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バルバロイ  作者: ずかみん
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人殺しが、いい子なわけないだろ

 ヌエは、ブリーフィングに姿を見せなかった。

 どうやら本気らしいな、と岡田湊斗ことカイトは思う。


 やれるのかね、ほんとうに。いまさら普通の中学生を。


『先進国で活動するのは始めて。周囲に被害がないよう注意』


 最初から対人戦闘が想定されるので、〈キオミ〉は普段とは違う武装を調達していた。四十ミリ口径のM129グレネードランチャー。同軸のカメラサイトと、リンクレス給弾装置つきだ。


 弾頭は、ゴムスタン弾だ。非殺傷兵器に分類されているが、けっして安全な兵器じゃない。至近距離で当たれば死亡もありうるし、今回のスタン弾は射程を伸ばすために、重量を増やして、発射後の弾頭変形を幾分押さえてある。拳銃弾で言えば+P仕様のエネルギー増量弾だ。


「警察には?」

『顧客の意向には反するけど、地元警察に連絡済。こちらの掃討後に突入予定。突入部隊の待機位置をマップで確認して。タイムスケジュールを視覚野に表示する』

「人間を撃ったことないんだけど、ちゃんとロックオンするの?」


 と、いぶかしげに〈トラッシュ〉が言う。いい加減な性格のわりに、用心深いところもある。


『至近距離であれば、人間の体温程度でも問題ない。解析ソフトは人体認識アルゴリズムを追加したけれど、プルーフできていない。信頼性は未知数。画像認識より熱源検出が無難』

「射程は?」

『五十メートルまで。十メートル以下の発砲は禁止。死ぬかもしれない』

「死んだら、なにか問題があるのか?」

『意図的な殺害は許可できない』

「優等生だな。かっこつけたって、おれたちは殺し屋なのに」

『わたしは、カイトとは違う』


 なにも違わない。そこのところ〈キオミ〉は理解していない。違うのは動機だけだ。信仰の為に殺すのと、金の為に殺すのと、どちらが上等だ、なんて言っても意味がない。


 人が死ねば、残された者の悲嘆とか、憎悪とか、理由には関係なく同じように傷跡を残す。

 だから〈ヌエ〉は抜本的な解決方法を選んだ。

 関わらないって選択だ。


だが実際には、世界にはこびる暴力への最大の支援者は、圧倒的多数の無関心だ。

見えないふりをしたら善人になれるわけじゃない。


 カイト自身、自分が善行を積んでいるつもりはない。けれど、職業(ジョブ・)軍人(キラー)の中ではマシな方だと思っていた。少なくとも、殺そうと思って殺したことは一度もない。


「こなかったな。ヌエ。冷たい奴だ」

『べつにいい。もし、失敗したら、それもきっと自分のせいにしてしまう。いない方がマシ』

「……お優しいこって」

「な、フランキスカは一個も装備なし? ちょっと不安だって知り合いが……」

〈トラッシュ〉が落ち着かない様子で言った。

『どんな知り合い? 守秘義務がある筈』


 〈キオミ〉の指摘は鋭い。守秘義務を守らなくていいのは、チームの間だけだ。


「ヌエか? おまえ連絡とってんのか?」

「いや、そういうわけじゃ……ちょっと世間話で」

『ヌエはもう部外者。今後、接触は禁止』


 トランスポーターの内壁は、誰の趣味か知らないけれどパワーパフガールズのイラストが一面に描かれていた。前世紀の古いアニメだ。ピクシードライバーの緊張を和らげようって配慮だろうか。


 スーパーパワーを持った三人の幼稚園児が、街を守るために悪と戦う。悪いジョークだ。ガールズは街を破壊してしまうことも多かった。


 『ハルシオン』のピクシードライバーに重ね合わせたのなら滑稽だ。的を得すぎていて笑えない。自分たちも、もしかしたら面白おかしく世界をひっかきまわしているだけなのかもしれない。


 ねぇ博士、わたしたちいい子だった?


 ガールズが、子犬みたいに博士を見上げる。

 湊斗は、ガールズになったピクシードライバーたちを想像して、くすくすと笑う。 


 人殺しが、いい子なわけないだろ。


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