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第14話 ~雲塊一突~

 雨の勢いは増す一方で、ガーンバルド軍の攻撃命中率は落ちていたが、それはワイバーン側も同様だった。      

 そのため戦局は膠着しているが、無数に援軍が送られてくる分ワイバーン側が優勢と言えた。


------------------------------------------------



 即席巨大耐熱避難用シェルター内。


「クソが、転送円はどこだ!」


 第二部隊隊長クローズは、方々を捜索させた斥候兵からの「成果なし」の報告に苛立っていた。


 ワイバーンが突然現れてくるカラクリが、転送魔術であることは見当がついていた。倒したワイバーンの死骸を調査し、本来北方の山に生息している個体であることは早々に判明していたためだ。

 転送魔術を妨害することは簡単だ。転送円を軽く傷つけるだけでよい。無論、転送円を攻撃するまでの守りを突破する必要はあるが、それはまた別の問題だ。


 しかし今回は何故か、転送円自体を発見出来ずにいた。

 隠蔽魔法を考慮して、観測魔法を全方位に飛ばしているにも関わらずだ。

 特にクローズは大地を利用する土属性魔術を得意としているため、地面に転送円が描かれていたり、転送円が描かれたマットなどが敷かれていれば他の魔術士より気付きやすい。転送円の魔力を探知できないはずがないのだが……。


「召喚術……いや、転送円より目立つ。この場で産んでいる? バカな、ワイバーンは卵生だ。いっそ地域ごと転送したのだとすれば……いや、大地は空に浮かない。待てよ……空中、飛行船か?」


 空中に転送円を配置する、という発想は基本的になかった。

 空中を自在に移動する飛行船の研究はガーンバルドでも盛んに行われている。戦争において制空権のあるなしは死活問題だからだ。

 しかしその技術はまだ開発段階であり、転送円ほど繊細なものを配置しようと思える段階にはなかった。

 他国の飛行船技術が、ガーンバルドを大きく上回るとは到底思えない。しかし可能性はゼロではない。


「観測弾! 標準を空に向けろ! 各々のタイミングで角度を変えて三度射て!雲にぶつけてやれ!」


 クローズの命令を受け、各所で砲台が操作される。安全なシェルター内からシェルター外の砲台を操作する仕組みにすることで、命中精度は各段に向上されている。


発射(てっ)!!」


 炎属性魔術師が、砲弾を打ち出す。

 不規則な轟音、大きな振動。シェルターの天井から土がパラパラ落ちてくる。

 打ち出された土の砲弾は、一定距離に達すると破裂して飛散し、一時的に周辺を観測する役割を果たす。

 その内いくつかはワイバーンに迎撃されたが、粉々にされる分には同じことだ。


 クローズは全ての砲弾を、見えずとも感知している。

 ただ、さすがに今回のような規模の量を同時扱うのはクローズをもってしても困難で、大魔力使用の反動で頭痛が絶えなかった。


 何度かの砲弾の発射で、明らかに不自然な点が浮かび上がってきた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 クローズは直ちに状況を理解した。


「全軍に通達! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! ブチぬけるプランがある奴、本部まで来い!!」


 シェルター内に創造していた音声拡散魔術を用いて、クローズは叫ぶ。同時に確実に全軍に通達するために、伝令兵がシェルターを飛び出して行く。

 むろん、クローズ自身も策を練るつもりだが、可能性は多いほうがよい。



------------------------------------------------



「ほう。空まで操る敵とはな」


 鷲掴みにしたワイバーンの首をへし折りながら、ベアリウスは伝令を聞き取り、空を睨んだ。

 分厚い雲は切れ目なく、全く動く様子を見せない。雨風はますます強くなり、雷が多く落ち始めている。


「この状況ではワイバーンも満足に動けなかろうに。相討ちで良しとは冷徹な司令官だ。それとも、これさえも陽動か?」


 ベアウリスは、ヤイやザウと共にノースランドドラゴンの場所を目指していた。

 しかしベアリウスの機動力はそれほど高くない。道すがら襲ってきたワイバーンを一捻りしながら、彼女らとの合流を急いでいた。


「未熟者め。先行するなと何度言っても逸りおる」


 ダッハッハ、と嗤いながら、別のワイバーンが吐いて来た火球を、軽く手を払ってかき消す。ワイバーンが風圧で吹き飛ぶ。


「どれ……少し()()()()か。クローズ(土いじり)、合わせてみよ」



 ベアウリスは近くにあったワイバーンの死骸を放り投げ、別のワイバーンに見事にぶつけてから、地面にどっかりと両足をつき、重心を低めた。

 


「ふぅうう……………………」



 息を吐く。魔力を吐く。

 それだけで、周囲の草が根こそぎ舞い上がっていく。



「すぅ……………………」



 吐くよりは短く、吸う。

 周囲の魔力を吸い上げる。

 体内で圧縮する。練り上げる。



 ──遥か上空にある雲を殴るイメージは、なかなか出来るものではない。

 

 では、目の前に小さな雲が浮かんでいると考えればどうか。

 雲の正確な性質は知らずとも、腕を伸ばすだけで貫けるような気がするだろう。


 つまり、距離と大きさの問題なのだ。

 ならば、自分が大きく成ればよい。


 

 すでに、ベアリウスの周辺にいたはずの兵士は避難している。

 というより、ベアリウスの凄まじい魔力圧と、発生した純粋な風圧に吹き飛ばされている。


 その中心に、大地に楔を打ったようにどっしりと佇む熊のような男。

 ゆるやかに体を動かす様は、なんらかの武道の型を演じているようにも見える。

 その動きに合わせて、魔力の圧が周囲に拡大している。

 人間三人分。五人分。十人分。


 やがて、手を伸ばせば雲に届きそうな大きさに。



「ふぅううんっ!!」



 ベアリウスが体を丸めるような姿勢で力み、全身が隆起する。筋肉だ。筋肉の弾丸だ。

 ベアリウスの纏う超巨大な魔力も、同様に力強く軋んだ。

 侵入してきた雨やワイバーンは、ことごとく弾き出される。



 そして────



「散れぇいっ!」



 渾身の拳、一振り。



 雲の魔術的防護を容易く貫いて、雲の一角に見事に拳状の風穴が空いた。

 巨大な何かが炸裂したような爆音と衝撃が、戦場全体を揺らす。


 すぐに巨人のような魔力は収まる。

 雲が貫かれたエリアの雨は止み、気持ちのよい日差しが注ぎ込んできた。

 それを一身に浴びながら、ベアリウスは満足そうに頷きながら、額に垂れた一筋の汗を拭う。それから、



「しばし塞がるまい。クローズ(土いじり)、後は良きに計らえ」


 今度こそ、ヤイとザウに合流すべく駆け出した。


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