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バルバロイ  作者: ずかみん
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無力化

 その様子は、大口径の弾丸を受けた人体が、一瞬で、かっては人だった物体に変り果てるのに似ている。


 閃光はおそらくアクティブ防護(AP)システム()の動作だ。APSは運動エネルギー弾に対しては効果が低い。〈トラッシュ〉の防御システムは、エネルギーを相殺できなかったようだ。


 唯斗たちは、無線操縦で作戦に参加している。発達した疑似(V)(R)インターフェースのおかげで、五感の全ては戦場にあって、まるでその場にいるかのような詳細な情報を脳に受け取ってはいるけれど、肉体の方は遠く離れた安全な自宅、たいていは自室のゆったりとした椅子の上にある。

 砲撃を受けても、命を落とすわけじゃない。落とすのは戦績(スコア)だけだ。


 Shit!と口汚く罵る声が、言語野に届いた。

〈アリー〉も言葉を選べば声は可愛いのにな、と思いながら、唯斗は、視覚野に半透明の赤色で表現される、推定弾道線を目で追った。


「回避機動。シーカー起動(アクティベート)。戦闘警戒」


 〈アリー〉の声を聞くまでもなく、唯斗たちは散開している。棒立ちで攻撃を待つ人間は、トッププレイヤーにはなれない。


 ここだけの話だが、電子化部隊は旧型機(オールドドッグ)に弱い。奴らはデータリンクもレーダーもレーザーも使わない。肉眼は騙しようがない。人間の視覚は、近距離においては非常に優秀で、人工知能(AI)が判定できない空気の微妙な揺らぎから、目標の所在を推定して見せる。

 環境に追従して自分の姿を隠してしまう熱光学迷彩塗装も、肉眼に対して十分な効果はなかった。


 だから、待ち伏せされると、初弾だけは防ぎようがない。


〈トラッシュ〉はただ単に運がなかった。腕は悪くないドライバーだけど、あんなについていない奴も珍しい。


「ヌエ! さぼってないで――」


 弾道の始まりにいたのは、T-55戦車だ。戦後第一世代の骨董品。

 じつは旧世代の単純徹甲弾でも第五世代戦車には十分な破壊力がある。第五世代戦車は、喰らわないのが前提の戦闘車両だ。【ピクシー】の装甲は、あくまで対人兵器を防御する程度のものでしかない。


 〈アリー〉の動きは速かった。〈トラッシュ〉の被弾から二秒後には、もう、標的座標を明らかにしている。


 具体的には【ピクシー】に標準装備の無人(ドローン)ヘリ、【ファハン】―乗用車タイヤくらいの大きさをした無線操縦ヘリだ。二重反転ローターを内蔵したダクテッドファンタイプ。小型だけれど、複合センサとスポッティングレーザーを搭載していて【ピクシー】の目として機能する―を操作して、城壁めいた石積に隠れた、T-55戦車を視認した。


 座標データは瞬時に共有され、実際には確認してない唯斗たちにも、敵性機体を囲む赤いコンテナとして、視覚野に表示される。


 さぼってないで―の意味は、攻撃しろっていうことだ。


 唯斗はコンテナの表示を【目標】として指示。一番発射管内の【フランキスカ】―対戦車成形(HE)炸薬(AT)弾。名前の由来はフランク人が好んで使用した投げ斧だ―に座標を認識させる。


 軌道は一度高度を上げてから目標の上部を狙う、トップアタックモードを選択。シーカーはレーザー反射光追尾。射出モーターで発射管を離脱した【フランキスカ】は、飛翔モーターに点火、折り畳んでいた制御翼を展開し、白い軌跡を残して上空へ昇ってゆく。


 角度を変え急降下した【フランキスカ】は、〈アリー〉の無人ヘリがレーザーを照射する、T-55戦車の砲塔上部を、炸薬のジェット流で貫いた。


 一瞬の閃光と破裂音。そして黒煙。それらのすべては唯斗の五感にリアルに再現されている。


 完全(フル)没入(ダイブ)型インターフェースで【ピクシー】を操作するのは、【ピクシー】を自分の体として認識するのに近い。ピクシードライバーはその感覚を、よく【ピクシー】を着ると表現する。


 電池が切れたみたいに動きが止まったT-55戦車は、外目にはそれほどダメージを負っているようには見えない。

 けれど実際には、内部に侵入した爆風と破片で、中の乗員は即死している。


 そういう物理現象を、戦場では『無力化』と呼ぶ。


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