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エピローグ ~それぞれの未来へ~


 いわゆる"ノット・エンヘル龍災"は、こうして終息を迎えた。



 その後の、それぞれについて。



 ガーンバルド城塞王国当代王女、フィオナ・スン・ガーンバルドは意識を回復した。

 全ての経緯を聞いた王女は涙を流し、それでも先を見据えてただちに政務を再開した。

 フィオナには、ひとりだけ特に親しい影武者がいた。

 その影武者も亡くなった。高貴な言葉遣いが下手だったその少女がどの"フィオナ"だったのかは、もはや誰にもわからない。



 グレイリー博士は相変わらず、個人的な興味と好奇心のみに基づいて武装を作り続けている。

 ザウとヤイのコンビにもまだ興味はあるが、いつ次の何かに興味が移るかは本人にもわからない。



 ファニンは特に変化がなく、のんびりしたたかに文化交流を続けている。

 "龍災"に関しては、「よかったですね~。龍が負けたって感じではないですけど~」というような温度感だった。



 メルリはこっそりデレムを狙っている。もちろん龍の背に乗るという目的のためだ。またその前段階として、ドラゴンライダーの資格取得を目指して修行中だ。



 パミックは今回の活躍で、ドラゴンライダー部隊のひとつを任されるようになった。

 ただ人間にあまり興味がないので、人間関係には大変苦労していた。



 "天文台"の面々は、変わらず魔術の研鑽を積んでいる。

 "世界樹の息吹"と"創生光"の衝突は、魔術の歴史上でも類を見ない大きなもので、非常に有益なデータとなった。このデータは、世界樹の魔力を利用した新魔導兵器の開発に役立てられている。

 また、"龍災"での共同作戦が()()()()()という感想もあり、一時的に共同研究案件が少し増えたりもした。



 クローズは変わらず、第2部隊長として苦労している。

 "龍災"の影響で、デレムの監視・牽制役も任されるようになり、ますます責任が増えた。

 


 大型獣課の3人組は、変わらず仲良くやっている。

 ヤイとメニィは恋の話を相談し合う仲になった。具体的な内容は、2人だけの秘密だ。



 ゴットーは環境大臣に就任した。

 環境省は国の暗部を引き受けている面が大きく、汚れ仕事を厭わない人間が求められていた。

 そのため、ゴットーは"龍災"での活躍が非常に誇張されて発表された。具体的には、ノットの"制圧"は主にゴットーとテレーゼの2人によって成し遂げられたものとされた。

 ゴットーに関する部分では、"弾丸"や、アオイと"影の国のもの"の関係など、公に出来ない部分が多かった。それ自体は慣れているゴットーだったが、過剰に祀り上げられるような形での抜擢にはさすがに辟易としたが、拒否はしなかった。



 アザレアの死後、アザレアを主として、あるいはアザレアが信仰していた何かを主として崇める新興宗教が、いくつか勃興した。また、蘇生術士そのものの倫理性が問われるなど、かなりの波紋が生じた。

 アザレアに蘇生された人間を追跡調査したところ、比較的不幸に見舞われやすいというようなデータは得られたが、ひとまず致命的というほどでもなかった。現在も調査は続いている。

 "腕"については完全に緘口令が敷かれたが、一部の国民には目撃されており、「いい子にしないと"腕"が来るよ」というような民間伝承として長らく伝えられることとなる。



 ベアリウスは防衛省・防衛戦闘局・大型獣課の、課長に昇進した。

 これは課長であるギィルが辞職したためだ。

 ギィルは飛行船の爆発寸前に脱出しており、何日も死の淵を彷徨う重傷を負っていたが、持ち前のタフネスで何とか復活した。長いリハビリを終えた後、民間会社で飛行艇を作り、運搬業を営みながら世界を飛び回る、という壮大な野望を打ち立て、颯爽と辞職していった。これには大型獣課のみな、あまりの破天荒さに笑うしかなかった。

 ベアリウスとギィル、2人で飲み会をする機会はあり、飲み比べはやはりギィルが勝った。



 デレムはしばらく北の山から帰って来なかったが、復帰してからはダロウという偽名は止めて、第一部隊長デレムとして活躍を続けている。

 デレムの母親が犯した罪について、デレムが責任を問われることはなかった。そうするには"龍災"におけるデレムの功績が大きすぎる上に、ただでさえ王国が不安定な現状、わざわざ戦力を減らすことはあり得なかった。



 ノットは"龍災"の首謀者として、制圧され、その場で処刑された、とされている。

 "天文台"のノットの研究室は、侵入の難易度が高く長らく放置されていたが、"天文台"所属の、熱心なノットのファン──テレーゼではない──が突破を成し遂げた。中にある解析困難なガラクタの山は、何年かに一度、"天文台"に重大なインパクトを与える"びっくり箱"扱いされることとなった。



 テレーゼは"創生光"の攻撃を受け、半身をほとんど失っていたが、水晶体を移植することで復活した。

 半獣人、ならぬ半水晶人となったのだ。これは王国どころか世界で類を見ない成功例で、"天文台"の非常に高度な魔術あってのことだが、当のテレーゼはこの体験から、その先を思い描いた。

 すなわち、水晶そのものに命を与える、"水晶生命体構想"である。

 テレーゼの「魔力の分解・吸収」に特化した魔術は、この構想に充分応用できた。

 ただし完成には、非常に長い時間と多くの資金が必要になるのが明らかだったため、テレーゼはまず資金管理からしっかりしようと心に決めた。



 アオイは名誉の戦死者のひとりとして、墓地で眠っている。

 ヤイとザウはもちろんとして、多くの人間が訪れているため、墓はいつも綺麗で、花が絶えない。




 そして、ザウとヤイは──




------------------------------------------------------------------------


「ふわぁ……今日もいい天気だな……」


 汚染が収まった世界樹の下で、ザウとヤイは日陰で日向ぼっこをしていた。

 ザウはヤイの膝を枕に、目をつぶってうとうとしながらあくびをした。


「もう、気ぃ抜いちゃって……いいけどね」


 "龍災"後、龍災対策室は解体され、ザウは環境大臣補佐に異動となった。

 ヤイは防衛省・防衛戦闘局・大型獣課の副課長となった。ベアリウスの後釜に座った形だ。


 ヤイはなんとなくザウの頭を撫でながら、周囲の慌ただしい祭りの準備の様子を眺めている。



 "ノット・エンヘル龍災"から2年の時が過ぎた。

 ガーンバルド城塞王国の年に1度の建国祭は、"龍災"の影響を受け、鎮魂祭の意味合いを強く持つようになった。

 世界樹の周りに魔力の火を灯す小さなキャンドルライトを並べ、祈りを捧げ、灯が世界樹に吸い込まれる様子は幻想的で、神聖なものとなった。

 それはそれとして、祭りなので屋台が出たり催しものもたくさんある。国民たちはその準備に明け暮れていた。

 1年ごとの祭りが、今年も開かれる。


「平和になった……ってことでいいんだよな?」


 "龍災”後のガーンバルド城塞王国は、変わらず戦乱の中にありながらも、大きな衝突はなく、ある意味では平穏な日々を謳歌していた。復興も順調で、経済も上向きになっている。


「いいんじゃない? こうやって、のんびり出来てるんだから」


 2年の間に、ザウとヤイが個別で戦いに臨むことはあったが、2人がコンビを組んで戦わなければいけないほど緊迫感のある戦いは発生しなかった。部署も違うため、仕事上ではあまり会う機会のない2人だが、ザウの仕事がまぁまぁヒマなので、ザウは何かと理由をつけてヤイに会いに行っていた。上司であるゴットーはそれを黙認していた。


「うん……。あ、そうだ! ()()()()さ──」


 ザウは突然上体を起こし、ピッタリくっつくような距離でヤイを見つめる。


「そっ、そろそろ──なに?」


 ヤイの頭の中に、色々な()()()()が駆け巡る。

 端的に言えば、ザウとヤイ、2人の関係はそれほど──時々、お互いの部屋に眠りに来る程度で──進展していなかった。


 ザウは目を輝かせ、のんきな声で──


「そろそろ──観光用の飛行船が完成するらしいぜ! 今度行ってみようぜ、別の国とか!」


「ああ…………そうね」


 どうせそんなことだろうな、とわかっていたヤイは、肩を少しガクッとするだけで済んだ。

 しかし、ザウの提案自体は魅力的ではあった。国内のめぼしい観光地は、すでに一通り2人で回っていたので。  

 

「え、あんま乗り気じゃない?」


 ヤイのリアクションに、ザウは不安そうにヤイをのぞき込む。

 ヤイは()、と小さく笑ってから、小刻みに頷きながら答えた。


「いいわよ、一緒に行きましょ。わたしも思ってたのよね、()()()()って」

「おー、やった!」



 無邪気に喜ぶザウ。

 ヤイは微笑みながら、ザウの頭を胸の内に引き寄せ、つむじの匂いを嗅いだ。



 気の抜けるような、不思議と落ち着く香りがした。


 

 


 これにて完結となります。最大で8年間(!?)の長い間のご贔屓、ありがとうございました。

 

 ご愛読、ブックマーク登録、総合評価など、誠にありがとうございました。続けていく中で大変励みになりました。

 また何かしら書こうと思いますので、お見掛けの際はのぞいてみて頂けますと幸いです。


■参考文献

ケニー&ドラゴン ~伝説の竜退治~ トニー・ディテルリッジ(訳 水間千恵)

→ドラゴン資料。本編に出たものだと、鱗とか、冷血動物とか。


 ではまた。

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