第34話 ~決戦当日.5──大空中戦~
~ガーンバルド城塞王国南側 戦場上空 ~
飛行船"黄金行進号"内。
「ノット隔離確認!」
『よぉおし、全速前進! 上空の雲をぶち払う!』
飛行船の船長、兼防衛戦闘局・大型獣課長のギィルは、船底の動力部で太く咆えた。
普段つけている、魔力抑制の包帯も指輪も外している。
包帯のせいで勘違いされがちだが、ギィルの体は危険量の魔力を放出してしまうものの、体や肌に見た目上の変化はなく、若々しく雄々しいただひとりの男がそこにいた。
「敵氷龍結晶体、多数接近!」
『魔砲弾全弾!…撃てぇっ!!』
船が大きく揺れ、左右6基の巨大な砲台から一斉に魔砲弾が放たれる。
弧を描くように、大波のように、前方の氷でできた龍の群れに襲い掛かる。
着弾、爆発。轟音と振動。
花火のように、美しさを伴った炸裂。
直撃を受けた氷龍結晶体たちが粉々になる。翼をもがれてきりもみしながら落ちていくものもある。
「効果あり! 前方開けました! ただ、数が多すぎます!」
『次弾幕用意、急げ! ワイバーン隊、頼むぜぇえっ!』
氷雲までは、まだまだ距離がある。ベルダドラゴンが飛行船に注目するまでに破壊しなければならない。
無数の氷龍結晶体たちが、飛行船を墜とそうと左右から群がってくる。
「させないッスよー! 行くよ、キューちゃん!」
パミックをはじめとした、ガーンバルド城塞王国の精鋭ワイバーン部隊が、すかさず護衛に回る。
サイズは同等。だが、ワイバーン部隊は騎手の指示により、的確に相手の頭上を取り、裏を取り、尻尾で叩き壊したり、ゼロに近い距離で火炎球を吐いて溶かし尽くしていく。
「にしても…数が多すぎるッス!」
実力はワイバーン部隊が上。
しかし、数は3倍以上の差があった。しかもノットが作った氷雲がある限り、無制限に増えていく。
ワイバーン部隊は連携を取りお互いをカバーするが、多勢に無勢で囲まれて、1組、また1組と堕とされていく。仲間のワイバーンの断末魔を聞くたびに、パミックは胸が締め付けられる思いがした。
『十秒後、第二波発射! ワイバーン部隊、よけろよっ!』
飛行船の砲台が光り始める。
「どわわわっ!」
ワイバーン部隊は、機敏な動きで射線から外れる。
『魔砲弾全弾、撃てぇっ!!』
派手な爆風が氷雲まで届き、わずかに雲を散らした。
『よし、このまま突入っ! 食われる前に食ってやれ!!』
手応えを感じたギィルが、拳をグッと上げる。
その瞬間。
『っ、とぉっ!! どぉしたぁっ!?』
船体に激しい衝撃。ギィルは揺さぶられ体勢を崩されたが、すぐ立て直した。
しかし、続けて不吉な爆音。船体が傾く。
「船長、船長! 下方から衝撃あり! 気付かれましたっ!」
『なにぃっ!!??』
「いやあんだけ派手に燃やしてたら当然ッスけどね!?!?」
パミックは思わず突っ込んだ。ギィルの驚きは通信で聞こえている。
パミックはまず、外側から飛行船のダメージを確認する。
後方六基の魔導エンジンの内、一基が破損、二基が炎上している。
船体は外壁にひび割れは見られるものの、致命的な損傷ではないように見える。どうやら直撃は避けられたようだ。
観察結果をギィルに報告しながら、パミックは、今度は地上のほうを確認する。地上側、ゴーレムや幻想兵と氷龍結晶体との闘いに混じって、ベルダドラゴンもいる。
その顔が、口が、こちらを向いていた。
ベルダドラゴンが上昇する。
「やっ…ばいッス! 完全に目ぇ付けられたッス!」
少なくなりつつあるワイバーン部隊が集結し、火炎球をまとめて発射する。
ベルダドラゴンは巨大化した火炎球を、鬱陶しそうに翼ではたき、容易く弾き飛ばした。それから更に速度を増しワイバーン部隊に衝突、2組を墜落させるも一顧だにせずに飛行船に向かう。
サイズ感が違いすぎる。人間と猫の体当たり勝負程度の絶望感。
「障害物にもならないッス…! 飛行船! 来てるッスよ!!」
『かかってきやがれ! 第三波、余波覚悟しろ!! 撃てぇっ!!!』
砲塔はすでにほぼ真下を向き、ベルダドラゴンを捉えていた。
飛行船とドラゴンの位置はかなり近い。
爆撃。命中。6発全弾命中。
直下での爆風に飛行船がモロに巻き込まれた。
飛行船のあらゆる計器が損傷し、あらやるアラートが鳴り響いた。
「船長ーっ! 機関部大破! 大穴開いてますっ! 姿勢制御不可能! 魔導エンジン5基不調! タービン回ってません!!」
『浮いてりゃいいっ! 負傷者は!?」
「負傷者多数! 機関長、機関士は……多分全滅ですっ!」
『っっ!! それでも!! ドラゴンはどうしたぁっ!!』
飛行船最大の火力が、望むべくもない近距離で全て命中した。
いくらドラゴンと言えど、多大なダメージを受けているはずだ。
そう思い、船外が見える装置を覗いたギィルの視界いっぱいに。
焦げ目ひとつないベルダドラゴンが、悠然と飛行船正面に回り込む姿が見えた。
鋭く残忍な目で、飛行船を、いやギィルを睨んでいる。
『クソッ……!!』
ギィルは腹立ちまぎれに隔壁を叩く。
ベルダドラゴンは口を開く。破滅的な魔力が集中していく。
魔砲弾の充填は終わっていない。魔術障壁はあるものの、この距離は耐え切れない。
『総員、退避────』
ギィルが指示を出しかけた、その瞬間。
ベルダドラゴンが、集束させた魔力を打ち出し。
黒い影が縦横無尽に。
幾重もの針のように、鋭くドラゴンのアギト周辺を駆け回った。
体当たりのような斬撃。
斬撃から数瞬遅れて、刺すような衝突音が何重にも発生した。
ドラゴンの口が閉じる。否、縫い付けるように綴じさせられた。
ドラゴンの魔力が、ドラゴンの口の中で暴発した。
『うぉおおっ!?』
近くにいた飛行船も衝撃を受けたが、なんとか墜落には至らなかった。
「グギャアァアッ」
ベルダドラゴンが、初めて悲鳴らしい雄たけびを上げる。
『何が起きたぁあっ!? 誰がやった!?』
ギィルは再び船外視認装置を引っ掴み、ドラゴンの周囲を探す。
ドラゴンの頭上。
佇む黒と銀のシルエット。
凶悪に輝く両足の金属兵器。
神秘的な黒のヴェール。
空中に静止している。否、着地するように足を踏みしめて着空している。
気負いのない自然体で、ドラゴンを見下ろしている。
「随分……はしゃいでるじゃない」
防衛省・防衛戦闘局・大型獣課、ヤイ・ゴックスが、穏やかながらも重々しい口調で、言った。
上空に吹く強い風が、彼女の髪を勇ましくはためかせる。
「色々ね……聞きたいことはあるのよ。どうも先達みたいだし。でも、あんたたちの文化じゃ、言葉より力みたいだから……そっちの流儀に則るわ」
ダダダタッ ダダダタタタ
空中で踊るように足を鳴らす。
魔導拡張義足_影灼嵐_九十九対龍専用型、及び右手の義手が滑らかに変形する。
高速機動型から、近距離戦闘に特化した形状に。
棘に似た両足に、龍の爪のような義手。
脚部分には黒い筋のような線が入っており、時折脈打つように震えている。ザウが入っている。
ベルダドラゴンはノドを低く鳴らしながら、ヤイとザウを値踏みするように睨む。巨大な存在に対して、毛ほども恐れる様子のない不遜な姿を。
「行くわよ、ザウ。"龍災対策室"──今がその時よッ!」
「おうッ!!!」
紫電一閃、黒い弾丸の如きふたりが始動した。




