表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時間屋さん~運命の修復使2016冬~  作者: ジョセフ武園
選ばれなかった幸福
8/8

運命不良者 神辺旭~後語り

「パパ、パパ、起きて。」

「あさ君、朝よ。起きて。」


俺は、二人の声によって眠りの国から引き戻される。


「ん……………?」

「起きたー、パパ、起きたー。」

「おはよう、あさ君。朝ごはん出来てるよ。」


俺は、むくりと身体を起こすと、腹の辺に顔をぐりぐり押し付けてくるチビ助の両足を掴んで、逆さ吊りにしてやる。

「ぎゃー、パパ、やめてー。」


リビングに行くと、目玉焼きとトーストが並べてあった。

「今日は、パンか。」

「ごはん、チンしたらあるよ?」

「いや、これでいいよ。」


トーストを食い終わる頃、調理器具を片したあいつが、正面に座る。

やけに、にこにこと微笑んでいる。

…………まぁ、理由は解っているが。


……………

「解ってるよ。結婚記念日だろ?今日。」

「正解。じゃあ、何で、私は、今日を結婚記念日に選んだのでしょうか?」

「はぁ?」

予想外の質問に、俺は考える気もなく、コーヒーを淹れる。


「覚えてないの?あさ君。今日は、あさ君があたしに告白した日だよ。」

「ほら‼映画観た帰りに。不良の人達をやっつけて‼」

「わかった。もう止めろ。」

恥ずかしい。30前になって、高校生の頃を話される事程、恥ずかしいものはない。


「と、いうわけで、今日はいっつも、お仕事でほっとかれる、私と恵日(めぐひ)に一日中、付き合ってもらいます‼」


俺は、小さなため息をついた。

「はいはい。」



海の近くの大きなスーパーによると、あいつはチビ助の手を引いて、早速服を買いに行った。

「やれやれ。」俺も、車から降りると、二人の後を追う。


「ドン。」肩が向かいから来た奴にぶつかった。

「すいません。」すぐに詫びを入れた。

「…………」男は、顔の半分が覆われた古緑色の帽子越しに、俺を見てきた。

「あの…………すいません、大丈夫でしたか?」帽子から覗く銀色の髪に、俺は、相手が外国人だと考え、身振り手振りを加えた。


相手の口元が「ふ」と笑った。

「大丈夫ですよ。神辺さん。」

突然の男の声に、俺は驚く。

外国人の風貌の男から流暢な日本語が、出ると同時にまさか、自分の名を呼ばれるとは思わなかったからだ。

「あの?なんで、俺の名前を?」

男は、再び無表情にこちらを見る。


「今、あなたは幸せですか?」

そして、突然の質問だった。

「は?え?……………はぁ…………それは…………まぁ…………」

「それは、よかった。

 これから、何があったとしても…………

 その気持ちを忘れてはいけませんよ。

 何かを得るという事は

 何かを失う事と同意なのです。

 今、今この時の幸せ。それが、貴方が決断し、得たものなのですから。」


「あの、貴方は一体……………?あれ?」

俺が、再び尋ねた時、まるで消えるかのように、その男は目の前から姿を消していた。

「なんなんだ?」

不思議な感覚に陥るが。

「あさくーーーん、早く早く‼パパ――――‼」

二人が離れた場所から恥ずかしげもなく俺を呼ぶ。

「わかった、すぐ行くから、大声で呼ぶな。」

ふっと、潮の香りがした。


―――――――――――――――


「あーーー、いっぱい買ったし、いっぱい食べたねーー。」

あいつが満足そうにそう言う。

「ねぇ、おうち帰ろ?」

チビは家が恋しくなったらしい。

「なぁ。」

俺の言葉に、二人が振り向く。

「折角近くに海があるらしいし、見に行かないか?」

「海?今、年末だよ?何で海?」

あいつは眉をしかめる。

「いきたーーい。海で、お魚さん、見たーーい。」

チビの力強い後押しがあった。

「まぁ………ちょっとならいいけど………何で海?」

あいつの言葉に、俺も悩む。

「何でだろうな?なんか、ふと思ってさ。」



車を港に付けると、堤防へと近づく。

まるで、冷蔵庫の中に入ったかの様な、冷たい空気がひゅうひゅうと吹いている。

「さむーい。」

「さむーい。」

二人が、後ろで同じような事を言っている。


「なぁ…………恵日。俺、お前に…………釣りを教えてやるって……………約束してなかったか?」


ふと、そんな事があった様な気がした。


「何言ってんの?あさ君。恵日は、まだ4歳だよ?釣りの意味も解んないって…………」

そう言いながら、俺の横に来たあいつは、続けざまに驚く。

「ちょっ‼あさ君?どうしたの??何で、泣いてんの??」

「え?」


その言葉で、俺は初めて自分が泣いている事に気付いた。


「え?あれ?何で?何で?」

頭の中で

寂しそうに窓から覗く、小さな男の子が見えた。


「何でだろう?


 何で


 涙が

 

 止まらないんだ?」


身も凍る様な冷たい潮風が


涙の後を、痛い程なぞっていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ