表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バルバロイ  作者: ずかみん
45/72

くそ、なんかムカつく

 準備さえさせてくれば、一分で全員殺せる。


 クラスメートたちは、クラスのあちこちに集まって弁当を食べている。楽しげに話をしながら、食事を口へ運ぶ。

 誰も窓の外を気にしていないし、誰も教室の入り口に注意を払っていない。いざという時の逃走経路を目で追って確認する人間もいない。誰もナイフを持っていないし、誰もどの文房具が凶器になりうるかを検討していない。


 クラスメートたちは、自分がいずれ死ぬなんて思っていない。ましてや殺されることがあるかも知れないなんて、夢にも、考えたことがない筈だ。


 なにも努力をしなくても、ちゃんと明日の朝、無事に目を覚ますことができると思っている。


 ここにいる誰でも――もっとも体格の小さい女子の秋山でも――その気になりさえすれば全員を殺せる。

 爆薬の作り方はネットで検索すれば出てくる。基本的な爆弾の構造はウィキペディアにだって解説されている。一万五千円で鹿でも倒せるボウガンが手に入るし(中国製だけど小改造で実用に耐える)、CADデータを入手して、3Dプリンターサービスで銃を作らせてもいい。


 弾は猟銃の鹿(ダブルオー)(バック)を入手できる。ナイフはホームセンターに売っているし、通販を使えば、特殊部隊で使われているのと同じ、車の鋼板を切り裂けるくらい頑丈なナイフだって手に入る。


 唯斗は眩暈を感じて、かぶりを振った。

 おかしいのは唯斗の方だった。たぶん、人が死ぬのをたくさん見すぎたせいだ。


「楠くん、一緒に食べない? 大勢の方がおいしいよ」

 女子のグループが、唯斗をからかって言った。


 ちょうど唯斗は、自分の弁当を開ける所だった。蓋を持ち上げて、唯斗は絶句した。

 父は、唯斗が登校するのがとてもうれしかったらしい。弁当はかなりの気合が入った力作で、あちこちにハートがちりばめられ、鳥のそぼろで大きく『がんば!』と書いてあった。

 つつーと、唯斗の頬に汗が這った。だめだ、こんなものとても見せられない。


「唯斗くん? 来ないのなら、こっちから行っちゃうよ」

「ああー、ごめん。先約があって……ありがとう。もう行かなきゃ」

「えー、つまんない」


 急いで教室を逃げ出すと、唯斗は一人になれる場所を思案した。さすがに図書室で食事はまずい。

 屋上へいこうかと思い、階段を上ったけれど、外へ出るドアは鍵がかかっていた。


 仕方ないので、階段に腰かけて膝の上に弁当を広げた。箸箱がなかなか開かなくて、一分くらい苦闘してから顔を上げると、一つ上の先輩が、唯斗の弁当をのぞき込んでいた。


「すごい弁当だな。母親が作ったのか? ラブラブ弁当じゃないか。父親の弁当と間違えたのか?」


 ごめん……つくったのはお父さん。


 弁当をのぞき込んでいるのは、唯斗より一つ上の先輩だった。岡田湊という名前のこの先輩は、ルックスと知性に恵まれていて、生徒会の役員なんかもしていた。セルの眼鏡をかけて真面目な容姿だけれど、ちょっと遊びなれているみたいな噂も聞いたりする。


 気味が悪いくらい、ありがちなリア充だ。


 どうしてか分からないけれど、それほど親しいわけでもないのに、岡田湊は昔から、よく唯斗をかまってくれた。


「うん、まあ……どうしたんですか、こんなところで」

「それはこっちのセリフだ。久しぶり学校に来たら、女の子の誘いを断って、階段で一人、弁当を食ってる。おまえ、ゲイなのか?」

「……さっき、教室にいたんですか」


 そういえば、この人は世話好きなので、場所をかまわず、あちこちに出没している。


「なんで、一緒に食べないんだ?」

「ぼくは女の子と会話とか無理なんで」

「ああーなるほど、そうだろうな」


 くそ、なんかムカつく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ