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第38話 ~決戦当日.9──"世界樹の息吹"、発射~

~ガーンバルド城塞王国 モルダ河~


「モルダ河排水処理完了! 上昇気流放射! "世界樹の息吹"発射装置、浮上作業開始!」


 王国で一番大きな河がせき止められ、一時的に排水処置がなされた。

 あらわになった底のコンクリートがゆっくり左右に開かれ、巨大な穴が生まれる。穴に落ちるはずのゴミや泥は、風魔術によって穴の範囲外──河や道路に弾き飛ばされる。


 しっかり固められた土の土台と共にせり上がってきたのは、世界樹の根の端っこだ。

 土台に空いた大穴は地下を経由して、王国中心に鎮座する世界樹の根と繋がっている。

 移動により根は引っ張られるが、根は地下の空洞で充分長さが余っており、またしなやかに伸びるため切れることはない。

 "世界樹の尻尾"とも言われるその部分を、魔術的な刻印と整形を行い、複雑に絡み合った根をくり抜くようにして大砲に換えたもの。それが"世界樹の息吹"発射装置だ。


 土台はゆっくりと、世界樹や城壁の高さを越えるほどに盛り上がり、遮蔽物なく戦場に届くところまで至った。


「各塔、術式発揮!」


 司令官、"当代王女"、フィオナ・スン・ガーンバルドの()()()()()()、"フィオナ"は、両腕を組んで指示を飛ばしている。"世界樹の息吹"には当代の王様、または王女の許可が必要だ。

 "世界樹の息吹"の高魔力による被ばくを防ぐために、"フィオナ"も含めて近くにいる作業員は全員、専用のピッチリした作業服で全身を包んでいる。


 女王からの通信を受け、ガーンバルド城塞王国の城壁に沿って作られた4つの監視塔、そのてっぺんにある魔力保存用の水晶球の周りにいる魔術士たちが詠唱を始める。すると水晶球が輝き、長い時間をかけてため込まれていた魔力が、光を一点に集めるように"世界樹の息吹"発射装置に集中した。



 ここまで派手な戦争になると、さすがに多くの王国民が事態に気付いていた。

 しっかり雨戸を閉め、家にこもる者。

 見物する者。

 国に怒るもの。

 祈る者。

 反応は多種多様だった。



 "世界樹の息吹"発射装置の空洞は、段のついた円になっており、奥にいくにつれ円が小さくなってく。

 その構造の中で魔力が回転しながら、最奥部で最も濃密に集約される。

 空気がごうごうと流れるような、凄まじい()()()()が鳴り続ける。


「"世界樹の息吹"砲台、動作異常なし!」

「日頃の整備に感謝ですわー」


 "世界樹の息吹"が前回発射されたのは、100年以上も前のことだ。環境省・世界樹内施設管理課の長年に渡る丁寧な整備作業がなければ、今日この危機に対応できなかったことだろう。


「対象の魔力反応、探知成功!」

「よろしいですわ! 誘導魔力線、当て!」


 "世界樹の息吹"発射装置から放たれた極細の線が、戦場の一点を射す。

 その線自体に威力はない。"世界樹の息吹"そのものを、正確に相手に当てるための措置だ。


「遮蔽物僅か! 推定減耗率7%!」


 誘導線の周辺、つまり"世界樹の息吹"通過範囲には、戦場の敵味方の兵士がそれなりの人数が含まれていた。ただしその中の人間、つまり大型獣課や第一部隊の面々は、誘導線の意味を理解しているため、速やかに通過範囲からの離脱を始めた。


 ただ、誘導線の範囲から逃げない者も数名いた。

 それは誘導線の終端。

 ノットの"創生砲"を発射させまいと時間を稼いでいる、第一部隊の()()()()()()()()()だった。


「充填魔力、発射可能量に達しました! これ以上は測定不能です!」

「王女! 対象の高魔力反応、安定! ただし魔力量はこちら同様、測定不能! 衝突による影響は未知数です!」


()()()()()ですわ! 充填しながら、押し切るつもりで撃ちなさい! 焼き切れたらそれまでよ! "王女"の名の元に、正義の鉄槌……もとい、世界樹の浄化の裁きを受けなさい! "世界樹の息吹"、発射!!!」




 巨大な生き物が空気を大きく吸い込むような、風の動き。

 それが最高潮に達した時、ため込んだ魔力が回転する超魔力の波動となって、渦巻きながら発射された。



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~ガーンバルド城塞王国南側 戦場~

 

 時は、"世界樹息吹"発射、数分前に遡る。


「もうっ…うっとうしいのばっかり!」


 ノットの光線が、第一部隊の数人を、鎧ごと盾ごと打ち抜いていく。


 "創生光"の発射には、14の"宇宙の雨粒"の属性連結が必須となる。

 1発目ならいざ知らず、2発目の準備には少し時間がかかっていた。しかも邪魔がひっきりなしに入るため、何度かやり直しになった。


「うぉおおおっ!!」


 第一部隊員の、渾身の斧の横薙ぎ。


「龍が斧で切れるかぁっ!」


 ノットは魔力で強化した腕で、がっしり斧をつかみ取り、持ち上げ、隊員ごと放り投げた。


「ぜぇぜぇっ……んっ?」


 ノットの心臓──1番魔力が濃い箇所に、細い光が当てられていた。

 光の先を辿る。バーンガルド城塞王国の中心部、世界樹を越えたあたりに通じている。


「これは……例のやつかなー?」


 ノットも仮にも"天文台"在籍魔術士なので、"世界樹の息吹"については知っていた。

 ただし、威力は数字上では知っているものの、"創生光"をぶつけてみた時に、どちらが勝つかはわからなかった。

 それでも、さすがのノットも、"世界樹の息吹"をまともに食らっては消し炭も残らないだろう。

 ノットはやや急いで、残りの"宇宙の雨粒"を生成し、"創生光"の準備を終えた。


(エンヘル)じゃなくて、こっち狙いかぁ! いいけどね……じゃ、わたしも全力でいくから……消し飛べ! 人類!!」



 この"試練"で溜まった鬱憤もこめた"創生光"が、"世界樹の息吹"砲台めがけて放たれ。



 人類史上稀に見る大魔力の衝突に、世界が慄き、轟音と共に打ち震えた。




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