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バルバロイ  作者: ずかみん
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誰かが死なないといけないのなら

 身代金の受け渡しは、無事に終わった。

 アリシアの父、ピーター・エバンスの個人資産は半分以上が仮想通貨に変換され、世界のあちこちで、追跡性(トレサビィリィティ)のない紙のキャッシュに変換された。


 大きな組織が相手だとそういうことができる。信頼できる構成員がたくさんいないと使えない手法だ。

 もちろんFBIも馬鹿じゃないので、ちゃんと追跡して現金化した人間の何人かは逮捕するだろうけれど、それくらいの目減りはたいした問題じゃない。

 資金洗浄用のストックされた放置口座から現金を引き落とす為に現れた人間は、末端の何も知らない使い捨てだ。


 身代金額は、まあまあ満足がゆくもので、アリシアは鼻が高かった。少なくともアリシアに恥ずかしい思いをさせるような金額じゃない。


 アリシアが軟禁されている隠れ家は、バンクーバー港を見下ろす、老朽化で遺棄された立体駐車場の最上階だった。港と倉庫街の間は海を臨む公園になっていて、たくさんの樹木を見下ろすことができた。


 最上階は管理棟として使用されていたので、エアコンも完備で快適だ。食事も特別不便はなかった。

 建物の最上階は鉄骨を巨大なガラスで覆ったもので、壁際まで近づけば、足元まで周囲を見下ろすことができる。高所(アクロ)恐怖症(フォビア)の気があれば、足がすくんでしまいそうな光景だ。


 先ほどから、車の動きや人通りに、不審な気配があった。

 自動車は迂回して、人が減り始めている。港の船も何隻かは沖に出ていった。一般市民の避難と、交通規制だ。この場所はたぶん、警察関係者に見つかっている。


 おそらく、わざとだ。と、アリシアは考える。


 身代金を手に入れた今、アリシアはもう用済みだ。わざと操作の網にかかるようなヘマをしてみせたのだ。

 過激派グループにとって、この廃墟は幕引きの舞台だ。西洋教育の化身みたいな警察関係者と派手な銃撃戦の末、人質は見せしめのために処刑される。あるいは救出部隊に誤射されて死ぬ。ドラマチックで効果的なプロパガンダ。


 ねぇ、パパ。誰かが死なないといけないのなら、ママじゃなくて、あたしの方がよかったと思っていたんでしょ。


 けれどアリシアは、いらなくなった夕食みたいに、捨てられるつもりはなかった。


 アリシアはパジャマを脱ぎ捨てて、過激派グループに用意させた、とっておきのドレスに着替えた。ドレスは、有名なセレブ御用達のブランドで、キュートでキャッチーなデザインだった。


 ドレスを身に着けた美少女の死体なんて、カルト映画みたいでクールじゃない?

 机が百個単位で並べられそうな広い部屋は、ビジネスオフィス風のタイルカーペットが敷き詰めてあった。

 真ん中にはパイプ製のチープなベッドがあって、枕の上には父の寝室から持ち出した銃が、置いてあった。


 銃はグロックの9㎜口径で、セレブ向けらしくスライドとバレルはクローム仕上げで輝いている。ガンロッカーは指紋認証方式なので、盗み出すのには、納屋の大きなハンマーが必要だった。


 アリシアはグロックの装填を確認して、同時に発射可能な状態にした。『ハルシオン』の任務で銃を使ったことはないけれど、父と一緒に受けたセルフディフェンス講習で使った銃がグロックだった。


 アリシアはグロックを隠す場所を探したけれど、ドレスには実用的なポケットなどないので、太ももにスーツケースの解放防止ベルトを巻き付けて、内側に差し込んだ。


 階下で、乾いた銃声が響いた。カラシニコフの断続した発射音。


 はじまった。突入だ。


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