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第17話 ~第一部隊長ダロウ&"天文台"テレーゼ~

 現れたのは、2メートルを優に超える巨大な男だった。

 全身を黒と金の鎧で包んでいるため、威圧感がさらに増している。

 肩に軽々と乗せている斧も巨大で、振り下ろせば盾や鎧などものともしないだろう、とたやすく想像できた。

 斧も鎧も返り血にまみれており、戦闘の凄まじさを物語っていた。


『提案、ちょっとずれて。私が画面に映らない』


「ん? そうか」


 鎧の男──ダロウが場所を譲る。

 するとその後ろから、小柄な女性が姿を現した。

 紺色の魔術師のローブ。長い髪、ロングスカート。

 いかにも魔術師といった格好──テレーゼだ。

 彼女の周囲には、小さな水晶玉が浮かんでおり、彼女を中心にゆっくり回っている。

 そしてひと際大きな水色の水晶玉が、彼女のお腹の前の位置に空中で静止している。

 


「やぁ、お二人さん。そっちの戦場はどうだったんだい?」


 アオイは手でひらひらと座るように促す。ヤイとザウはアオイ側の椅子に移動した。

 ダロウが座ると、その衝撃でテレーゼが少し浮かび上がった。


「ああ、大変だった。()()()()()()()()()()な」


 特に含むものもなさそうに、ダロウが言った。


「「ドラゴンが……?」」


 ザウとヤイがシンクロする。

 人間がドラゴンから逃げ回るならわかる。

 ドラゴンが人間から逃げ回るなど、想像もつかないことだ。


『結論、私は満足した。目標は魔力の収集だったが、予定の140%の魔力を収集できた。転送円のほうは想定外だったが、詳しく調査できた。"分解""再構成"の面で、近い分野』


 肉声で話しているようで、何かを通しているかのような声。

 しかし肉声よりむしろ聞き取りやすい。


 アオイはうんうん、と頷いてから、


「よし、状況を整理しよう。

 "敵"は、まず王国を軽く襲った。そして今回、兵士たちを大がかりに襲った。

 これは普通の侵攻としてはおかしなことだ。普通、兵士同士の戦いがあって、本土進攻……という流れになるからね。これはどういうことだろう?」


 アオイはヤイのほうを向いた。ヤイは少し考えてから、


「一度目の"龍災"は、兵士を狙うための陽動だった……?」


「うん、そう考えるのが自然だ。当時、第一・第二部隊は遠方にいた。敵の転送円が高レベルなものとはいえ、どうやら限度距離はあるらしい。北方であると見当はつくけど、当時の位置関係を調べればより"敵"の居所を絞り込めるかもね。……ただ、"敵"が転送魔術の使い手だとすれば、捕まえるのは容易じゃないだろうけど」

 

 アオイは優雅にコーヒーを飲む。


「でも、兵士を狙うのが本命ってどういうことですか?」


「さてそこだ。本土を侵略したいのなら、一度目に今回のような大規模襲撃をかければよかった。つまり目的は本土じゃない。一度目の時点でここまでの準備が整ってなかったとしたら、ゆっくり準備すればよかったんだから」


「じゃ、結局なんなんすか? これは」


 ザウはちょっと飽きて窓を眺めたりしている。


「うん……。人間の戦略の観点で考えると、ちょっとよくわからない。兵士を壊滅させてから悠々と本土を占領する……にしても、一度目に占領して、王様を人質にしたほうが楽だ。なら、龍と人間の関わりで見て……"試練"、という見方はどうかな?」


「試練? つまり……この国が試されてる、ってことですか?」


「そう。なら、一度目が"予告"、二度目が"実践"となって辻褄が合う。普通は、龍のところに赴いた人間が試されるものだけど……」


「試練の押し売りって、迷惑な話すね」


「その辺の事情は、転送魔術の使い手さんに聞かないとわからなそうだ。なんとか特定できるといいんだけど。……お二人さん、ここまで聞いてどう思う?」


 アオイは、黙って聞いていたダロウとテレーゼに意見を求める。


「ああ。龍はそういうことをする」


 ダロウは率直に頷いた。アオイは()()、と手を叩く。


「そうだ。キミ、本件以外でも龍と戦ったことがあるんだっけ?」


 ダロウはまた頷き、告げる。 


「何度か。龍は、何かの証明のために落とす命に頓着しない。これは、自身の命も含む。だから……残酷とは違うのだと思う」


「価値観の違い、ということか……」


 ドラゴンは存在としての格が高く、総じて長寿である。

 そのような生き物が、命に対して人間と異なる感覚も持っていることは、むしろ自然と言える。


「テレーゼくんは?」


 アオイが促すと、テレーゼはぼんやりと水晶玉を見つめながら、さらりと言った。


『結論、転送魔術の使い手は"天文台"にいる。自明なこと』


「ん……。それは何故?」


『理由、"天文台"は大陸最高の魔術研究機関だから。"天文台"の技術を越えるものは、"天文台"の中からしか生まれない。歴史でも証明されている』


 テレーゼが顔色ひとつ変わらずに断言する。アオイは苦笑してから、


「そりゃあ……自信は認めるし、実際成果は上がっているけどね。大陸は広いし、他で新呪文が発明されたこともあるだろう?」


『異議、"発想"や"革新"は他で生まれてもよい。ただ、"技術の高度な合成"は下地となる技術なしには発生しない』


「ふむ、少しわかったよ。正直、元々内部犯を疑っていたこちらとしては、"天文台"の中に犯人がいることに違和感はない。具体的な目星はつくかい?」


 テレーゼは、はじめて表情を曇らせたが、それでもこれまでのように即答する。


『正直、わからない。"天文台"は上位陣ほど秘匿主義になる。ポテンシャルで言えば、全員可能』


「それじゃ、ティエチェ聖龍教会に繋がりが深い人では? または、アザレアさんと」


 ヤイが口を挟む。テレーゼはきょとんと目を見開いた。しかしすぐに平静に戻り、答えた。



『何故? ……訂正、聞かない。結論、それなら心当たりがある』


 










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