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精霊に愛されし早少女  作者: 月宮 (つきのみや)
私がこちらに来た日々は
1/18

世界からはじき出された。

新しいジャンルに挑戦です。

不定期更新となります。


「お母さん。今日も1日元気に行ってきます。 」


 登校前に小さいけどバイトして貯めて買った仏壇の前で、毎朝の日課であるお祈りを済ますと鞄とお弁当を持って小さなアパートの玄関から外に出た。


「おはようございます。」


玄関を出てすぐに隣に住んでいる大家さんのおばあちゃんに挨拶をする。


「おはようねぇ。みのりちゃん。」


 ずっと母と二人で住んでたアパート。

私が二歳の頃に交通事故で、お父さんが亡くなってからマンションのローンが払えなくなったお母さんは、住んでたところを引き払ってこのアパートに越してきた。

お父さんには身寄りがなく、お母さんも唯一の家族はおばあちゃんだけだった。

そのおばあちゃんも私が三歳の頃に亡くなって。


最初はおばあちゃんが住んでた家に住むことになってたんだけど、おばあちゃんの親戚って人がやってきて葬儀も全部その人がやって、最後には家もその人が相続することになってた。

私がおばあちゃんと呼んでた人は実はひいおばあちゃんで、おばあちゃんの親戚って人はひいおばあちゃんの息子だった。


「勝手に家を出て知らん男と一緒になって! もうとうの昔に縁を切ったというのに自分は死んで子供だけを押し付けて! そんな娘の子供であるあんたにこの家をやるわけなかろうが!!」

お母さんが葬儀に出た時にそう罵倒されて結局おばあちゃんの家には住めなくなった。


そして住む所を探していたら、おばあちゃんの知り合いの大家さんが声をかけてくれて、その好意で格安で借りる事になったのだ。


そして高校入学して初めての夏のアルバイト。

少しでもお母さんの助けになれば・・と思い、初めたのはスーパーのレジ打ちだった。

もともと何か作るのが好きで、自作でぬいぐるみとかを作ってインターネットでお母さんの名前を借りて少しだけ販売とかしてたんだけど、それだけじゃやっぱりダメだと思い、高校入ってすぐアルバイトするはずだった。


でも、最初のテストで少しだけ悪い点を取ってしまい、アルバイトは夏まで禁止になった。

そしてやっと見つけたアルバイト。

夏休み入ってすぐから初めて、8月25日のお給料日。

一か月くらいしかないので多くはないけど、まとまったお金をお母さんに渡せるとニマニマしながら自宅に帰った。


「このお金があればアパート代くらいにはなるし、残ったのは大事に貯金しよーっと」


そんなことを思いながら朝から体調が悪くてお仕事をお休みしていたお母さんが待っているだろう部屋の玄関をあけると、ムンっと暑い空気が中から出てきた。


 母娘二人。ちょっとボロのアパートなのでもちろんエアコンなんて無い。

でも大家のおばあちゃんのおかげでかなり安く住んでるので文句は無い。

今まで扇風機でやってきたし、これからは私もバイトするし、そしたらクーラーを買えばいい。なんてお母さんとも話していた。


今日は朝から暑くなるって予報出てたし、お母さんも扇風機かけて一日は寝てるから明日には体調もよくなるって朝ご飯を食べながら話してた。


そんな暑い部屋の中に入りながら奥へ向かって声をかけた。


「お母さーん、ただいま!! 今日初めてのお給料出たよ。」


冷蔵庫に入っている麦茶を飲みながら寝ているだろう奥の部屋に向かって声をかけるが、返事はなかった。


「お母さん寝てるの? かなり暑いけど大丈夫?」


麦茶のコップを台所のシンクに置き、額から落ちる汗をぬぐいながら奥の部屋へと歩を進める。


この部屋は台所の側に小さいけどトイレとお風呂は別にあって、台所もテーブルを置けるくらいには広い。奥には二つ部屋があり、手前は4畳半、奥はちょっと広めの六畳の畳部屋だ。

ちょっと昔風の建物に、畳も色あせてるからなんて安くしてもらったけど、お部屋的には2DKはあるしとても広いと思う。


そして六畳の部屋に今日はお休みのはずのお母さんが寝ているはずなので、起こさないようにそっと襖を開ける。


と、そこには薄い掛け布団を被って扇風機をつけたままでお母さんが眠っていた。


「お母さん?寝てるの?」


手前の部屋の襖から顔だけ出して声をかけるが起きた様子はない。


(なんだ。 せっかくお給料もらったからちょっと豪勢にお肉でも食べようかと思ってたのに。 しょうがない。)


体調の悪いお母さんの代わりに今日は私がご飯を作ろうと思い、襖を閉めた。


「お買い物にいこーっと。」


買い物をして料理を作ってると起きてくるだろうと思い、その場を立ち去った。


今、思えばあの時、お買い物なんか行かずにお母さんの様子をよく見てれば良かった。

あんな暑い中、薄いとはいえ掛け布団を被って寝てるのだ。 熱中症にかかってもおかしくない状態だった。


でも、その事に気づいたのは買い物をしてすき焼きを作って食べる為にお母さんを起こしに行った後だった。


その時にはもうお母さんは冷たくなってて、私はパニックのままお母さんを呼び続け、その声に気づいた大家のおばあちゃんが部屋に入ってきて私を抱きしめてくれるまで私はずっとお母さんをゆすり続けていた。


 お医者さんが言うにはお母さんはお昼前にはすでに亡くなっていただろう、死んだのは頭の中の血管が爆発したからだと言われた。

お母さんはその前の健康診断で、ひっかかってて頭の中の血管が詰まってて、いつ爆発してもおかしくないから早急に手術か必要だと言われていたらしい。

だけど、手術には多くのお金が必要だから・・と悩んでいたようだった。


大家のおばあちゃんや近所の人の好意で小さいながらも葬儀を開いた時、たくさんお母さんの知り合いの人がきていてその中の一人にそう言われた。


私がいなければ、お母さんは手術ができたかもしれない。

私がいなければ、お母さんはこんなに早く死ななかった。


葬儀の間や葬儀が終わった後もお母さんの知り合いの人が来てみのりちゃんが悪いわけじゃないって言ってくれるけど、その度、私の中では(私のせいなんだ)

と自分が自分を責めていた。


そしてお母さんが死んでから半年の今日、私は高校二年に進級する。


本当はお母さんが死んだ時に高校はやめるつもりだった。

だけど、お母さんのタンスを整理していた時に見つけてしまったのだ。

「みのりの大学の為のお金」と書いた紙を挟んだ通帳を。


お父さんが交通事故で死んだ時、少しだけどお金をもらっていたらしい。

そのお金と後は月々少しだけどお母さんはお金を貯めてくれていた。


「大学の為のお金」と書いた紙の裏に交通事故の保険金や、仕事のボーナスでの貯蓄など、まとまったお金を入れる時に書いたであろう文字があったのだ。


その紙を見た時、大学は無理でもせめて高校は出よう。そう思った。

これから先、保証人がいる事もあると聞いていたのでどうしようかと思っていたが、おばあちゃんの葬儀でお母さんを怒鳴ったあの男の人が名乗り出てくれた。


お母さんを怒鳴った後、その男の人は親戚や奥さんに散々言われたそうだ。

「あんたのただ一人の姪っ子になんてことを!」と。


それ以来謝りたかったが、なかなか出来なくて、お母さんの葬儀の時におばあちゃんの家を売ったお金を少しだけどもらう権利があるからと言って手渡され、そしてこれから就職とかで大人の手が必要な時は連絡しなさい。と住所や電話番号の入った紙を渡されたのだ。


正直、一人になってこれからどうしようと言う思いがあった。

もしかしたら保護施設へ入れられたりするのかな?なんて思ったりもした。

でも、その人のおかげでアパートにそのまま住み続けることができ(大家のおばあちゃんも力になるからって言われてた)周りの人に助けられながら、私は高校に通っている。


もちろんスーパーのレジも続けている。

貰ったお金や、お母さんが残してくれたお金には極力手をつけたくない。

なので、学費などはそこから出しても、生活費や、アパート代はアルバイトのお金から出している。


どうしても足りない時だけはそこから少しだけ使うけど、切り詰めて食事も一人分だし毎日自炊しているので何とかギリギリだけどやっていけてる。


そして、毎朝の日課であるお祈りが終わった朝、大家のおばあちゃんにも挨拶をして新しい学期の始まりにふさわしい晴天の中、学校へと向かっていた。


その日ーーーーーーーーーー。





私は世界からはじき出された。




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