あたしに命令しないで
唯斗の頭の中に、ある可能性が引っかかっていた。爆弾で殺された少女のことだ。そんなことありえないと思いたかったけれど、確認せずにはいられなかった。
『保護した少女の所在をもらしたのも、アリーなの?』
そう聞かれて、アリーは【ピクシー】のカメラセンサを見上げた。傷ついた顔をしていたので、聞かなければよかったと思った。でも、口にした言葉は、もう戻らない。
「たぶん、違うって言っても、信じてくれないわよね」
アリーの頬を、涙が濡らしていた。
唯斗は、アリーが涙を見せる所なんて目にしたくなかった。
アリーはいつも高飛車で、エネルギーに溢れていて、単純で、迷いがない。
楽天的な、これ以上ないくらいの類型的なアメリカ人だと思っていた。
「いいわよ。べつに平気。嫌われたってかまわない。言い訳なんかしない。大っ嫌いよ。パパも嫌い。あんたのことも嫌い。それに自分のことも大嫌い」
爆発が起こった。振動が床を揺らして、アリーは尻餅をついた。
〈カイト〉たちが頑張ったおかげで、建物は、すぐには倒壊しないみたいだった。アリーは折り畳みナイフを持っていて、立ち上がると、ひらひらとしたドレスの裾を切り裂いて捨てた。
ドレスはいびつなワンピースみたいになったけれど、たしかにアリーは綺麗で、可愛かった。
「なにもかもあんたのせいよ」
『アリー。倒壊するかもしれない。早く外へ』
アリーは、完全に唯斗の言葉を聞いていない。
落ち着いているようで、もう完全に普通じゃなかった。
「あんたなんか、食肉鶏みたいな生活してるくせに……どうしてよ。なんだか、あたしの方が惨めみたいじゃない」
唯斗が持っていて、アリーが持っていない物がひとつだけある。
自由だ。
唯斗は、なにも得られない代わりに、誰にも期待されない。何もしなくても、誰も唯斗を責めることはない。
床が嫌な感じで揺れていた。酔ってしまいそうな低周波。もう、長くは持たないかもしれない。
「なにもかも終わりよ。パパはあたしを許してくれない。もうピクシーにも乗れないわ。あんただって、あたしのことなんか嫌いでしょ?」
唯斗は、使えそうな装備を探った。
アリーは敏感に気配を察知した。スカートを持ち上げて太ももの内側に手を伸ばすと、そこにはベルトで拳銃が固定してあった。アリーは銃を抜いて、自分の喉の下に突きつけた。
『うわ、アリー! やめろ』
「あたしに命令しないで」