運命不良者 神辺旭~その4
「ねぇ~、あさ君。」
「あさ君は、えりの事…………好きだった?」
「えりが………もし…………」
「もしね?」
「綺麗なままだったら…………」
「あさ君の…………お嫁さんに…………」
「してくれた?」
――――――――――――――
「と、言う訳で。私達は貴方の『不良品の時間』を修復する決断を聞く為に、こちらの人間界にやって来たということなのです。」
少女の説明は、どうやら終わったようだ。
しかし。
俺には、何一つ納得出来ない。
例え、車の窓の外の景色を見せられたとしてもだ。
32年の人生で学んだこと。
『他人の甘い話は信じるな』だ。
後悔した運命を、過去に戻ってやり直せる?
バカな。
少なくとも、俺が体験した
『人生』といったものには
そのような
戯言は
ない‼
「いい加減にしろ。
なにが、目的かは知らんが。
あんた達のしている事は、犯罪だ。
今すぐ、車から降りるなら
警察にだけは言わずにおいてやる。」
俺は、精一杯の威勢を放った。
嘗められてしまったら、どうなるか分かったものでない。
「小金原恵梨香さん…………」
「‼」
「な、何故お前が、その名前を‼ 」
突然、少女から発せられた名前に、俺の頭は真っ白になる。
「知ってますよ。だって、貴方の運命の修復は
彼女の運命の修復にもなるんですもの。」
俺は、気付けば、その少女に掴みかかろうとしていた。
「キャ。」
しかし、俺の手はその見えている筈の少女の身体を擦り抜ける。
「む、むむむむ、無駄です。わ、私達は貴方達とは違う『天界使』なのです。じ、じじじじじ実体は貴方達に見える場所には、あああああああ、ありません。」
「アズメ。落ち着け。解っているなら。落ち着け。」
助手席の男が、少女にちゃちゃを入れているようだが、俺は更に混乱していた。
見えている。
こいつらの声も、はっきりと聴こえる。
だのに、触れれない。
身体をすり抜けてしまうのだ。
「わかった………」
二人が、俺の方を向く。
「もう一度…………
もう一度、詳しく説明をしてくれ。」
―――――――――――
俺は、約束の時間よりも、随分早く待ち合わせ場所に着いていた。
「お待たせ~~あさく~~~ん。」
その背後の掛けられた声に、俺の胸は激しく暴れる。
見たい。
と言う気持ちと
恥ずかしさが
同等の力で、俺を縛り付ける。
「よしよし。遅刻してないなんて、偉いじゃんか。」
小さな頃から。
こいつを見ている。
お互いが違う『性』なのだと、意識し始めたのは
いつからだったろう?
ああ。
俺は、着飾った恵梨香の姿を見て思い出す。
そうだ。中学校の制服を着たこいつを見た時。
本当に『可愛い』と、俺は心底思ってしまったんだ。
そう、今現在の俺と
同じ様に。
「さー、じゃあ。今日はしっかりと、エスコートすんだよぉ。あっさくん♪」
そう、明るいトーンを言葉に混じらせて、俺の腕を両手で抱きしめてくる。
「ど、どわああ。や、やめんかい。」
慌てて、振り解く。
「嬉しいくせに。」
俺に、聞こえるように、あいつはボソッと呟いていた。
「それにしても、寒いねぇ。早く映画館に行こうよ。」
そう言うと、また俺にくっついてくる。
冬が、はっきりと身近に感じる季節。
周囲は、それに確かに冷やされ、凍える様な寒さを帯びていた。
ただし
二人が重なっていた部分だけは
例外であった。