狂信者の相手
これだから狂信者の相手をするのは嫌いだ。
命を知らずの兵士たちは、まったく遮蔽物を利用することなく突進してくる。何人かは体には高性能爆薬を巻き付けてあるので、うまくすれば『ピクシー』の機能を削ぐことも不可能ではない。
だが、対費用効果の点で、カイトは連中の行動には全く賛成できなかった。
対費用効果という表現はおかしいかもな。人命にはもともと値段がついていないから。
カイトは、顔をしかめつつ、視覚野に投影される熱源のマーキングに集中する。【ピクシー】に搭乗中の視野は、眼球の物理的構造に制限されないので、ドライバーは車輛の下面も含む三六〇度を一度に見ることができる。
だが、見ることができるのと、視界にはいる全てに注意を払うことができるかどうかは、また別の問題だ。
【ピクシー】の火器統制システムは、最大六〇個の目標を処理、認識することができる。だが、攻撃をするためには、その全てについて『ドライバー』が判断をしなければならない。
目標の指示は、視線誘導とゲームパッドのボタンで行う。視覚は全感覚(VR)投影装置が、横取りしているけれど、眼球の運動を利用することはできる。
カイトは人間離れしたスピードで、次々と兵士たちを目標として指示してゆく。視覚野のカーソルは目まぐるしく状況表示を変えた。
脅威→目標→無力化の高速サイクル。時々、対戦車ミサイルを担いだ奴が現れるので、それは隠れて使えよ、ひそかにとつっこむのも忘れない。
ゴム弾を食らった人体は、オモチャみたいに宙を舞う。殺さない為には、素早く意識を奪うのが一番だ。
連中が握っているのが、デッドマンスイッチでなくてよかった。と、カイトは思う。手を緩めたら爆発する設定だったら、この一帯は花火大会みたいになってしまう。
兵士たちが、遺棄された立体駐車場の中にカイトたちを誘い込もうとしているのは明白だった。鉄骨の建造物には、倒壊するように爆弾が仕掛けてあるはずだ。
『ヌエならどうすると思う』
〈キオミ〉がカイトに聞いた。
「さあ、突入して爆弾を全部破壊していくんじゃないの。馬鹿だから」
というか、そんな真似、ヌエにしかできない。
兵士たちは最初から玉砕覚悟なのだ。やりにくいこと、この上ない。
「なあ、もう飽きたぜこれ。突入しよう。警官隊も痺れを切らしてるし」
眠たげにトラッシュが言った。
『爆破されたら、アリーは確実に死ぬ』
馬鹿なこと言わないで、とでも言いたげに〈キオミ〉が吐き捨てる。
そんな話をしていると、視界が突然、半透明の警告で埋め尽くされた。けたたましい警告音。レーザースポットでロックされていた。