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バルバロイ  作者: ずかみん
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なんだこれは、ふざけやがって。(イラスト有)

「周囲警戒」


 唯斗たちの全周視野には、五機のそれぞれが担当すべき警戒領域が、淡いブルーで示されていた。人間の注意力には限りがある。


 唯斗たちのC4Iシステム―Command Control Communication Computer Intelligence system戦闘情報を共有し作戦を合理的に進める為のコンピューターシステム―は資源を有効利用するようにプログラムされていた。


「おかしいわ。単独で仕掛けてくるなんて」


 そうだ、どこの国でも、戦闘員は勝ち目のない戦いをさける。第五世代戦車に対する知識がなかったか、それとも注意を引くこと自体が目的だったのか。


 T-55戦車が遮蔽物として利用していた丸い石を積み上げた石塁は、サバンナに点在する村を守る城壁のようだった。昔は野生動物から身を守るためのもので、いまは山賊やテロリストから身を守る目的に使用されている。


 村の方向から、薄くたなびく煙が見えた。生活の排煙とは違う、毒々しい黒煙。


「キオミ、調査するわ。生活電波は検出できる?」

『反応なし。パソコンも携帯も検出できない。死んだ村』


 追いついてきた貨物トラックと電源車が、唯斗たちのそばで停車する。貨物トラックは出来る限り人目につかないように設計されているので、方向指示器は取れかかっているし、あちこちが凹んで落書きだらけだ。

 それは景観に溶け込むよう意図された偽装なのだけれど、唯斗にはアメコミに出てくる紋切型のキャラクターのようで、とてもコミカルでポップに見える。


「カイトとチャーリーは積み荷の護衛。【ファハン】で上空より監視。チャーリーとヌエはあたしと来て」


 視覚野には、路面の轍が強調して表示されている。

 軽車両のタイヤ痕。丸いコンテナが、落ちている空薬莢や、ブーツの足跡を囲んでいた。目標の痕跡で、有用情報という意味だ。


「戦闘があったみたいね」


 血痕と一緒に、農作業で使うクワみたいな物や、生活の道具っぽい大きく反った山刀が転がっていた。


「それも、すごく非対称(アンバランス)な」

「へぇ、最近は虐殺のことをアンバランスって言うのか?」

〈アリー〉の視覚に乗っていたらしい、とぼけた声で〈カイト〉が言った。


 最前衛が唯斗の担当だった。

 日干しレンガで建てられた家は、どれも静まりかえっていた。


 問題の煙は、この界隈では一際大きい建物、たぶん、この地域で集会所のように使われていたのであろう小屋から、立ち上っていた。

 鉄骨の骨組みに、草ぶきの屋根。鉄骨は錆びだらけで、この村の長い歴史を思わせる。


「生存者を確認する」

 と、唯斗はこれからの行動を知らせる。時々、忘れそうだけれど、唯斗たちは人道主義者の団体だ。人命の救助は最優先項目だった。


 鉄骨造りのその小屋は、壁が二方しかないので、車両がそのまま入ってゆくことができる。

 唯斗は地雷を抱えての肉弾攻撃を警戒しつつ、少しずつ距離をつめる。


「アリー、鼻息がうるさいぜい」

 〈チャーリー〉が茶々を入れた。〈チャーリー〉はたいていこんな感じだ。凄腕だけど、ふざけてばかりだ。


「うそよ! 鼻なんか詰まってない」

「黙れよ、集中できないだろ」


 屋根が落とす影の中に、なにかを積み上げた山が見えた。すごく不安定ななにか。集めたゴミのような山からは、棒切れのような物が突き出していて、シルエットがあいまいで、正体がわからない。


 もっとよく見ようと前に出た振動で、ゴミの山が崩れた。


 反射的に後退した唯斗の前に、崩れたゴミが転がった。


 屋根の陰から陽光の中に転げ出した物体は、焼け焦げた子供の足だった。

 ゴミの山は死体だ。それも、ぜんぶ子供だった。


 なんだこれは、ふざけやがって。


 唯斗は足もとに、また水たまりが広がるのを感じた。自由落下で身体感覚を失う時のような、きゅっと胃がしめつけられる感覚。


挿絵(By みてみん)


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