表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バルバロイ  作者: ずかみん
9/72

こんなのただのゲームだ

 見たこともない警告が、数えきれないくらい、唯斗の周囲を取り囲んでいた。

 蛍光色のトラ縞や、明滅するテキスト達。ドライバーの母国語に合わせてあるので、そのいくつかは日本語だった。

 敵味方識別装置(IFF)や戦闘支援AI、C4Iシステムが発する警告だ。


 チームメイトは全員ログアウトした。遺棄された村に残っているのは唯斗だけだった。


「……これで満足かいキオミ。期待通りの反応だろ」


 唯斗の問いかけに、作戦オペレータの〈キオミ〉は、ごく平静な声で応答した。

『ヌエは、特定の心理的圧力下で、感情をコントロールできなくなる』


 特定の心理的圧力って、子供の死体のことだろうか?

 馬鹿馬鹿しい。これは訓練だ。ただのシミュレータだ。あんなもの、どんなにリアルだったとしても、所詮はCGだ。


『すすめる。カウンセリング』

「カウンセリング?」

 カウンセリングなら一度受けた。


 ――あなたに責任はありません。もしあなたが罪の意識を感じているのなら、それはあなたが正常な神経を持つ人間である証拠です。


 モニターの向こうのカウンセラーは言った。

 金髪をヘアバンドでまとめた、中年女性だった。健康を害しそうなくらいの体重。カウンセリングが必要なのは自分ではなくてこの女の方だ、と唯斗は思った。


 ふざけんな。どうしてぼくがよく知らないアフリカの子供のことで、罪の意識を感じなきゃならないんだ。


「ぼくを試すな……」

『心のバランスを崩す人もいる。プレイヤーの心的外傷後ストレス障害(PTSD)は問題になっている。観察は必要』

「必要ない。余計なお世話だよ。こんなのただのゲームだ」


 もちろん唯斗には分かっている。唯斗にはゲームだが、リジエラの人達には現実だ。

 それでも唯斗たちが破壊しているのは、車輛か建造物だ。実際に血を見ることもないし、敵の顔を見て、目を合わせることもない。


 アフリカ大陸なんて、遠い異世界だ。唯斗には関係ない。


『罪の意識なんかいらない。死に触れているだけで、人の心は壊れる……まともな人間なら誰でも』


 唯斗は自爆シークエンスを起動した。〈キオミ〉の許可がなくてもログアウトできる、いくつかの方法の一つだ。

 もうおしゃべりは、たくさんだった。


「ぼくにかまうな……こんなのただのゲームだ。いつやめたっていいんだ」

『それは嘘。ヌエには戦場が必要』

「どうして戦場なんだよ」

『それは自分に聞いて』


 画面には自爆までの秒数が表示されている。表示された小数点以下三桁までの数値は、すごい勢いで時間を刻んでいる。


『今回の訓練(シム)はノーカウント、意地悪な設定だったから』


 視覚野は唐突に暗転し、バルバロイの終了シークエンスが始まった。ゲーム制作会社のロゴ、生体(バイ)情報(タル)のチェックリポート。【ネブラ・ディスク】のロゴアニメーション。


 感覚器が肉体に戻ると、唯斗は三万円もする高級ゲームパッドを握って、自宅の机の前だ。ヘッドギアを外すと、部屋は静まりかえっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ