やっちゃいました。
少し残酷な表現が混じってます。
読む時は心の準備をしてお読み下さいm(__)m
「治癒出来る奴はいないかー!?」
その一言で冒険者ギルドの中が一気に緊張感に満たされた。
どこから湧いて出たのか、今までガランとしたギルドの中は10人以上の人が怪我をした人を背負ってる人に向かって「ここにおろせ!」「かなり酷いぞ!」と叫んでいます。
その中には、さっきギルド登録を受け付けしてくれたお姉さんもいて「どうしよう。」と狼狽えた様子で立ち竦んでいた。
「早くしてくれ!! 治癒師はまだなのか!!」
傷だらけの人をおろしたその人は受け付けのお姉さんに向かって怒鳴っています。
「すみませんが、今現在治癒師の方はいません。 大型の討伐が少し前に入ってきて、全員そちらの方に・・。」
受け付けのお姉さんはすまなそうにそう言って頭を下げた。
ギルドの中ってこんなにガランとしているのかなー?と思った最初の印象はそのせいだったのかと納得した。
よくあるよねー。
ギルドに入った途端に絡まれたりとか、野次を飛ばされたりとか。
あれってギルド入りたての新人に対しての最初の洗礼だよねーと思いながらこのギルドの扉を開けたので、何もなくてちょっと拍子抜けしてたんだよ。
そんな事を思いながら傷ついた人に「大丈夫か!?」「もうちょっとだからな!」なんて声をかけてるのを立ち尽くしてみていると、再び扉が開く。
「おい!こっちも助けてくれ!!」
そう言って入ってきたのは、足が変な形に曲がったまま誰かを背負っている男の人だった。
自分も痛いだろうにゆっくりと背中の人をおろすと、まだ若い男の子のようだ。
「ジェイル!?」
その男の人と知り合いのようで、先に入って来た人が声をかける。
「ブルード? そこに倒れてるのはバグスか?」
「ああ。 依頼でコボルト討伐に出てたんだが、運悪くオーガに見つかっちまってな。 しかもオーガメイジまでいやがったもんだからこのザマさ。」
「オーガメイジだと!? それで?バグスは?」
「今治癒師をお願いしたんだが、大型討伐があって全員出払ってるらしい。 くそっ!!」
傷ついた人を気にかけながら二人で話す冒険者。
だけど、治癒師が出払っているとの言葉を聞いてジェイルと呼ばれた人が青ざめる。
「本当かそれは!! こっちもルードがやられちまってやっとの思いでギルドまで来たってのに!!」
「お前の所は回復師いたよな? 確かメインって名前の女の子。」
「メイン・・。 こっちはただのウルフ討伐だったんだが、シルバーウルフの団体さんに目をつけられちまってな。 一人で後方にいたメインが一番先にやられちまった。 俺たちはシルバーウルフがウルフに気を取られてる間に何とか逃げてきたんだよ。」
オーガメイジの言葉に騒然としたギルドの中だが、続くシルバーウルフの言葉にみんなの顔が青ざめる。
「オーガメイジにシルバーウルフ・・。 大型討伐の最中にそんなモノが。」
受け付けのお姉さんの呟きにみんなが項垂れる。
(シルバーウルフって銀色の? オーガメイジって名前からしたらちょっと大きいオークっぽいヤツの魔法使いバージョンかな? でも、あれってそんなに強かったっけ?)
ミノリは知らないが、オーガメイジは通常三体〜四体の群れで行動する。 普段はありえないが、たまにそこにメイジやアーチャーなどが混じって行動することがある。
その場合、オーガの群れだけだとCランク程度での討伐が可能だが、メイジやアーチャーが混じると一気にそのランクはAへと上がる。
そしてウルフ討伐は通常討伐の部類に挙げられるが、シルバーウルフの群れとなるとBランク相当となるのだ。
「今ここには治癒師は・・」そう言いかけた受け付けのお姉さんと私の視線が重なる。
これってフラグ?
もしかしてヤバい?
そんな私の内心をよそに受け付けのお姉さんが懇願するように走ってきた。
「ミノリさん!でしたよね!! 確か治癒術が使えると申告にありましたよね!!」
受け付けのお姉さんの大きな声にジェイルと呼ばれた人とブルードと呼ばれた人がこちらを凄い勢いで見てきた。
「本当か!?」
「治癒師なのか!!」
二人の重なった言葉に(受け付けで書いたのはちょっと早まった・・)内心ガックリ来ながらも小さく頷く。
「頼む! 金は出すから助けてくれ!!大事な仲間なんだ!」
「俺の方も!! 頼む!」
二人からの鬼気迫るような声と迫ってくる様子に「わかりましたからちょっと離れて下さい。」とお願いする。
「ギルドからもお願いします! 依頼として!」
そんな受け付けのお姉さんの言葉もあって私は怪我をしている二人に近づく。
最初にブルードと呼ばれる人に担がれてたバグス。
そちらの方へ行くと、手も足も曲がってはいけない方向に曲がっている。
足先から下は潰されたかのようにグチャグチャ。身体もかなりの傷だらけだ。
これで生きている方が凄いと思う。
もう一人ジェイルと呼ばれた人と一緒に入って来た人もかなりの怪我で、右足から下は食い千切られ、お腹も齧られたのか歯型がある場所の肉がえぐられていた。
周りの人は「あぁ足が・・」「これはもう冒険者は・・」と、小さな声で何か言っていたが、私には聞こえない。
状況的に先にこちらの方だとバグスと呼ばれた人に向かって両手を伸ばす。
全身打撲と出血がかなり酷かったから。
もう一人は右足とお腹の肉が無かったが、血止めの何かを巻いているのか出血量が少ないのだ。
全身のサーチを行い、負傷箇所をまず調べる。 外傷以外がなかったのを確認して「ヒール」を唱える。
手の先から何かが抜け出るのを感じて、目を閉じた。
周りからは軽くどよめきが聞こえたような気がしたが、ミノリの意識には感知しない。
それから一分もたたないうちに手の先から出ているモノが終了し、終わったことを感じる。ヒールを使用する場合は普通、術者が魔力の開始と終わりを決めてから行う。だがミノリの場合、傷が治った事を魔力が直に知らせてくるのだ。 そのため、完治と同時に魔力が自然とミノリから出るのをやめる。 これは通常ではありえない事だ。
目を開けて倒れてる人を確認して、一応サーチでも治ったか確認しておく。
だが、すぐに後ろを向いてもう一人の治癒を始める。こちらの方はお腹や足に巻いた物をとってみると、お腹の傷口が紫がかっていたので、毒か何かがあるとミノリは感じた。。
先ほどと同じように両手を伸して先にサーチを行う。するとやはりミノリが感じた通りお腹の肉が毒に侵されていた。
そして肋骨の一本が折れて少しだが内蔵に傷をつけていた。
これは普通のヒールでは治せないと感じたミノリは、毒と共に傷を治すための術式を唱える。
「キュアエクストラヒール。」
その一言でまたも周りが騒然となるが、目を閉じて魔力を流すミノリにはやはり感知しない。
治癒は集中力が大事なのだ。使う時は他に気を散らさないようにと水のラクィアと光のクラルテに言い聞かされていたミノリ。
なので、周りの言葉などはミノリの耳には入ってきていても頭までは届かない。
そう。
ミノリが行っているのは治癒どころではなく、完治だ。 それは他の治癒師がいた所で行えるモノではない。
例えば、右足を無くしている冒険者。
今、周りの人の目にはそれが完全に治っていく様子が見えている。
骨を形成し、筋肉を骨の周りにつけ足としての形状が共通りになっていく。
お腹の方は紫がかった色が綺麗になり元の状態へと戻っていく。
普通、治癒というのは無くした物まで治すことは出来ない。無くした場所は無いままで治っていくものなのだ。
今、ここにいる冒険者や、ギルドの人は奇跡を目にしている。
ミノリの手から魔力が途絶え、やっと完治した事をさとる。
(うわー結構MPとられたかも。 半減ついてるのに3分の1も減ってる。)
今まで治癒や、魔法を使っても300も使わないミノリ。
それがこの治癒だけで1700も減っていた。
当たり前だ。 一人は全身打撲に足先の複雑骨折。もう一人は右足とお腹の形成まで行ったのだから。
きちんとサーチをして完全に治ったことを確認してから「終わりました。」と告げる。
だが、それだけじゃ無かったはずだ。
ジェイルと呼ばれた人も足をやられていたはずなのだから。
終了の合図をしたのに物音一つしない事に気付き周りを見回して、その不自然な静けさに頭を傾ける。
そして周りを見てみると、皆呆然として突っ立ったままだった。
(ミノリすごいねー!)
(無い足が出来ちゃった!!)
そのチビちゃんの喜びの声に又もミノリは心の中で叫んだ。
(もしかしてやっちゃったーー?)
フラグやありきたりの話が好きなんです。