表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バルバロイ  作者: ずかみん
67/72

嘘でもうれしいわ

 この状況は、紛れもない現実(リアル)だった。学校の退屈よりも、アフリカの流血よりも、もっともっと深刻で差し迫った、本物の現実だ。


 自分が長い間なにを恐れていたのかを、唯斗ははっきりと理解した。唯斗は、なにか自分にとって特別な存在を持つことを、怖がっていたのだ。


 『ハルシオン』を信じて、幻滅することに怯えていた。


 リジエラの人々を愛して、心が痛むことを恐れていた。


 チームを仲間と認めて、いつか裏切り、裏切られてしまうかもしれないことを、唯斗は耐えられないと思っていた。


 けれど、もう手遅れだ。

 唯斗は少女趣味ではなかったし、アリーのことは、どちらかと言えば、今でも異性というより戦友と言った方が近い認識だ。

 それでも、アリーは唯斗の心に忍び込んでいた。認めたくはないが、大切な人間だった。


 アリーを失くしてしまうかも知れない、という恐怖が、途方もない無力感が、唯斗の理性をばらばらにした。


 いますぐ抱きしめて、無理やりにでも外へ連れ出したいと願ったけれど、唯斗の体は、遠く離れた日本で、自由になるのは、破壊することしか知らない、不器用な機械だけだった。


 唯斗は生まれて初めて、神に祈った。

 どうか、もう一度だけチャンスが欲しいと。


『だめだ、アリー……』


 本気なのか、演技なのか、もう唯斗にもわからない。唯斗は、完全に打ちひしがれた声で、見苦しく、恥も外聞もなく、アリーにお願いをした。


『アリー……そんなの耐えられない』


 アリーは、びっくりして目を丸くしていた。


「な、なによ、どうしちゃったのよ」


 アリーはどぎまぎしながら言葉の意味をかみ砕いているように見えた。それから、しばらく難しい顔をしていて、宗教画の女性みたいに慈愛に満ちた顔で微笑んだ。


「嘘でもうれしいわ」


 アリーは、銃弾がちゃんと脳を破壊するように、銃の方向を調整した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ