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第3話 ~被害調査~

「……嘘だろ……」


 全壊……62棟。

 半壊……93棟。

 一部損壊……812棟。


 記録上のデータを、もちろんザウは知っていた。

 しかし現場を見たのは、これが初めてだった。


 バラバラの破片になった家。他の家から飛んできた石の破片のせいか、穴だらけになってとても住めそうにない家。

 火炎に穿たれ、焼け落ちた家。風によって飛び火した形跡も随所に見られる。

 道はひび割れ、陥没している箇所もある。その頼りない道を、被害を受けた国民が忙しなく行きかい、復興作業に勤しんでいる。


「死人が出てないのは……不幸中の幸いってヤツか……」


 この規模の被害で死者が出なかった、というのは僥倖でしかない。現場を直接見たザウは、そう体感した。


「そんなワケないでしょ。バカじゃないの?」


 ザウの頭を、ヤイがバシッと小突く。


「出てるわよ。蘇生術で蘇らせただけ。教会に問い合わせたら、ざっと40ってとこだったらしいわ。たまたまS級の蘇生術士がいたから手が足りたらしいけど、そうじゃなかったら間に合ってなかったでしょうね」


 蘇生術は、死亡から時間が経つほど成功率が下がる。しかも蘇生術士が複数人必要で、儀式には時間がかかる上に、魔力消費も激しい。

 今回のように大量の死者が出た場合は、死者以上の数の蘇生術士がいなければ全員の蘇生は不可能、というのが通説だ。



「そ、そうか……そりゃそうだよな……。俺はてっきり、龍が狙って殺さないようにしたとか……」


「ないない。ま、手加減はしてた──っていうか、攻撃したつもりもないでしょうね。龍が本気出したら、国のひとつやふたつ、バラバラのホイよ」


「改めてこえーな……」


「当たり前でしょ。だからこそ、しっかり駆除しないと」


 ヤイは被災現場を睨みながら、強い意志を込めて言った。


「あれ?でも、費用はどうしたんだ?」


 蘇生術を頼むには高額の費用がかかるため、その恩恵を得られない者がほとんどだった。


「国が出したみたいね。結界が破られたのは国の防衛力の問題だし……被害出まくりだと、内外で目ぇ付けられるでしょうしね」


 例えば外で言えば、龍の被害で国力が弱っていると見れば、好戦的な国は戦争を仕掛けてくるかもしれない。

 内で言えば、龍の被害で死者を出せば、国内の龍を信仰する派閥と、そうでない国民との軋轢は悪化する。それを避けようとした国の思惑と、それを予測して全ての蘇生を片っ端から引き受け、利益を得た教会──という構図だ、とヤイは続けた。


「……単に国と教会が協力して助けた、ってことにならないか?」


「ならないわよ。あんたが純粋無垢な平民なら、日記にそう書いていいけどね。大きな力を動かしたいなら、いいモノもいやなモノもちゃんと見なさい」


「……そうだな」


 ヤイの忠告に、ザウは思わず素直に頷いてしまった。同時に、ヤイ=ゴックスの経歴を思い出す。


 この若さで、ワイバーン三体の単独討伐を成し遂げた、魔導拡張義足の使い手。

 その無茶は、襲われていた小さな村を守るための行いだった。

 そしてその代償として、右手の手首から先は義手になっている。ただし黒い手袋を嵌めているので、傍目から見てもわからない。


 ヤイはそれ以外にも、護衛任務などで国外に赴くことが多く、魔物との実戦経験が非常に豊富だ。

 対してザウは、国内での諜報任務や、危険人物の「清掃」が主な仕事だ。少なくとも、龍を相手取るのにどちらが向いているかは明らかだった。


「それじゃ、聞き取りに入りましょ。ここと避難所で、二手に別れる。それでいい?」

「あ、ああ……じゃあ俺が避難所で」

「オッケー。終わったら連絡ちょうだい」


 二人は国から支給された通信用の魔石を持っている。国内なら──正確には、世界樹の影響範囲でなら、音声での連絡を取り合える優れモノだ。世界樹のマナを特殊な製法で閉じ込めたそれは、世界樹を切り出して作られた木製の腕輪に付けられており、淡い緑色に輝いている。


「それにしてもお前……真面目に仕事するんだな」

 

 面接時の様子とは大違いなので、ザウはつい言ってしまった。

 ヤイは「はぁ?」という顔でザウを見てから、


「しょーがないでしょ、仕事なんだから。言っとくけど、あんたが上司なのが一番イヤポイントだからね。オトナじゃないし、なんにも知らないし、……無駄に顔がいいし」


 ヤイの最後の呟きは、ザウには届かなかった。


「へーへー。俺だって好きでこんな職に就いたワケじゃねーけどな。……でも……」


 この目の前に広がる悲惨な光景を見なかったことにして──自分が望む「平和な世界」を実現できるのだろうか。できたとして、心から楽しめるのだろうか。


 そんな疑念が、ザウの心でじわりと渦巻いていた。

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