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バルバロイ  作者: ずかみん
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古参兵士の反応

 天井に注視すると、重量によって微妙に撓む様子が、応力を示す縞模様で強調表示された。敵車輛の轍を識別するのと同じアルゴリズムだ。


 強調表示の直上に、敵【ピクシー】がいる。


 最少射程ぎりぎりの位置だった。唯斗は撓みに注視して、【フランキスカ】を発射した。目標は機体ではなく天井だった。


HEAT弾は、榴弾と同じ爆薬の塊だ。

 二〇〇ミリ程度のコンクリートスラブは容易に破壊され、足元を崩された敵の【ピクシー】は、粉塵と一緒に唯斗の前に降ってきた。たぶん操縦者はなにが起こったのか、状況を理解できていないに違いない。


 敵【ピクシー】の落下位置は近すぎた。射撃統制装置(FCS)は無意味な操作として、【フランキスカ】の発射を拒否した。距離をとっている時間はない。


 武器の基本は運動エネルギーだ。いま唯斗が自由に制御できる、一番質量の大きな物体は、【ピクシー】自身だった。


 唯斗は機体を加速した。モーターの加熱警告が視野に表示される。インバーターが恐ろしげなうなり音を発した。衝突を警告する電子音。


 瓦礫に埋もれた敵の【ピクシー】に、唯斗は体当たりをした。いくつかのセンサが機能を失い、アラームが出現する。体感覚に衝撃と圧迫感がフィードバックされた。


 敵【ピクシー】機は半壊し、滑りながら、擲弾筒を唯斗に向けた。わずかな間隙をついて正確な攻撃にうつる。自分の知性と感情を道具として扱う、古参兵士の反応だった。


 唯斗はゲームパッドのLボタンに圧力を加える。【ピクシー】の関節部分に内蔵された圧電素子が車輪角を微調整し、唯斗の【ピクシー】は横方向にスライドして、グレネードを回避した。


 回避した榴弾が、フロア外周を取り巻く、コンクリート製の手摺を破壊した。

 船が行き交う、ジョージア海峡の景観が、壊れた手摺のむこうに開けていた。

唯斗は、敵【ピクシー】に肉薄しながら、意図的に機体をスピンさせた。

 敵【ピクシー】は、機体の後輪に乗り上げた。回転方向が逆向きの車輪に押し上げられて、敵のピクシーは宙に浮かぶ。


 唯斗は出力を押えてタイヤのグリップを回復し、機体を伏せるようにして、敵【ピクシー】の下に潜り込んだ。そのまま持ち上げるようにして、壊れた手摺に走る。

 オットセイが鼻先でたくみにボールを扱うように、重心を外さずコントロールした。


 唯斗の意図に気付いた敵【ピクシー】は、タイヤを接地させようと獣のようにもがいた。


 敵【ピクシー】は、空中に押し出された。


 落下の直前で減速をしたけれど、唯斗の機体も半分近くがフロアからずり落ちている。


 敵【ピクシー】はスローモーションで落下しながら、照準し、【フランキスカ】を発射した。


 弾頭は、唯斗の機体前半分を、ねじまがった残骸に変えた。

 爆圧で、唯斗のピクシーはフロアに押し戻される。


 敵の【ピクシー】は、立体駐車場前で待機していた警察車両二台を押しつぶし、引火して爆発した。


 唯斗の【ピクシー】は、ボロボロの状態だった。センサの半分は機能停止しているし、前輪の構造は欠落している。

 装甲は壊れて脱落していたし、カバーを失った排気冷却装置が、魚のエラみたいにはみ出していた。

 それでも、三輪でなんとか自走することはできた。


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