第35話 ~決戦当日.6──"黄金行進号"、爆散!~
~ガーンバルド城塞王国南側 戦場上空~
白い巨躯を、黒い残像が襲っている。
「かっ……たいっ!」
ヤイはベルダドラゴンの攻撃を受けることなく、一方的に攻撃を続けていた。
ベルダドラゴンが鈍重なのではない。ヤイとザウが異常に早かった。
ベルダドラゴンの翼の裏。股の下。尻尾の付け根。顔面。
ありとあらゆる場所を、急停止と急制動を繰り返し、刺々しい脚部武装で抉るように蹴りつける。
打撃と斬撃の中間のような鈍い音が、何度も何度も響く。
元々ヤイの武装に飛行機能はなかった。
しかし、魔導拡張義足_影灼嵐_九十九対龍専用型に改装したことで、飛行能力を得た。ただし、それはザウの支援──影で空中に足場を作る能力を前提としている。前回のノット戦のようにザウが武装から剥がされれば、申し訳程度に設けられた滑空機能を使って軟着陸するしかない。
「ヤイ! 体!」
「うんっ!」
ザウの言葉に、ヤイはほとんど瞬間移動のようにバックステップした。
「ゲァアアッ!」
ベルダドラゴンの咆哮。
ベルダドラゴンの全身から、魔力の波動が発される。
ヤイはその範囲から既に退避している。
ここ数分の戦いで、ベルダドラゴンの魔力放出は口と全身から放出されることが判明していた。
この2パターンの内、口からの放出は見た目で予測できるが、全身からの放出はほとんど身体的な予備動作がなく、予測が難しい。ただし、ほとんど魔力そのものの存在に近い"影の国のもの"のザウには、ベルダドラゴンの体内の魔力流が明確に感じ取れるため、充分予測できるのだった。
「まだいけるけど、これっ……ちょっとハードねっ!」
超スピードと慣性を無視した停止。
武装の補助があるとはいえ人体へのダメージは少なくなかった。
そのため、フルパワーでの長時間戦闘は推奨されてはいなかったが、ヤイはここで時間稼ぎをしなければならない理由があった。
1つ目は、飛行船を安全地帯まで逃がすため。2つ目は、地上部隊が飛行船の代わりに氷雲を晴らす作業を邪魔させないためだ。
「これだけ時間を稼げば──あれ?」
高速戦闘の中で、ヤイは貴重な数瞬を使い、キョロキョロと周り見渡し、それに気づく。
「飛行船……どこ行ったの!?」
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~ガーンバルド城塞王国南側 戦場~
「オレの技は近距離向けだ。任せていいか? ベアリウス」
デレムを先頭とした第一部隊と、ベアリウスを先頭とした防衛省・大型獣課は、連携して氷龍結晶体の群れを撃退しつつ、目的地である氷雲の中心部まで到達していた。
「ふん、よかろう。その間、しっかり守ってみせろ!」
ベアリウスは深い呼吸で、体内の魔力を練り上げ、徐々に体外に拡張していく。
魔力を視認できるものには、ベアリウスの魔力が、徐々に膨らんでいく巨人のように映っただろう。
氷雲まで手の届くほど巨大化した巨人は、ベアリウスの動きと合わせて天を突く構えを取った。
「散れぇええいっ!!」
渾身の拳、一突。
氷の塊を掘削するような、甲高い音が響く。
が、拳は氷雲を貫けずに終わった。
「ぬぅっ。対策してきたかっ!」
本来、氷雲にそのような固さはない。ベアリウスは拳の感触から、氷雲が魔力的に強化されていることを感じ取った。
「ぬぅうううううっ!」
ベアリウスは続けざまに拳を叩きつけ続ける。
ガンガンガン、と殴るたびに、空から粉々になった氷の破片が降り注ぐ。
氷雲を削れてはいるものの、氷雲は大きく、氷龍結晶体の生成は止まらない。
「これは……時間がかかるかっ」
ベアリウスは、上空のベルダドラゴンと、テレーゼが展開した結界を交互に見る。
どちらも、いつ状況が変化するかわからない。一刻も早く氷雲を破壊する必要があるが、決め手に欠けていた。
と、その時。
『困ってるようだなぁあ! ベアリウス!!』
ベアリウスの通信機から、大きな声が響いてきた。
「ギィルか!? 脱出したのかっ!?」
『いや、まだだ! オレも船も終わっちゃいねぇえっ!』
「なっ……まさかっ!」
ベアリウスは氷雲をくまなく見渡す。
ベアリウスが破壊し、薄くなった氷雲の、上。
炎上しながら氷雲に突っ込もうとする、飛行船が見えた。
「あのっ……馬鹿者がぁあっ!」
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~ガーンバルド城塞王国南側 戦場上空~
墜落寸前の、飛行船"黄金行進号"内。
「氷雲上空到達! でも船長、もう無理ですぅ! エンジンもタービンも泣いてます!!」
『よく保たせたっ! 総員グライダーで脱出! 負傷者担げるやつは担いでくれっ!! 氷雲に引っかかるなよっ!!』
体質のせいで隔壁から出られない歯がゆさを感じながら、ギィルは指示を出す。
小さな爆発を繰り返し揺れる飛行船の後部ハッチが開き、次々と魔導グライダーが飛び出していく。
ただ、氷雲の下は氷龍結晶体に溢れている。生きて帰れるかどうかは完全に運次第だった。
「船長も早くっ!」
『オレは最後だ! いいから行けっ!』
ギィル以外の、最後の船員が飛び出していった。
ギィルはそれを確認し、動力部、兼船長室にしかないボタンの前に移動する。やけに大きな、赤い押しボタンだ。
エンジン・タービン臨界ボタン。
簡単に言えば、自爆ボタンだ。
『"黄金行進号"、よくやってくれた! お前と戦えたことが、オレの、オレたちの……誇りだぁあああっ!!』
ギィルは叩きつけるように、ボタンを押した。
エンジン・タービンが限界を超えて魔力を吸収し、運用しようとする。
相互に反響し合い、制御を失い、白熱し、膨張する。
一瞬、静謐な無音があり。
黄金の輝きを放ち。
"黄金行進号"が、盛大に爆発四散した。




