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めざせ人間国宝

 椰子ノ川市に古来より伝わる南蛮踊り・笠出破道かさではどうは戦国時代、この地に漂泊したポルトガル船員が地元民に歓待され、酒に酔って踊ったことが由来とされている。


笠出破道とは奇妙な呼び名だが、これはポルトガル語のcasadefadoカーサデファド、『ファド(ポルトガル民謡)の流れるレストラン』から来ているという説が有力だ。

以来、笠出破道は子授けで有名な雲子白神社の夏祭りで踊られてきたが、明治時代に一度途絶えた。


それを世界の舞踊研究家・真鍋勉蔵氏が再発見し、現代のヒップホップダンス技法も交え、カサデハ流に昇華。自ら家元を名乗るようになったのだ。



「良いですか? ではComeço コメ-ソ(初め)の合図で男女役が互い向き合って。ここでフォルテパッソ、それからエントルノッチ! 笹丘さん、娘役はもっとグラッシアザッメッチ(優雅)に!」

 稽古をつけてくれている師範から厳しい指摘がされた。


「Eu entendo エウェテンド(分かりました)」

 私はポルトガル語で答えて、優雅に(?)跳びはねる。


 いくら元々がポルトガル由来だとしても、何百年も日本で伝承され、しかもいちおう着物を着て踊る日舞と名乗っているのに、何故ポルトガル語でやり取りをする必要があるのか分からないが、これもこの踊りの型なのだろう。


 ひとしきり汗をかいたあと、先の昇級試験の結果が言い渡された。

 舞踏会館にぎっしり詰めかけた弟子たちが固唾を呑んで見守る中、貼り出された紙には私の名がなかった。3ヶ月も後から入門した山田さんは昇級したというのに。

 何故なのかは言うまでもない。私は貢献度が足りないのだ。



 近年カサデハ流はすごい人気だ。家元の方針で、神戸まつりのようなパレード形式のものは元より、徳島の阿波踊りや浅草のサンバカーニバル等にも踊りをアレンジして参加。全国各地で懸命にアピールしている。だが、本当に会員が増えているのは別のわけがあるのだ。


「今回、貢献賞を受賞された方はポイントを授与しますので事務局にお越しください」

 そのアナウンスで貢献者は我先にと事務局に向かう。

 その中には練習の場で殆ど見かけない人も混ざっていた。


 実はカサデハ流は入門者を紹介すると、1万ポイントが紹介者に与えられる。このポイントを貢献賞といって、舞踏会館内のレストランや購買部で着物等と交換できるというものだが大手スーパーやデパートとも提携していて、実質1万円分の金券に当たるのだ。入会金が2万円だから還元率はその半分ということになる。


「なんだか納得がいかないわねえ」

 稽古仲間の吉村さんがぼやいた。私も彼女もカルチャーセンターで講座を受け、本格的に踊りを学ぼうと入門した者だ。上の人達の方針には逆らえないが、踊りが目的でない人も混じっているのが気にいらない。


「名取の資格もいちおうは長年稽古に励み師範の推薦があった人となっているけど、実際名取の試験を受けるには、お名前料、会館使用料、家元、支部長、師匠へのお礼、お車代と1千万円位かかるらしいから、お金のある人なら踊りがうまくなくても許可してるらしいわ」

 と、続けた。

「でも、そういう人が経済的に支えてくれるから運営できるんじゃないの」

 私は練習用の着物をたたみながらそう言った。ところが、

「それがね。この流派では名取になると指導者報酬が毎月数十万円も出るらしいのよ。普通は師範の資格をとって、踊りを教えて、お弟子さんから稽古料を頂くものでしょ。名取で多額の報酬っていうのも変だわよ」

 吉村さんはなおも食い下がった。


「いずれにしても下の者が批判できないのが、この世界よ。もし何か言いたければ、もっと練習をしてテレビの素人名人会にでも出て、良い成績を上げれば、おのずと家元特例推薦でお金もいらずに師範になれるって」

「そうね。やるからには大きく、めざせ人間国宝といきましょう」

 と、この時は二人で意気投合したのだが・・・、


 数日後、舞踏会館は閉鎖。カサデハ流は消滅してしまった。

 家元が逮捕されたそうで、なんでも罪名は「無限連鎖講(ネズミ請)の防止に関する法違反」だったそうだ。


      ( おしまい )


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