と書類を置く。書類には機密情報を表す紋様と、防衛省の管轄を表す判子が押されていた。
「っていうか防衛省の管轄なら、わざわざアオイさん経由で手に入れなくてもよかったんじゃないか?」
「しょうがないでしょ、あんたの仕事が……こほん。ま、いいじゃない。報連相ってヤツよ。こっちが何してるか把握してるほうが、大臣サマも動きやすいでしょ」
「むぅ。それはそーか」
実際のところ、ヤイの本当の狙いは、──ザウの厄介払いのついでに──環境大臣が、防衛省に対してどの程度影響力を持っているか確かめることだった。
基本的には、防衛省はこの国の省庁で最大の影響力を持つとされている。国を守る軍隊が含まれているため、当然と言えば当然だ。
その組織に対して、どのくらいの早さで、どのくらいの深さの情報を引き出してくるか。ヤイがアオイを試した形だ。
もちろんヤイは、アオイが自分の意図を察するだろうことを想定しているし、それでも協力はするだろうと予測していた。いわゆる「お手並み拝見」、ということだ。
そしてその結果が、この中にある。
「開けていいよな?」
そんな駆け引きを全く知らないザウは、宝箱を開けるのをおあずけされている冒険者のようにそわそわしている。ヤイはやれやれ、と肩の力を抜いた。
「開けていいわよ」
「よっしゃ!」
そして、機密情報が開かれた。