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第24話 ~最後の1週間.2──青い海、白い雲、それぞれの色~

 真夏のような強い日差し。

 どこまでも広がる青空。ところどころに小さな雲。

 青空に交わり溶ける、広大な海。


 美しい砂浜で、ヤイは日光浴に勤しんでいた。

 ココナッツジュースが美味しい。


「海って、こんなに広いのね……」


 ガーンバルドに海はない。

 ヤイがいるのは、ガーンバルドからワイバーンで数時間移動したコデソル海岸だった。

 美しい海岸で有名だが、陸路では向かうことが難しいため、ドラゴンライダーのパミックに連れてきてもらった。


「気持ちいいッスよー。ヤイさんは入らないッスか?」


 オレンジ色の三角ビキニ姿──胸下でクロスしているデザインのもの──のパミックが、海から上がってきた。


「一応病み上がりなのよね。泳げないわけじゃないけど……」


 ヤイも赤いワンピースタイプの水着姿──裾部分にフリルがついたもの──ではあったが、元気に泳ぎ回る気にはならなかった。ここに来た第一の目的は、魔力の回復だからだ。"秘録の湯"は簡単に使える場所ではないし、同じ回復手段では効果も薄まる。比較的近場で、安全で、雄大な自然がある場所としてこの海岸での海水浴はたびたび秘密裡に軍・政府関係者に利用されていた。

 

 そしてヤイについては、もうひとつこの場所に訪れた理由があった。

 先日、ノットとの戦闘で完全に破壊された魔導拡張義足_灼嵐(しゃくらん)_八一丙型、及び義手。

 その新型を作成するために、この地に住む偏屈な研究者に応援を要請しに来たのだった。


「博士、いてよかったッスね」

「ええ。国の事情、全然知らなかったから説明に時間がかかったけど……」


 説明の結果、博士の了解は得られたが、準備が色々あり出発は翌日になると言われた。もっともそれは予想されたことだったので、ヤイの海水浴による魔力回復の時間として予定に組み込まれていた。



『感想、非常に有能な研究者。期待、ノット対策への有用な助力』


 "スクールミズギ"、と呼ばれるシンプルで機能的な水着姿のテレーゼは、海岸で貝殻を採取している。

 テレーゼもノット戦で地味に魔力を消費したため、ヤイの護衛も兼ねて同行していた。また、博士と広義な意味での研究者同士話があったようで、何やら専門家同士で盛り上がっていた。


「うーん……何もしないのもヒマね……」


 ずっと動かないでいると、色々なことを考えてしまう。

 巨龍ベルダドラゴンと、ノットとの最終決戦。

 ガーンバルド城塞王国の盛衰。

 ヤイの生死。この後の未来。

 ザウの生死。この後の未来。

 

 考えれば考えるほど、全く予想できないことがわかる。

 分析は必要だが、大抵30分もあれば充分で、あとは起きもしないことを心配して、不安になるだけの時間だ。心の健康によくない。

 ましてや、こんな開放的な場所で。

 

「一旦……泳ごうかっ!」


 ヤイは折りたたみ式デッキチェアから起き上がった。

 影の中でザウが驚く感触があった。


 軽く準備運動をしてから、海に飛び込む。

 冷たさに目が覚める。海から漂う、水とは違う命の匂い。


 ヤイは海を泳ぎ進み、水深が深くなったところで息を大きく吸い込み、潜り始めた。

 水中は澄み切っていて、海底までたやすく見通せる。美しい蒼だ。色とりどりの魚が優雅に泳いでいるのがよく見える。

 ヤイは右手を構える。狙いを定め、一時的に貸し出されているロケット義手で魚を捕獲すると、海上に勢いよく浮き上がった。


「ほらっ、ザウ!」


 魚を投げると、影から小さいザウが飛び出してきて、魚を丸のみした。


「うまい! もっと!」


 ザウは少年のような形を取ることは出来ていたが、まだ発話は簡単なものしかできないようだった。


「はいはい」


 ヤイとしても、単に泳ぐより目的があったほうが面白い。

 その後ヤイは、あたりの魚を十数匹ほどザウに与えてから、満足して海から上がった。


「餌付けッスねー。わかります」


 パミックはワイバーンの飼育で似たような経験があるのか、何やら感慨深げに頷いた。


『感想、"影の国のもの"の貴重な研究資料。保存装置を用意しておけばよかった』


 テレーゼは冗談でもなさそうに言って、ザウをじっと観察している。ザウは照れたようにヤイの影に戻った。


「ふぅ……堪能したわ」


 気づけば海岸は夕暮れ色に染まっていた。ヤイがそろそろ宿に戻るかと考えたところで、



「おいおい。おいおいおいおい。そんな愉快なギミック、なんで教えてくれないのかネ!?」


 出発の準備をしているはずの博士が、水着姿で現れた。

 胸元の大きなフレアが特徴的な水着。ただでさえ大きな胸がさらに強調されている。


「グレイリー博士。準備は終わったんですか?」

「機器のクールダウンタイムさ。サボってるわけじゃないヨ」


 グレイリー博士の言葉が本当かどうかは、誰も確かめようがない。


「博士。ギミックというのは?」

「もちろんもちろんもちろん、その()()()()だヨ! キミが自由に使えるんだろう!? 当然、戦闘にも使えるはずだヨネ!?」


 グレイリー博士が早口でまくし立てる。

 博士のザウの扱いに、ヤイは少し腹立たしいものを覚えた。


「あの。彼には彼の意思があります」

「ふむふむふむ、では相互の意思交換を組み込もう。あぁ~、期限が短いのが残念でならないネ! 革新的な、歴史的な、超層的な武装(さくひん)になりそうだ! 今夜は楽しみで眠れないヨ!!」

「……ちゃんと寝てくださいね。遠足前の子供じゃないんですから」


 ヤイは、今日これからはグレイリー博士をしっかり監視することに決めた。


 ザウとの共闘を前提とした武装作りについては、ヤイは想像はしていなかったが、言われてみれば魅力的な提案だと感じた。

 ザウとヤイは、仕事上の関係であり、"龍災"への対策という方向で一致していた。共に同じ方向に向かって歩いてきた。

 その最後を、共に闘うという形で果たせるなら、それは──素直に嬉しいと感じた。


「武装の案については、賛成です。ただし、ザウを使い捨てるような設計には絶対しないでください」


「ほう? ほうほう? ふふ……なら、()()()使い捨てる設計にはしてもいいのかネ?」


 影の中で、ザウが強く動く感覚があった。


「……それもナシでお願いします。この子が嫌がっているようなので」


 ヤイは自分の影に視線を向けながら答えた。


「いいともいいとも、いいとも。クライアントの意向には従う主義でネ。制限の中でこそ創意工夫が煌めくというものだヨ♪」


 グレイリー博士は鼻歌混じりに、愉快そうな足取りで研究室へと戻っていく。

 ヤイは拭い切れない不安を隠しつつ、グレイリー博士を監視すべく追いかけた。


 






 

 

 

 







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