第28話 ~最後の1週間.6──防衛省・防衛戦闘局・大型獣課~
「やぁあああぁああっ!!」
「ぬぅううんっ!!!」
防衛省の修練場内、JUDO場にて。
完治したヤイが、ベアリウスと激しく組み手を行っていた。
ぶつかり合う度に互いの魔力が炸裂し、丈夫な作りの修練場全体がビリビリ揺れる。
「まだまだぁあああっ!!」
「小癪なっ、未熟者がぁああっ!!」
JUDO場のTATAMIがGETOUTし、2人のランデブーが過熱する。
「ストーップ! デスッ! デスデス!! ドラゴンと戦う前にデスデスよッ!」
睨み合って小康状態になった2人の間に、メニィが割って入る。
「ベアリウスを倒せないようじゃドラゴンにも勝てないでしょっ」
「ふん、未熟者がぬかすなっ」
メニィの静止も虚しく、2人は組み手──という名の衝突をまた繰り返す。
ヤイの装備は、魔導拡張義足_影灼嵐_九十九対龍専用型に換装されていた。
両足と義手の装備に、全身を黒いヴェールで覆う専用の衣装が用意された。
黒いヴェールは"影の国のもの"、つまりザウが通りやすい素材で構成されている。
また、両足と義手の装備も、"影の国のもの"が通りやすく、"影の国のもの"の意思に形そのものが影響されやすい作りになっている。
これにより、総じてザウがヤイをサポートしやすくなった。また、武装の変形におけるヤイの負担が軽減された。
ただしこれまで以上に2人の連携が必須であり、決戦に向けて急ピッチで訓練を続けていた。
激しさを増す訓練の様子を、メニィが頭に手を当てながら見守っていると、ふと、修練場内のスピーカーから、聴き慣れた音楽が 流れてきた。今日はニュールンベルクのマイスタージンガーだ。
修練所にいた職員たちは、誰に言われたわけでもなく作業を中断し、入り口方向に向いて直立する。
職員によっては、すでに膝をついている。
「ミナ、ゴクロウ」
入ってきたのは、全身に包帯を巻いた男だ。
古式ゆかしい軍服と軍帽を隙なく着込んでいる。
枯れていながらも、芯の強さを感じさせる声。
包帯から覗く、燃えるような意思の灯った双眼。
ギィル・ボルフ。
防衛戦闘局・大型獣課長だ。
その瞬間、ヤイは信じ難い魔力の圧に襲われ、体勢を崩しそうになったが、ザウの助けもあり、表情を変えずに耐え切った。
ヤイの影の中で、ザウがぶるりと震える。最近ヤイは、ザウの動きだけで感情がわかるようになってきた。今回は、「どうしようもなく美味しそう」なようだ。
「オオ、ヤイ。ソダッタナ」
「鍛えましたので」
修練場内の職員は、ヤイとベアリウス以外、ギィルの魔力圧に負けて膝をついたり地面に突っ伏したりしている。
人間離れしたギィルの魔力圧は、昔事故で高濃度の魔力炉を浴びたためだ、と噂されているが、真実かどうかは不明だ。
魔力封じの包帯と指輪を装備してもなお、この圧だ。ギィルがパーティとして動くことは不可能だった。
「オレハ、ソラカライク。タノンダゾ」
「おう」
ギィルはベアリウスの肩を労うように叩く。
ギィルの圧に耐えられる数少ない人間であるベアリウスは、ギィルの飲み会の相手として重宝されている。
ギィルはベルダドラゴンとの戦いにおいて、新型の飛行船での支援を担当している。
ギィルは魔力隔壁によって固められた動力部から、他の船員に指示を出す手筈となっている。
ガーンバルドの飛行船は、まだドラゴンと素早い空中戦を行えるほどの機動性は持たない。
そのため、魔力炉とギィルの魔力で生成される魔力防御壁に頼ることになる。ただし、ドラゴンの攻撃を"防御"しようとする発想に、デレムは否定的だった。
ワイバーンに乗るドラゴンライダー部隊の護衛もあるが、ベルダドラゴン相手にどこまで役に立つかは疑問視されていた。
「ギィルよ。この件が終わったら、また飲み比べよう。今度は負けんぞ」
「……アア。マタオマエノオゴリダナ」
ギィルの眼差しが、ほんの一瞬優しくなったが、すぐに元に戻った。
「デハ、ミナ、イキロヨ!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
立てない者も、全力で返事をした。
ギィルは満足したように一度頷くと、迷いのない足取りで修練場を出て行った。
「さてと……」
「よーっしっ……」
ベアリウスは指をポキポキ鳴らし、ヤイは肩をグリグリ回しながら、自然とJUDO場に戻ろうとする。
「コラーッ! もう2人ともボロボロデス! 中止中止ーッ!!デス!!デスデスデスッ!」
結局、メニィの必死の説得によって修行は終了となった。
その後、その場にいた大型獣課の面々でお高めの焼肉屋で夕食を食べた。ザウもこっそり結構食べた。ベアリウスの奢りだった。




