第13話 ~"蘇生"~
城塞王国ガーンバルドは、"城塞"と名の付く通り、城塞の建造が歴史と共にある。
それはすなわち戦乱の歴史だ。相手は人間であったり魔物であったり、龍であったり。
その全てと立ち向かい、あるはいなし、あるいは共存し。
あらゆる手を尽くして生き延びたからこそ、現在の隆盛に至ったのだ。
当然、その国が持つ軍隊も、精鋭揃いである。
その第一・第二部隊でさえ、ワイバーンと龍の大群には苦戦を強いられていた。
何せ信じ難いことに、ワイバーンが次から次へと転送されてくるのだ。
それほど早い頻度ではないのが救いだが、ワイバーン一体倒すのも簡単ではなく、必殺技で倒せば魔力を多く消費する。敵の戦力の底が見えない現状、大胆な対応が取れずにいた。
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「動ける人員で部隊の再編成、急げ! 戦線に復帰できる者の治療を優先せよ!!」
第二部隊隊長、クローズ=ユアダイスは、自身の土属性魔術で大地を隆起させ、即席の巨大耐熱避難用シェルターを作成していた。次々と負傷者が送り込まれてくる。
また、シェルターの一部に砲塔と弾丸を創造し、炎属性を持つ魔術士に発射させている。
どこでも築城でき、その内部から反撃も可能。莫大な魔力を持ち、広大かつ繊細な運用が行える第二部隊長にしかできない戦術だ。
「ベーリオさん、ありがとうございました。私はここで」
そこに、ベーリオをはじめとした三人組に守られながら、アザレアが到着した。クローズはすぐに気づく。
「アザレア……アザレア=フォローレンスか! 死亡者の蘇生優先度選別は行っているがこちらの蘇生術士だけでは手が足りん! 護衛はこちらで引き継ぐ、外の応援を行え!」
「ええ。そのために参りました。──ですが生者の皆々様、少しお離れ頂きますよう」
死者がやや乱雑に並べられた、隔離された一角に、アザリアは歩み寄る。
彼女を見た数人の蘇生術士が、すぐに狼狽して蘇生作業を中断、距離を取る。
同じ蘇生術士にしかわからない恐怖。アザレアが既にその身に受けている、不可逆にして深刻な代償を感じ取ったのだ。
無造作に転がる死。無感動な死。理不尽な死。欠損した死。
そこに人間の理屈など、人間の小細工など入り込む余地はない。
死者は生き返らない。生き返ってはならない。
ならば。
それを覆すには、相応の代償が求められる。
アザレアは死のただ中で、祈る。
「──"私は祝福されし生にまつろわぬ者。私は別ち得ぬ死を掠め奪う者。贄は此処に。主よ、この身を犯し給え"」
アザレアの詠唱に、死がぶるっと身震いしたような、世界の歪みが生じた。
「うぅっ……!」
同時にアザレアの腕が、胴体が、足が、膨張する。
服で隠しているが、その内では皮膚が破け、血管が体外へ逃げ出したがっている。
まるで内側から、なんらかの物体に押し広げられているかのように。
アザレアは杖を支えに、ズルズルと死の道を歩いて逝く。
彼女を蝕むもの。それは、生物だ。
何故わかるのか。
一目瞭然だ。
アザレアの全身を、無数の闇色の手が這っている。
爪を立てている。皮膚を千切って遊んでいる。
どこからか、赤子の笑い声とも老婆のすすり泣きともつかぬ声が聞こえる。あなたの耳にも。
それは赤子の戯れのように、アザレアの体を内側から容赦なく叩く。
その振動が、この世ならざる漆黒の魔力波動が、アザレアから滲み出た分だけ死者に伝播する。
それは枯れた薔薇のような紋様を描きながら、周囲の死者の心臓に滑り込む。その内何人かの心臓が、アザレアの肉体の膨張と収縮に合わせて、動き出す。
「な…………」
その異様な儀式に、クローズはどの戦場でも受けたことのないおぞましさを感じ取った。
アザレアがS級の蘇生術士であることは知っていた。
しかしその詳細は知らされていなかった。S級冒険者の重要情報は秘匿される傾向にあるため、不自然さはなかったが、まさかこのようなものとは。
他の蘇生術士の"代償"は、せいぜい自分の四肢と引き換えであるとか、重くとも蘇生術士自身の命程度のものだった。
アレは違う。
今、杖を頼りになんとか歩き、命を賭して周囲の死者を蘇らせようと奮闘している聖者は。
何に対して、どんな代償を払っているのか?
想像するだけで、クローズは自身が正気を失っていくように感じられた。
「た、隊長──」
他の蘇生術士が、クローズの周りに集まり指示を待っている。
クローズはなんとか我に返った。
「あ、ああ……蘇生した兵士の救護に回れ! ただし決して──決してアレには近づくな! 急げ!!」
結果として、アザレアの魔術は多くの兵士を救った。
蘇生術にやり直しは効かず、死から時間が経つほど失敗率は加速度的に上昇する。
ここで、彼女がこうしなければ、救われない命は数多くあった。
故に、彼女の功績は疑う余地もなく、文句の付けようもない。
「あぁあああっ……!!」
全身が破裂する苦痛。
内側から嗜虐される苦難。
常軌を逸した意思と肉体でしか、耐えられない試練。
アザレアは歩き切った。
そして、これからも成すだろう。
解放の時まで。




