運命不良者 神辺旭~その5
「ぐちゃっぐちゃっ。」と、リズミカルに
不快になる、湿った様な
汚い音が響いている。
その、音の合間に
「うっ、うっ。」と、恵梨香の苦しそうな声が重なる。
やめてくれ。
頼む。俺を好きに殴ってもらって構わないから。
そいつだけは、傷つけないでくれ。
しかし、俺はその言葉を口に出す事は出来なかった。
身体のあちこちが痛い。初めて、血を吐いた。
その痛みと恐怖で
俺は、ガタガタと身体を震わし、その男達の目すら見れなかった。
ただ
泣く
男達に乱暴にされる
恵梨香の姿を
俺も泣きながら見ていたんだ。
―――――――――――
「何ですって!罪にすらならない⁉襲った子が全員、未成年だったから⁈ うちの子は、肋骨を三本も折られて、内臓にそれが刺さって、死にかけたんですよ⁉立派な傷害事件でしょう⁉」
病室の外で、母親の怒り狂った声が聞こえる。
「おまけに………おまけに………小金原さんとこの………恵梨香ちゃんは…………」
その先は、嗚咽を帯びた泣き声に変わる。
俺と、恵梨香は
映画を観た帰り、夕食をファミレスでとる事にした。
色々な、話をした。
互いの学校の話
友達の話
勉強の話
今日観た、映画の話。
どれも
どの会話もが
俺は、楽しすぎたのだ。
「ねぇ、あさ君。この後、もうちょっと遊ぼうよ。」
恵梨香の誘いに、俺の心が躍る。
「つってもさ、遅くなるぞ。親が心配するだろ。」
その言葉に、あいつは、真面目な顔で返す。
「何言ってんの?うちら、もう高校生だよ?それとも、ビビってんの?」
その楽しさが原因か。俺はその挑発にまんまと乗った。
「よぉし、じゃあ何処に行く?」
「待って、お母さんに、携帯で連絡だけしとく。」
「連絡しとくんかい⁉」
――――――――――――
病室には、ほぼ毎日誰かが来ていた。
襲ってきた奴らの代理人とかいう、偉そうな奴。
母親。
父親。
俺の内臓は、本当に深く傷ついていたらしく。
外の景色が花咲くまで、病室のベッドから離れる事は無かった。
そんなある日だった。
「あさ君。」
俺は、その声に身体を硬直させた。
「えり………か………」
そこに居たあいつは
青白い顔で
疲れた様な表情を浮かべていた。
俺の身体がガタガタと震える。
守ってやる事も出来なかった。
男なのに。
護ってやれなかった。
ごめん。
しかし、俺はただ、震えてあいつを見つめる事しか出来なかった。
「ねぇ、あさ君。」
「あの時、公園でさ。」
「何て言ってくれるつもりだったの?」
突然、あいつがそう言う。
俺の脳裏に、あの日の記憶が蘇る。
すっかりと遅くなった帰り、俺は恵梨香を家に送る途中で、公園を通った。
そして、その時。
告白しようと決意していたのだ。
そんな矢先の事だった。
「こんばんわぁ~、こんな遅くに、お二人でお散歩ですかぁ?」
ガラの悪い男に絡まれた。
俺は、恵梨香の手を握ると、急いでその場を離れようとした。
「おいおい、人の挨拶を無視するとは、どういうこっちゃ?」
俺達の行き先を塞ぐように、四人更に出てくる。
「こらっ、お前どう見ても年下じゃろう。こりゃ、教育じゃわ。」
「ガン」と、鼻の辺に大きな衝撃を受けて、俺は、思わず顔を下に向けた。
「がぁあ…………」ボタボタと、鼻から血が流れる。
「あさ君‼」
「おおっと、彼女。寒いのに、こんな格好してたら、風邪ひいちゃうよ?
仕方ないから、僕達が温めてあげよう。」
「………いやっ‼嘘っ‼助けて‼あさ君‼」
「あさ君はぁ、ちょっと、悪い子だからぁ、あっちで教育してあげるねぇ?」
「や、やめろ………そいつに手を………」
俺の言葉を最後まで聞かず、二人の男に、両腕を掴まれ、先程、鼻を殴った男に、思いっきり腹を蹴られた。
「うげええええ‼」初めて味わう、強烈な痛みだった。
―――――――――――
「ごめん、あさ君大変そうだし……もう、帰るね。」
そう言うと、彼女は微笑み、後ろを向いた。
「ねぇ、あさ君………」
そして、あの言葉を俺に問い掛けたのだ。
その翌日の事だった。
母親が、すごい勢いで俺の病室に飛び込んで来た。
何事かと、俺も慌てたが
母親の言葉で
俺も、生まれて初めて程の衝撃を
ショックを受けた。
「恵梨香ちゃんが
電車に
飛び込んだ。」