第33話 ~決戦当日.4──天才VS天才たち~
~"天文台 特別室"~
ノット・ゾートレスは確かに天才だった。
"天文台"で1番、と評しても過言ではないだろう。
しかしそれはあくまで個人で、しかも才能が飛び抜けている、というだけの話だ。
「……大したものだな。オレでも思いつかん、率直に美しい式だ」
"天文台"2席、シマイ・トルタは感心しながらも、一目で立体転送術式を再現してみせた。
天才にも種類がある。発想の天才もいれば、改善の天才もいる。効率化の天才もいれば、量産化の天才もいる。
そしてシマイは、"天文台"1の解析の天才だった。
『……確認、完全模倣。疑問、これを詠唱できる魔術士はいる?』
魔術仮想再現宝石内で再現された立体転送術式を眺めながら、ノットは特別室にいる魔術士たちに問いかけた。
解析できることと、実行できることは異なる。
ノットの術式は、総じて彼女の血に流れる"龍の血"による魔力増幅を前提としている。
並みの人間が実行すれば、成功もできず、たちまち魔力切れを起こして昏倒するだろう。
「1度だけなら」
手が真っすぐ上がった。
"天文台"11席、エコ・ニョロコだ。
「これをご覧ください。これは"ロコロコⅢ"です。この魔道具は、魔術仮想再現宝石で再現された魔術を1度だけ実行することが出来ます。1度使うと壊れます。ひとつしかありません。製造には多大な時間と費用がかかるため、この戦いでは1度しか使えません」
エコが差し出したのは、正六面体の魔道具だ。中に魔術仮想再現宝石を入れられるようになっている。
「"宇宙の雨粒"を再現するより、転送術式を再現して、奇襲に使ったほうがいいでしょう。その後のことは……」
『結論、大丈夫。私とトノエがなんとかする。ありがとう』
テレーゼはエコから"ロコロコⅢ"を受け取り、転送術式を再現できる魔術仮想再現宝石を嵌め込む。
この最終決戦で、ベルダドラゴンとノットを分断するかどうか、出来るかどうかは、勝敗に関わる大きな問題だった。
真っ先に思いつくのは、どちらかを転送魔術で別の場所に送る、ということだ。
しかし動く相手に転送魔術を用いるのは困難だ。これについては、拘束魔法とのコンボで一応可能と結論付けられたが、ここで別の問題が生じた。
つまり、片方を転送した場合、もう片方が撤退する可能性がある、という問題だ。
どちらも長く拘束できる相手ではない。ノットの転送魔術があれば、撤退からの再合流は簡単だ。そのため、相手が「分断されたら一度撤退」と決めていてもおかしくない。
その場合、"試練"が保留で終わり、予期せぬタイミングで再開する可能性がある。そうなれば最悪だ。
……というような議論が成された結果、「同一戦場での分断が望ましい」という結論に達した。
ただし、そのような具体的かつ限定的な分断手段の開発は困難を極めた。
隔離する対象は、サイズや能力的にノットに限定された。
それでも時間のない中で、ベルダドラゴンに外側から破壊されない強度の魔術的結界を作成するのは不可能に近く、実際に不可能だった。
これを解決したのが、ノットと、"天文台"9席、トノエ・マツヤニーだ。
『こちら”天文台"。要請、ノットに陽動。時間、約120秒』
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~"ガーンバルド城塞王国 環境省塔頂上"~
「あー、了解。ただいまより陽動を開始。……僕を憎むのは構わないが、夢枕には立たないでくれないかねぇ」
環境省・自然環境局・自然災害対策課長、ゴットーは専用の狙撃地点に寝そべり、長大な狙撃銃でノットに狙いを定める。
その周囲に、"フィオナ・スン・ガーンバルド"が何人も立っている。
「そう言われると、ねー?」「毎夜パーティして差し上げますわ」「誘ってんの?」
「やれやれだ。薬を増やしてもらいたいねぇ」
"フィオナ"の1人が、命を捧げて祈る。
「"平等なる命。1人1発、命に貴賤なし"」
"フィオナ"の全魔力が、狙撃銃の弾丸に装填される。
絶命して倒れる"フィオナ"を、他の"フィオナ"が支え、既に用意されていた棺に横たえる。
ゴットーは狙撃の名手だ。
そして、このような非道な魔術を用いての狙撃にも心を動かさず、ではなく、心を動かしても狙いは外さない、という点で随一の適性を持っていた。
「どれ……せめて、丁寧に仕事をしますよ」
ノットはドラゴンの背中にいる。通常の方法では絶対に当たらない。
だがゴットーが撃ち出すのは、1人の命そのもの。意思を持ち、命中のみに残る魔力を燃やし尽くす最期の灯。
「"絶命弾"。……行ってらっしゃいな」
それは後戻りなく放たれた。
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~ガーンバルド城塞王国南側 戦場~
耳障りな風切り音。
「んっ……わっ、と!?」
ノットは天才的なカンで、曲折して頭部を狙ってきた弾丸をかわした。
弾丸はドラゴンに命中し、その大きさからは想像できないほど激しく強く、輝くように爆発した。
当然、ドラゴンの魔力を貫くほどの威力はない。
「わっ、ぷぅ。ちょっとビックリしたぁ」
ノットも"龍の血"の恩恵で、人間離れした魔力強度を持っている。直撃でなければダメージは入らない。
龍が吼え、機敏に動く。
2発、3発、4発。
執念深くノットを狙う正確な射撃は、しかし龍に阻まれ届かない。
「なんかこれ……不気味なやつだねー」
ノットはその弾丸の具体的な組成は理解できなかったが、本能的に、生理的な嫌悪感を覚えた。
5発、6発、7発。
「いい加減に──」
ノットは僅かに顔を歪めた、と同時に、背後に魔術の気配を感じた。
振り返る。
『ノット。結論、あなたは天才。そして、私たちも天才』
空中に、見覚えのある転送術式。しかし自分で生成したものではない。
そこから現れたのは2人。2人用に設定した術式なので、2人しか運べない。
1人はテレーゼ。もう1人は、ノットの知らない顔だった。
『ノット。要請、私と……おしゃべりすること』
空中に結界が展開される。
ノットとテレーゼだけが巻き込まれ、トノエは結界を制御するためだけの存在になる。
ドラゴンが事態に気づき、振り向いて結界を見て、怪訝そうに顔をしかめた。
「これは……何?」
ノットはテレーゼに尋ねる。
理解できないのではなく、何故こんなものを用意したのかわからなかった。
テレーゼは、すぐに答える。
『結論、決闘結界。宣言、あなたは──私がここで殺す』




