表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バルバロイ  作者: ずかみん
50/72

廃墟めいた心象

 少し眠ったのだと思う。

 唯斗が目を覚ますと、スローな感じの曲が流れていて、ちょっと照明が暗くなっていた。誰も歌っていないので不審思って起き上がろうとすると、冷たい手が唯斗の額を押した。


「そのままでいいよ」


 頭の下に柔らかくて暖かい感触があって、目を開けると井原美柚が見下ろしているので、どうやら唯斗は膝枕で寝ていたみたいだ。

 先輩はいい匂いがした。


 ん、んっと変な声がするので、テーブルの下から反対側の座席を見ると、岡田湊ともう一人の女の子の下半身が見えて、岡田湊は女の子のスカートに手を入れていた。


 ぎょっとして見上げると、井原美柚は少し頬を赤くしていて、優しい笑みを浮かべていた。顔を寄せて唯斗の耳元に囁く。


「唯斗くんのしたいようにしていいよ。わたしでよければ」


 頭がじーんと痺れたようになって、思考能力が低下した。井原美柚は唯斗の手を取って、自分の胸に押し当てた。ある意味夢にまで見た憧れの感触ではあったけれど、頭の隅では誰かががなりたてていた。

 これは、なにかおかしい。こんなこと普通起こらない。


「それとも、わたしがする? うまくできるかどうかわからないけど」

 井原美柚は、唯斗の唇をふさいだ。長い髪の毛がかかって、すこしくすぐったい。舌が唇をこじ開けて入って来て、口の中をちろちろされたら、弾けるキャンディみたいな快感が走って意識が飛びそうになった。


 頭に浮かんだのは、そんな甘美な現象とは正反対の、廃墟めいた心象だった。

 砲弾を受けて、崩れたビル。道端に無造作に並べられた死体。病院のベッドで床を見つめている少女たち。爆弾で体の半分を吹き飛ばされた、まだ幼い妊婦。


 ぼくにかまうな。


 恐怖を感じて、唯斗は井原美柚を突き飛ばした。跳ね起きて、胸を押える。吐きそうだった。


 井原美柚は座席からずり落ちて、ボックスの床に尻餅をついていた。すごく傷ついた顔だった。目じりに涙がたまっていた。


「どうして? どうしてわたしを惨めな気分にさせるの……ちゃんと気持ちよくしてあげるのに」

「ご、ごめん」

 唯斗が差し出した手から、井原美柚は無視して顔をそむけた。


「みーくん。わたし、この子ムリ」

「あー美柚ちゃんを泣かしたぁ。悪い奴だ」 

 もう一人の女の子は、岡田湊の首にすがったまま、めっ!と叩くふりをしてみせた。


「あーあ唯斗。なにやってんの? 美柚は自分の魅力に自信をつけて満足、おまえは気持ちよくなって昇天、だれも損しないだろ? いい子なのに、なんで泣かすの?」

「おまえはいいように人を操って優越感に浸れるしな、カイト」


 岡田湊の表情が、笑みを浮かべたまま固まった。


 黙ったまま、眼鏡を取り出して鼻に乗せる。なるほど、あれは仮面だ。スイッチが入らないようにする為の仮面。


「……あれ、ばれちゃってた? おれ、英語圏(ネイティブ)出身者(スピーカー)だから、けっこう偽装には自信あったんだけど」

「四年前、この辺りの子供は、みんな噂を信じて躍起になって『バルバロイ』をプレイしていた。どこよりも早い時期に。今にして思えば理由があったんだ。実際に体験した人間がいたからだよ、カイト。時期的にあんたの搭乗(キャ)履歴(リア)とも一致する」

「それだけで?」

「ぼくにかまう人間は、戦場(ネット)でも現実(リアル)リアルでも、そんなにたくさんいない……なんの真似だよ、これ」

「ゆっくり話をしようぜ。場所を変えようか」

「え、ちょ、ちょっとみーくん! あたしたちは?」

「わりぃ、また連絡するから」

「もう! 遊んであげないよ!」


 部屋を出る間も、井原美柚は何も言わないし、目も合わせなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ