表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バルバロイ  作者: ずかみん
65/72

嘘つきは地獄に落ちるって

 階下では、まだ銃撃が続いていた。

 〈カイト〉と〈トラッシュ〉は、おそらく爆弾処理で手いっぱいだ。

 銃撃戦は、過激派グループと警官隊の間で起きている。

 銃声は、しだいとまばらになっていたので、警官隊はもうすぐそこまで迫っているのに違いない。


 フロアをつなぐ()行路(ンプ)を上りきると、その階層は、建物の管理事務所が半分を占めていた。

 屋内なので、しきりの壁は、石膏みたいな素材の簡単なものだった。どちらにしても【ピクシー】でドアをくぐることはできない。

 ゆっくりと押すだけで、壁は粘土細工みたいに壊れた。


 壁の向こうはビジネスオフィスになっていて、極力、壁を廃した、広い空間になっていた。


 天井に埋め込まれた、味気ない白色LEDの下に、アリーが立っていた。

 アリーは、長い栗色の髪を下ろして、ピアノの発表会みたいなドレスを、身に着けている。

 テログループの人質になっていたとは思えない、優美で、繊細なデザインだ。


 おかしなことと言えば、アリーを見張る兵士の姿がなかった。


 アリーは【ピクシー】の姿を目にしても喜ばなかった。寂しげに、すこし笑みを浮かべただけだ。


「ヌエでしょ。あんな無茶苦茶、あんたにしかできない」


 唯斗は、外部スピーカーに音声をつなぐ。

『帰ろう、アリー。迎えに来た』


 アリーは唇を噛んでうつむいた。

「どうして来たのよ……もう、ピクシーには乗らない筈でしょ。こんなとこ、見られたくなかった」


 アリーの頭には、ティアラみたいに華奢なデザインの、全感覚(フルダイブ)入出力(ヘッド)装置(ギア)が乗っかっていた。


『……アリー?』

「そうよ、そういうこと」

 アリーは、ヘッドギアを外して、床に落とした。


「リジエラであんたたちの作戦を邪魔したのは、あたし。だって同じチームにいたら、あんたと戦えないでしょ」


 唯斗は、【穿鎧】との苦闘を思い出していた。【穿鎧】のドライバーは、間違いなく唯斗たちと同じレベルの凄腕だった。

 職業(プロ)、という言葉だけでは片づけられない、常軌を逸した勝利への執着心。戦車と同時に無人攻撃ヘリを操る、圧倒的な処理能力。


「過激派の連中に、作戦情報を流していたのはあたし。あたしは卑怯な裏切り者で、自分のことしか頭にない、最低の生き物なの」


 そう言って、アリーは泣いているような顔で笑った。


「いま、あんたと戦っていたのもあたし。あたしは、助けにきてくれたみんなを返り討ちにしようとしたのよ。だって、こんな無様な姿、誰にも見られたくないもの」

『アリー、そんなのいいんだ。だれも気にしない。無事であれば、べつにどうだっていいんだよ』

「あたしが気にするのよ、ヌエ。あたしはクリスチャンで、嘘つきは地獄に落ちるって教えられたの。無事に決まっているじゃない。誘拐なんか狂言なんだから……接触してきたのは向こうだけど、話を持ち掛けたのはあたし。パパがどんな反応をするか知りたかったの」


 自分の目的のために、アリーは過激派グループを利用したのだ。

 うまい話でおびき寄せ、鼻づらをつかんで引きずり回した。とてもアリーらしくて、なんだか切ない。


「笑うでしょ。あたしはいつも、もう死んでしまって、とっくにこの世にはいない人と比べられるの。パパはママにしか関心がないのよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ