第31話 ~決戦当日.2──初撃、交錯~
~ガーンバルド城塞王国南側 本陣~
13時20分。
「"天文台"より通達! 魔力変動現象確認!」
対ノット戦線の本陣で、第二部隊隊長クローズはその報告を聞いた。
対ノット戦線の本陣は王国内、南門近くに構築されていた。これは、王国の南門がいわゆる「正門」とされており、恐らくノットがこちらから来るだろうと推測されていたためだ。
現在、王国から南の国や村に続く街道は"整備"のために通行止めとなっている。
「各部に即応態勢通達! 目視確認! 隠蔽魔術に警戒しろ!」
クローズが矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「城壁上監視員から報告! 転送円が形成されています! 指定範囲内!」
「邪魔はするなよ! 記録は怠るな!」
「転送円……完成! 輝きます!……ドラゴンの出現を確認! 体長約20m! ……環境省より報告あり! 専門家の確認の元、ベルダドラゴンと断定されました!」
「ついに来たか! 魔障シールド展開! 南側を厚くしろ! 続けて"実相固定錨"、撃てっ!」
まず、王国全体を、世界樹を魔力源とする透明なシールドが包んだ。
続けて、南門城壁上に設置された複数の大砲から、船の錨にも似た鎖つきの砲弾が発射される。
"実相固定錨"は、着地した周囲の空間の、幻覚魔術投射魔術、その他各種のまやかしを見破り、実在する世界で上書きする。
「変化なし! 間違いなく実在します!」
「よし! 鳴らせ!」
ほら貝を鳴らすような音が、王国中に響き渡る。魔力を通してあり、仮に妨害されていてもよく響く。
あれだけ大きなドラゴンであれば、誰だって見落とさない。しかし魔術その他の理由で、どこかの部署がドラゴンの登場を認識できていない可能性もある。もちろんそうでなくてもよいが、念には念を入れる必要があった。何せ国の滅亡が懸かっている。
「 "実相固定錨"自壊! 各種魔術使用できます!」
「"天文台"に通達! オレも出す!」
標的を目視で確認するために、クローズは本部を出て城壁上に上がった。
魔力補正付き双眼鏡で、それを覗く。
白と青、雪山に相応しい美しい体表の色。
大きく鋭い手と足の爪。雄大な翼をはためかせ、地上から少し浮かび上がっている。
人間には越えられない時を越えた、深い知性と厳しさを感じさせる顔。
かなりの距離をあってなお肌で感じる、刺すような魔力。
クローズが今まで戦った、どんな敵より大きな魔力量。
しかし逃げ場はない。ここが最終防衛ラインだ。
「出てこいっ…ゴーレム兵!」
クローズは魔力を全力で行使する。
ドラゴンの周囲に、ドラゴンに勝るとも劣らないサイズのゴーレムが、何体も出現する。
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~"天文台" 特別室~
『要請。ノットの発見』
"天文台"に設置された特別室にて。
テレーゼを中心とした魔術士の一団が、策をめぐらせていた。
「龍の魔力が強すぎて、いてもいなくてもわかんないねコレ」
副責任者に任命された、3席の"幻像魔術”の使い手、マリア・エイベルはお手上げのポーズを取った。
「こちら本部! "実相固定錨"自壊! 各種魔術使用できます!」
『了解。要請、マリア、魔術行使』
"天文台"内部は実質的に異空間となっており、特別室から直接戦場を眺めることはできない。
その代わり、テレーゼの水晶がプロジェクター代わりとなって戦場の様子を映していた。
「はいはーい」
マリアは軽く返事をすると、狭い部屋の中で両手両足を奇妙に振り回し、
「"幻☆想☆戦☆人☆、召喚!!」
決めポーズを取って、魔力を開放した。
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~ガーンバルド城塞王国南側 戦場~
戦場に突如登場する、巨大なゴーレムと兵士たち。
「備えてるねー、人類♪」
ノットはドラゴン──エンヘルの背中でのんびりしていた。世界一頼もしい背中。
「最初はあなたがやってよー。かっこいいとこ見せて?」
エンヘルは面倒そうに鳴いてから、大きな口を開いた。
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~ガーンバルド城塞王国南側 本陣~
「魔力収束反応! ドラゴンの口からです!」
通信を受け、その変化を、クローズは見た。
空間が歪む。
凄まじい風が吹き起こり、ドラゴンに向かっていったゴーレムと幻想兵が上空に舞い上げられる。
「風属性魔法……じゃない! あれはただの予兆だ! 衝撃に備えろ! ワイバーン部隊、回避行動を──」
クローズが言い切る前に、それは放たれた。
無色、無属性の魔力の波動。
無属性の攻撃は、魔力そのもの、つまり力そのものだ。制御が難しいが、威力は属性のある攻撃より遥かに勝る。
北方軍を瞬く間に全滅させた、不可視の"龍息"。
それが今、高速で眼前の兵士を薙ぎ払いながらガーンバルド王国の城壁に──
「父よ。そして母よ。今日が親越えの日だ」
1人城壁の外にいたデレムが、剣を上段に構える。
剣に込めるは、同じく無属性の波動。
デレムの魔力量と、地球の深層から抜き取り鍛えた、聖剣の器あってこその技だ。
デレムの筋肉が、全身鎧越しでもわかるほど膨張する。
ただでさえ筋骨隆々の肉体が、1回りも2回りも巨大化したかのようだ。
魔力を溜めうる限り溜めた後──世界を切り裂くように、聖剣が振るわれる。
破滅的な威力の双撃が激突し、容赦なき轟音が鳴り響いた。




