第23話 ~最後の1週間.1──病室にて~
城塞王国ガーンバルドの最上層部にて、会議は踊っていた。
まず、病院で目覚めたヤイの証言をどこまで信じるかで揉めた。
これについては、その場にいたテレーゼや治癒術士も同様の証言をしたことで信ぴょう性が認められた。
次に、ノットの発言そのものをどこまで信じるかで揉めた。
まず、ノットが本当に犯人であるかが疑われた。これについては、テレーゼがノースランドドラゴン戦で現れた転送円のデータを記録しており、"天文台"に残っていた僅かなデータと照合した結果、少なくともノットが"龍災"に関与していることは魔術学的には認められた。(魔術学に疎い者の中には、最後まで懐疑的な者はいた。後日行方不明になった)
そして本丸の議題、"試練"にどう対応するかで揉めに揉めた。
巨龍ベルダドラゴンと、現代最高クラスの魔術師、ノット・ゾートレスを同時に相手にする。
勝てる派が7割、勝てない派が3割だった。
ただ、そもそも本土防衛戦で「勝てない」などという意見が許されるはずもない。発覚すれば国民の不安を煽る上に、自身の支持率を下げるだけだ。
それでも勝てない派が3割いるという事実が、現状の深刻さを物語っていた。
龍撃退作戦の最大の希望は、"世界樹の息吹"だ。
これは、世界樹から発される膨大な魔力を蓄積し、ビームとして打ち出す巨大兵器だ。
王国の地下に収納されており、有事の際は道路が割れてせり上がってくる仕組みになっている。
前回のベルダドラゴン侵攻の際は時間が足りず稼働できなかったが、今回は充分に準備を整えられる。
ただ、それもベルダドラゴンに通じるかは未知数だった。
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「確かに、オレはデレムだ」
ヤイの病室にて。
ヤイとアオイに見つめられる中、第一部隊長ダロウことデレムは深く頷いた。
デレムがヤイの病室を訪れている理由は、ヤイが見たノットが本物かどうかの、一応のすり合わせのためだ。そして話し合いの結果、まぁ本物だろうと確認が取れた。
この一連の"龍災"は、デレムを発端に発生したことだ。
デレムという、人と龍の半獣人が人里に降りることで、デレムが弱くなってしまわないか。
それを問う"試練"だ、とノットは言っていた。
そのため、逆にデレムを始末、または追放すれば龍の"試練"を逃れられるのではないか、という意見も生まれていた。
「……ということなんだけれど。率直に言って、そうしたらどうなると思う?」
聞きにくいことをアオイはさらっと聞いた。
「そう……だな。その場合、オレが人間との共存に失敗した、ということになる」
デレムは真面目な様子で答えた。それから首を少し傾け、
「"試練"としては、そこで終わるはずだ。ただ、一般的な子を殺された親として、父と母がどう行動するかは、正直わからない」
アオイは一度目を閉じた。
「復讐、か。可能性としてはありそうだ。そして可能性としてありそうな限り、ずっと、いつ龍が襲撃してくるかわからない状態で国家を運営しなくてはならなくなる。通常の状態でもある意味そうだとはいえ、理由が1つ、あるのとないのじゃ大違いだね」
デレムの処遇がどうなるにせよ、現状での最重要監視対象だ。病室の中にも外にも監視員が堂々と配置されている。
もっとも、デレムが本気を出したなら、逃走を止めるのは相当困難だろう。個人最強の全身鎧剣士だ。
「交渉の余地はあるんですか?」
ヤイは、まだスライム状態のザウにリンゴを与えながら尋ねる。
「"試練"を越えないと無理だろう。ノットはそもそも話を聞かない」
でしょうね、とヤイは思った。口には出さなかったが。
「つまり……全面戦争、ですか」
ノットと直接戦ったヤイは、損害を想像して唇を噛んだ。しかもドラゴンまでいるのだ。
アオイは小さく何度か頷いた。
「まぁ、少なからずそうなる。期日までにノットくんを暗殺する案は出たが、彼女の研究室の防衛機構が危険すぎて断念した。損害が出た上にもぬけの殻だったら大損だからね──まぁ、損害はちょっと出ちゃったんだけど──。ノットくんの研究室を外から封鎖するので精一杯さ。ということで、今研究室にいるのか、北の山のほうにいるのかも謎だ」
「変に襲って、"試練"が予告したタイミングからずれる方が危険だと思います。万全の迎撃態勢だって、いつまでも維持できるわけでもないでしょうし」
「確かにね。あとはそうだね……すでに一部の官僚や貴族が、国から逃げ出したりしてる。賢明だが愚かだね。もちろん、しっかり記録してあるよ」
「……」
アオイの悪い微笑みに、ヤイはコメントを控えた。デレムはよくわかってなさそうな表情だ。
「こほん。さて、相手は大きく分けて、ドラゴンと魔術士だ。前回のようにワイバーンの大群もついてくるかもしれないが、まぁそこはなんとでもなる。
──ヤイくんは、どちらを狙う?」
「それは──ドラゴンに決まってますよ。大型獣課なんですから」
ヤイは即答した。
ザウも頷くように動き、ぴょんぴょん跳ねた。
「ちなみに、オレもドラゴンがいい。そのために部隊の中で鍛えたからな」
デレムはぐい、と拳を見せて力強く言った。
「よろしい。ノットくんに関しては、テレーゼくんが請け負うと言ってくれている。具体的な詰めはまだまだこれからだけど……とにかく、後悔しないように備えよう。やれやれ……しばらく眠れなさそうだ」
アオイは「んーー」と伸びをしてから、立ち上がった。それから、ザウに目を向けて、優しく言った。
「もちろん、キミにも期待しているよ、ザウ。龍の"試練"を、皆の力で乗り越える──"龍災対策室"の、最後の大仕事だ」




