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精霊再起の簒奪者  作者: 芹沢歩
第一章
10/154

010 エピローグ


 ◇


 レティは目を覚ます。いつもより早い目覚めだ。

 昨日は村の恩人であり、自分の恩師でもあるテオが亡くなった。そのことからいつもより早く目が覚めたのかもしれない。

 今日は忙しくなる、そう思い、朝食の用意をしようと隣に眠る夫を起こさぬようベッドから抜け出す。


 部屋を出て顔を洗う。冷たい水だったが、今日はこれくらいがちょうど良かった。眠たい目で会いに行ってはテオを快く送れない。きっと会えばちょっぴり泣いてしまうだろうが、それでも心構えは大事だと。

 レティは、次に朝食の準備に取り掛かろうと台所へ向かう途中、居間にあった裁縫道具が目に入り、足を止めた。

 そういえば、とレティは台所へ向かう足を居間に向け、ある物を手に取りながら口を開く。


「こんな時だけど、ルークは喜んでくれるかしら……」


 手に持ったのは昨日の裁縫で作り終えたばかりの黒い外套だ。

 レティは夫――ルークが帰って来る日に合わせて作り、本当ならば今日の収穫祭に手渡すはずのだったが、テオの死もあり、戸惑われた。

 きっと収穫祭も中止になる。それならば、普通のプレゼントとして別の日に渡した方が良いだろう、レティはそう思い、ルークに似合うだろうかと外套を広げる。


「……あら?」


 レティは外套を広げ、疑問を口にする。ルークが着るには少し小さい気がしたのだ。

 そんなはずはないと目から遠ざけたり近づけたりするが、サイズが変わるはずもなく……。


「……やっぱり小さい」


 いつも側にいる夫のサイズを間違えるはずがないと思いながらも、レティは自分のことをほんの少しだがドジな性格であると自覚している。


「いやいや、きっと慣れないお裁縫で思ったよりも小さくなってしまったのね。いくら私がおっちょこちょいでも、サイズを間違えるはずがないわ」


 細かいことだと気にはしない。

 どうせ今日は渡さないのだ。それならば、新しく作ればいい。ルークにはもう少しだけ小さい外套で我慢してもらおう、と考える。

 次に考えたのはこの外套をどうするかだ。せっかく作った外套なのだ。無駄にするには惜しいものがある。だが――


「……この子には悪いけど、タンスの奥で寝てもらおうかな」


 レティはタンスの奥に仕舞っておくことにした。

 レティ自身も何故そうしようと思ったのかはわからない。ただ、誰かに着てほしいとは思わなかった。


 手に持つ外套をたたみ、裁縫道具と並べて置く。今は朝食を作るほうが先決だ。ルークも今日は早く起きてくるに違いない。

 しかし、居間から出て台所へ向かう途中、今度は玄関横の外套掛けが目に入る。

 そこにはルークの外套が掛けてあり、それを見たレティは疑問を浮かべ、外套掛けに近づいてルークの外套を手に取った。


「……おかしいわね」


 手に持ったルークの外套は、古くなければサイズが小さいということもない。よくよく考えれば成長期などとっくの昔に終わっている。今になって体が大きくなることもなかった。


「どうして外套を作ろうと思ったんだったっけ……?」


 口に出して考えるが、答えは出ない。

 そこでふと玄関の扉にある窓から外を見る。扉の窓から見える木の根元がいつもとは違う風景であることに気づいたのだ。

 レティは疑問を抱き、正体を確認しようと窓から覗く。すると――


「――人だわ!」


 レティはあまりの驚きに大きな声を出した。木の根元に見えたものは人間だったのだ。

 焦りながらも急いで玄関のドアを開けて外に出る。この地方は寒く、外で寝ようものなら凍死はまぬがれない。

 木の根元を背に背を預けるようにして眠る人間、歳は十五――成人したかしてないかといったあたりだろうか。村では見かけない少年だったが、レティは不思議とどこかで出会ったことがあるようにも感じる少年だった。

 レティはピクリとも動かない少年に触れ、


「よかった、まだ熱がある」


 外套も着ていないというのに不思議なことだが、少年がまだ温かいことに安堵する。まだ眠ったばかりなのかもしれない。


「起きて! 起きてください!」


 しかし、このまま放っておくこともできないと、何度も少年の体を揺らして声をかけ――


「あ、あれ? おかしいわね。どうして前にもこんなことがあったように思うのかしら……」


 ふと頭によぎる光景があった。

 以前にも……あれは外ではなかったはずだが、この少年のように何度も体を揺すって誰かを起こそうとしていたような気がしたのだ。それがいつのことだったかは、思い出せない。夫を起こそうとした時かと思ったが、夫の寝起きはいい方だ。


「っていけない! 今は考えている場合じゃないわ。起きてください! 死んでしまいますよ!」


 気を取り直して呼びかける。

 少年は死んだように眠っていたが――


「――え? あっ!?」


 レティの声にやっと気がづいたのか目を覚ます。次にレティの顔を見て驚いたように跳ね起きると、あたりを見渡し、最後に空へと視線を送った。

 レティは空に何かあるのかと同時に見上げるが、少年は夜か朝か――現在の時刻を確認したのだとわかり、少し顔を赤くしながら少年に向かって口を開く。


「おはようございます。よかった。こんなところで寝てるから凍死してるのかと思いましたよ。窓から外を見たら人がいるんですもの、驚きました。体が温かかったから声をかけて、本当によかった」


 少年はレティの言葉を聞き、驚きと少しの悲しみが混じった表情を見せたが、気を取り直したように口を開く。


「お、おはようございます。起こしてもらって、その、ありがとうございました」


「いえいえ、いいんですよ。それよりどうしてこんなところに?」


 初対面の人間に起こされたからだろうか、少年は慌てたように口を開いたが、レティは気にすることなく続ける。


「僕は……山の向こう側から来たのですが、盗賊団が山を越えたとの知らせを聞いて調査に来たんです。皆さんお疲れなのか、入り口の門番の方も眠ってらしたので……勝手とは思いながらも、盗賊団が来ていないかと村の中を見せてもらったんです。ですが、僕も疲れてここで眠ってしまったようで……」


 レティは少年の言葉に驚く。山の向こうに村や街があることは知っているが、こんな成人間もないような少年が一人で山を越えてきたのだ。さぞ大変だったに違いない。


「まあ、そうだったんですか。まだお若いのに大変ですね、お疲れ様です。確かに盗賊は来たのですが、テオさん――あ、いえ、なんて説明したらいいのかしら」


 少年を労いながらも、盗賊のことを説明しようとテオの名を出したところで、余所から来た人にテオの名を出してもわからないだろうと考え、躊躇する。


「そのテオさんが退治された?」


 少年はレティの考えがわかったように口を開き、レティも少年が聡いことに関心しながらも同意する。


「ええ、そうなんです。最後はテオさんも亡くなられてしまって……村に色々してくださって大恩ある方なのに最後まで村のために――」


 少しでもテオのことを知ってもらいたかったのだろう。レティはテオの話をしようと口にしたが、ふいに目頭が熱くなるのを感じ、涙が流れる前にやめることにする。

 余所から来た人には関係のないことだ。涙を見せて語っても、理解はされないだろうと。


「あっ、ご、ごめんなさい。こんな話、余所から来た方にしても仕方ないですよね」


「いえ、僕も気持ちはわかります」


 レティの言葉に少年は本当によくわかるといった感じで、今にも泣き出しそうな顔をした。少年も同じような経験があったのかもしれないと、レティは悟る。


「それでは結果を伝えないといけないので、僕はこれで帰ります。ありがとうございました」


「ごめんなさい。長々と。ところで外套を着ておられないようですが……」


 少年は調査のために来たと言っていた。山の向こうから来たというのであれば、報告が必要だ。

 それに少年にも両親がいるはずである。少しでも早く安心させたいのだろう。話を切り上げるようにして帰ると言うのはレティにもわかるが、レティはこのまま帰すには気が引けた。

 少年はこの寒さの中、外套も着ていないのだ。このまま帰らせると山越えで今度こそ凍死するかもしれない。


「あ、これは来る時に急いでいたので、枝に引っかかり破れてしまって着れなくなったものですから……暖を取ろうと燃やしてしまって……」


「このあたりはこれからもっと寒くなりますよ? ……そうだ、ちょっと待っていてください」


 レティは暖を取るなら木の枝でも集めて燃やせばいいのでは? とも思ったが、寒さで枝が湿り、燃えなかったのかもしれないと考え直す。

 そこで少年が外套を持っていないのであればと、少し待つよう言い残し、家の中へと戻ると急いで居間へ行き、先程の黒い外套を手に外へと戻る。

 少年の返事はなかったが、待ってくれていたことに胸をなでおろす。


「これを着てください」


 少年に近づき、手に持った外套を突き出す。


「え!? あの、これ……」


「夫に作った物なんですが、私ったらサイズを間違えてしまって。他に着る人もいないので、よければ着てください」


 レティは誰にも渡すつもりはなかったが、何故かこの少年になら渡してもいいと思えたのだ。


 少年は戸惑っているのか、受け取ろうとはしない。

 そこで外套を広げ、少し強引に着させる。少年は抵抗しようともしなかった。

 サイズはほんの少し大きいが、この年頃ならば、まだまだ成長期だろう。


「よかった、ちょうどですね。まるであなたのためにこしらえみたいだわ。あなたくらいの年頃なら、まだまだ成長期ですもの。ちょっと大きいくらいがいいんですよ。色はこの地方に合わせて白にしようかと思ったけど、汚れも目立ちそうなので黒にしたの。男の子にはその方がいいでしょ?」


 少年は無言で外套を見ていたが、急に目から涙があふれたのを見てレティは慌てる。


「えっ、あ、あの大丈夫ですか?」


 レティは尋ねるが、少年の耳には届かない。

 この時、少年は自分の選択は間違っていたのだと考えていた。

 たとえ最後には家族から嫌われることになったとしても――記憶を消すべきではなかった、と。


 少年――ルシードは昨夜部屋に戻った時から今の今まで、まるで心が麻痺したかのように他人事と感じていたのかもしれない。アルマリーゼの甘い言葉に乗り、記憶を奪うと決めた時もそうだ。

 きっと今なら記憶を奪わないでくれと言うだろう。


 ――しかし、もう遅い。


 ルシードは大切な人に忘れられるというのは、こんなにも辛いことだったのだと痛感する。

 あの選択をした時から自分の血が冷たいものになっていた気がした。人間ではない何かに……。

 けれど、母のおかげで、人間に戻れた気がした。

 我慢できなくなり、口が開いてしまう。


「――母さん、ありがとう」


 言葉にするつもりはなかった。それでも言葉にしないわけにはいかなかった。

 ルシードは泣いて震える自分の体を抱きしめ、小さな声で、だが、はっきりとレティの耳に聞こえる声で言った。


「え?」


 ルシードの声を耳にしたレティは、まるでこの少年が自分の息子のように思えて仕方なかった。胸に熱いものこみ上げてくるのがわかるが、その意味がわからず混乱する。


「いえ、ごめんなさい……故郷に残してきた母のことを思い出してしまって」


 そこへルシードが次に発した声がレティに届き、我に返る。


「あ、そうですよね。私ったらつい自分が母親になったつもりに……夫とも頑張ったんだけど、なかなか子どもが生まれてくれなくてね。あなたがお母さんって呼んでくれるから嬉しくなっちゃった……って私ったらどうして出会ったばかりの人にこんな話をっ!」


 レティは顔を赤くしたが、誤魔化すように会話を続ける。


「あなたはまだ成人したくらいですもの、お母さんが恋しくなるのも仕方ないわ。ちゃんと一仕事終えたら会いに行ってあげてくださいね」


「はい、そうします。あの、外套ありがとうございます。大切にします」


「ええ、また何かあったら。ふふっ、何もなくても遊びに来てくださいね。歓迎しますよ」


 本心だ。レティは何もなくても遊びに来てくれないだろうかと思い、口に出した。


「はい、その時はお願いします。…………あの、余計なお世話かもしれませんが――」


 ルシードは言おうか迷ったが、言うべきだと思った。

 僕は旅の途中で死んで帰って来られないかもしれない。父さんと母さんは二人で幸せかもしれないが、僕と三人でいる時は本当に幸せそうだった。母さんも父さんが狩りでいない時は僕がいてくれて寂しくないとも言ってくれた。だから言うべきだ、と。


「もし……もしよければ、もう一度子どもが生まれる努力をしてくれませんか? あなたたちのところに生まれてきたなら、きっと幸せになってくれると……僕にはわかります」


 ルシードは意を決して口に出す。


「ふふっ、なんだかあなたに言われるとそんな気がしてきたわ。夫がその気になってくれたらもう一度頑張ってみようかしら」


 レティは少年の言葉に冗談交じりで返す。少年に言われて自分はその気になったが、今まで無理だったのだ。ルークを悲しませるようなことは言いたくなかった。


 そんなレティの考えも知らず、ルシードは愛する人にキス一つで頑張らないといけないとは父さんもケチだなと考えていた。いや、キスで子どもが生まれるかわからないのだったか……他に頑張らないといけない要素があるのかもしれないと続けて考え、見当違いな思いをしてる気もしたがこれで良かったのだと結論づける。

 僕が帰って来られなくても、生まれて来る子が、僕の代わりを果たしてくれるはずだ。そう思って……。


「ええ、次にこの村に来た時に、お子さんに会えるのを楽しみにしています。では、これで」


 少年の言葉に、レティは少年を引きとめたいと思った。今日出会ったばかりの少年が、何故かテオと同等――いや、それ以上の存在に思えて仕方なかったのだ。このままでは二日続けて大事な人を失う気さえした。


「……はい、あなたも怪我や病気には気をつけてくださいね」


 それでもレティには言えなかった。言えばきっと変に思われるだろう。少年にも帰りを待つ家族がいるはずだ。引きとめるわけにはいかない。


 レティが言葉を紡いだことに満足したのか、少年は背を向けてレティのもとから去って行った。

 少年の姿が見えなくなるまで見送り、胸にぽっかり穴があいた気持ちになりながらも、重い足取りで家に戻る途中、少年の名前も聞いていなかったことを思い出し、更に気落ちする。

 浮気ではない。今胸にある気持ちは恋愛感情ではないとわかる。家族を想う気持ちと同じだった。


「おはよう、レティ。外に何かあったのかい?」


 家に入り、ドアを閉めたところで起き出してきたルークに、レティは声をかけられた。

 レティはその声に、これではいけないと気を取り直すと、ルークに向かって声を出す。


「おはよう、ルーク。山の向こうから盗賊の行方を調査しに来られた方がいたの。それで少し話しをね。待ってて今朝食を作るわ」


 今度こそは何かに気を取られることもないと台所に入り、かまどに火をくべて朝食作りに取りかかる。

 鉄板にパンと卵を割って乗せ、野菜を切ろうとしたところで、ルークが食卓に着きながら口を開く。


「大丈夫だったか? 盗賊の仲間って可能性も……」


「全然そんな感じはしなかったわ。まだ成人したばかりの子どもで……ねぇ、ルーク。私子どもがほしくなっちゃった」


 レティは少年の最後の言葉を思い出して言う。言うつもりはなかった。だが、何故か少年の言うように子どもが生まれて来る気がしたのだ。


「ゴホッ、ゴホッ。あ、ああ、そうだね……」


 牛乳を飲んでいたルークが咳き込むのを見て、レティは自分たちになかなか子どもができないのを気にしていたなら申し訳ないと感じながら、空振りに終わったと思い、改めて口を開く。


「ふふっ、冗談よ。できたらいいけど、ルークがいるんですもの。寂しくないわ。はい、お待たせ、今日はこれから忙しくなるから簡単なものだけど」


 朝食は野菜を切っただけのサラダにパンと卵を焼いただけのものだが、ルークも文句は言わない。

 レティは食卓の中央にサラダのお皿を置くと、パンとは別にサラダ用のお皿を三つ置いてルークの隣に座る。二人なのに対面ではなく隣に座ったことを疑問に思ったが、いつもこうだったと、気にはしない。

 それよりも昨日は村の大切な人が亡くなったのだ。起きてから色々あったが、朝食を食べたらすぐにでも手伝いに行くつもりだった。ただ、何故テオの死にすぐに駆けつけなかったのかが、新たな疑問だった。本当ならばその日のうちに会いに行くはずだ。何故一日明けた今日になって会いに行こうとしているのだろうかと。


「ああ、今日は忙しくなるからな。ん? 三皿? 誰か来るのか?」


 そこでルークに言われてレティは気づく。自分たちとは別に、向かいの席に、まるで誰かが座るかのような形でパンの皿とサラダの皿が置かれていた。当然、置いた人物は自分だ。自然と、三人分の朝食を作ってしまっていたということになる。


「あ、あれ? ごめんなさい。気づかなかったわ。どうして三人分も……すぐに片付け――」


 レティは皿を片付けようと手を伸ばしたところで、涙が出た。理由はわからない。


「レティ……いや、いいんだ。皿は出したままにしておいてくれ。俺もそうしたい」


 隣に座るルークが優しく肩を抱いてくれる。

 レティは嬉しいはずなのに、こんなに寂しい気持ちになるのは生まれて初めてかもしれないと思った。何故か先程の少年の姿が頭をよぎる。


「――ルーク。私……本当は子どもがほしいの」


 レティは本音を口にする。流れ出る涙は止まらない。


「ああ、そうだな。俺もレティがいればそれでよかったのに、急に子どもがほしくなったよ……よし! 俺たちもまだまだ若い! 次の狩りには出ないで村に残らせてもらえるようにするよ」


 ルークの言葉が、レティの胸にあいた穴へと、流れ込んであふれる。


「ありがとう、ルーク」


 レティは礼を言って寄り添う。そう遠くない未来に、自分たちに子どもが生まれるて来てくれるような予感があった。

 あの少年に背中を押される形にはなったが、言ってよかったと思い、少年に心から感謝した。少年の名前が聞けなかったことだけが、本当に残念で気がかりだった。


 ◆


 ルシードは見送ってくれた母の姿が見えなくなったところで声に出す。


「父さん、最後に会えなくてごめんよ。今までありがとう、父さんも母さんもお元気で……」


 言って、村の入り口――正確には村の抜け道へと振り返り、歩き出す。入り口には見張りがいるはずだ。会えば不審に思われるだろうと、子どものころに見つけた抜け道を利用することにした。

 途中、村長の家の前を通り、村長の家へと向きを変える。

 今もテオじいの遺体が寝かされているはずだと、ルシードは手を胸に目を瞑る。


「テオじい、会いに行けなくてごめんよ。旅が終わったら、会いに行くよ。どうか安らかに眠って……」


 そこで区切り――


「でも、ここに帰って来られなくても怒らないでくれよ。その時はあの世で謝るから……笑って迎えてほしい。それまで頑張るよ」


 最後に一言だけ付け加えて目を開ける。

 もう振り返りはしない。再び村の抜け道へと歩き出す。


「……気はすんだ?」


 そこへ少し不機嫌そうなアルマリーゼが横に現れ、隣を歩く。ルシードはアルマリーゼの機嫌が悪く見えるのは待たせたせいだと思ったが、謝るような真似はしない。


「うん、行こう」


「私は昨日の能力を使ったことで、眠っている間に溜め込んだ魔力をほぼ使い切っているわ。戦闘での援護はできないと思っていて」


「ああ、わかってる。僕が守るよ」


 ルシードは決意する。テオとアルマリーゼのおかげで村を守れたと言っても過言ではない。

 しかし、二人に救われた命でも、テオはもういない。

 ――ならば、この命に代えてもアルマリーゼだけは守ってみせると、村を守ったテオのようになりたいと、心から思った。


「いい返事ね。期待しているわ」


 ルシードの返事に満足し、アルマリーゼは笑みを浮かべる。先程の不機嫌さはどこにも感じられない。


 こうして彼らは旅に出た――。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。


初めての作品ということもあり、見苦しい点が数多く存在すると思われますが、少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります。

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