表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バルバロイ  作者: ずかみん
71/72

反証の必要がない呪い

 チャドに駐留するアメリカ軍との共闘作戦なので、進入は空輸(エアボーン)で行われる。ティルトローターに懸垂されて快適な空の旅だ。


 唯斗は、オスプレイの幅広な胴体を見上げた。

 夜明けが近いので、機体は、ピンクとも青ともいいがたい、なんだかこの世でない場所を思わせるような色に染まっていた。


 前後に設定されたカーゴフックから伸びたワイヤーは、唯斗の【ピクシー】に繋がっている。周囲を見渡すとチームの他の機体も、ぶらさがったまま運ばれていて、なんだかワーグナーのワルキューレの騎行が聞こえてきそうな壮観な光景だった。


 もう老朽化し退役を間近に控えた機体(オスプレイ)は、やや傷んでいて不安が残るけれど、長年の就役でくすんだシルエットには、プルーフされた兵器独特の凄味があった。


 眼下には、リジエラのサバンナが広がっていた。

 早朝なのに、もう煙が立ち上っている。目を覚ましているのはゴミの荒野みたいなスラムで、ガラクタをあさる子供たちや、札束を数えるチンピラの姿が、足元を過ぎてゆく。


 動作チェックはもう終わっていて、バッテリーを温存する為に、機体はスリープモードになっていた。だから空中にある間、唯斗たちにとりたてて処理しなければいけない仕事はない。


 たぶん、リジエラでの任務(オペ)は、これが最後になる筈だった。


 あんまり退屈なので、唯斗は、ついつい任務とは違うことを考えてしまう。

 たとえば『ハルシオン』のことだ。


 『ハルシオン』は、いかなる国家、組織、あるいは宗教的信条にも組することのない、中立的な団体であると、世間では言われている。

 唯斗の考えでは、『ハルシオン』はいかなる思想にも肩入れしない、のではなく、いかなる思想も理解できないのだ。


 ”アーキタイプ”システムは憎悪という感情を知らない代わりに、友愛という概念も持ってはいない。

 それはただの、人の死を最少化するという命題を与えられた、感情のない機械に過ぎない。人の死を最大化するという目的を与えられても、今と同じように効率的に機能したはずの、単なるソフトウェアだ。

 その証拠として『ハルシオン』が集めた予算の半分は、医薬開発や、メンタルヘルスの分野に投資されている。


 戦場で理不尽に殺害される人間より、病気や交通事故で不幸な死を遂げる人間の方が多い。年間自殺者は、交通事故による死者よりさらに何倍も多い。


 ”アーキタイプ”システムにとっては、不毛な戦争に介入するより、そっちを攻めた方が、ずっと効率がいいのに違いない。機械らしい、明快なロジックだ。


 言い訳が容易(たやす)いだけの、ただのテロ行為だと言う人もいる。

 『ハルシオン』の準軍事活動のことだ。的外れな意見じゃない、と唯斗は思う。なにが正義かなんてニュースではわからない。


 暴力はなにも解決しないという人がいる。唯斗も同感だ。

 誰かの強靭な意志を曲げるには、その人物を殺害するしかない。実力行使とは、その悲しくも不毛な前提条件をなぞるだけの、反証の必要がない(アプリオリな)呪いだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ