アイドル戦記
時は二〇二六年、世界はVRの黄金時代を迎えた。
世界地図の東の果て、日本。
一九七〇年代の『スーパースター★誕生日』を起源として一般人からアイドルが生まれるこの国の芸能文化もVRは侵食した。
『おわんこ倶楽部』、セクシーアイドルグループの台頭、テレビオーディションからの『イブニング娘』、そして二〇〇〇年代に入っての会いに行けるアイドル『BLC31』、そして今、最も輝くアイドルとは……。
「ファイアーストーム!」
月光姫の装備に身を包んだ少女が星屑の杖を振ると、そこから熱の奔流が巻き起こりボスエネミーを包んで行く。
「「「「ファイアーウォールぅぅう」」」」
続けて野太い男達の声によってエネミーの周囲を炎の壁が包みこむ。
やがてボスエネミーはその体を金色の粒子へと変えていく。
「やったぁ!ありがと!」
少女が振り返って、男達と握手を交わしていく。
銀色のミニスカートの衣装にサラサラの黒髪、シミひとつない肌にプルンとした唇。
可愛らしい少女だった。
「あれ、でも氷結の杖、ドロップしなかったぁ」
少女が空中に浮かぶホログラムウィンドウを操作して、うなだれる。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕がドロップしたですっ!」
男達の中の1人が、手を挙げる。
「ユイたんにプ、プレゼントするですっ!」
途端に、少女が嬉しそうな顔をする。が、すぐに泣きそうな顔をして言った。
「……で、でもぉ、ドロップ確率1/512なんだよ?私が貰っちゃうなんて、そんなの悪いよぅ……」
「い、い、いいんです!僕のあげた星屑の杖をユイたんが使ってくれたら、僕はそれだけで幸せなんですっ!!」
「ありがとうっ!だーい好きっ!次の冒険もユイのこと、守ってくれる?」
「「「「もちろん!!」」」」
「次のスペシャルな冒険は<真闇の街道>だよっ!装備に星屑シリーズないとはぐれちゃうから、装備してユイと冒険してねっ!」
「「「「もちろん!!!!」」」」
オンラインゲーム『アイドルウォーズ』。そこには何人ものアイドルがいる。
一緒に冒険できるアイドル。
ファン達はガチャ(有料)をひたすらぶん回し、冒険チケット(SSSレア)を得たファンのみがアイドルと冒険に行く。もちろん、ここでアイドルにかっこいい所を見せるために日頃のレベル上げも怠らない。さらにはスペシャル冒険イベントともなると、特殊なボスキャラ(フィールド入場料有り)からのドロップ品とスペシャルガチャドロップ(SSSレア)が必須となる。
しかし、かつてのアイドルとは握手できても数秒だけ。それがここでは数時間に渡る冒険を共にできる。
男達は熱狂した。
そして、性別の逆転したゲームでは女達も熱狂した。
「ふぅ、疲れたー」
先ほどまでVRメットを被っていた少女は、ガシガシと頭を掻いた。
「あー風呂入りてぇ」
薄汚れたジャージ。荒れた肌、艶のない髪、ガサガサの唇。
ちらりと時計を見ると、次のログインまで5分だった。
「ったく、あいつら何で自分らで攻撃しねぇんだよクズかよ死ねやこらぁ」
スポーツドリンクを飲みながら口汚く罵った。
「てめーらが長引かせたいからってあたし1人にだけアタッカーさせるとかふざけてんじゃねーぞ。次はサクサク攻撃する奴こねーかなー」
そしてまたVRメットを被ってログインする。
「今日はユイのために来てくれてありがとうっ!ユイね、強い人ってかっこいいなって思うの」
VRゲームとアイドルと課金ガチャ。
混ぜてはいけない。