殺し合いが好きなら、いくらでもやればいい
動画は、リジエラのローカルニュースだった。
ねじ曲がってオブジェになった車。黒煙を吐く炎。泣き叫ぶ女性。血まみれで地面にかがみ込んだ男性。通りはハリケーンが通過した後みたいになっていた。
一目、見ただけでわかる。リジエラではおなじみの同時多発爆弾テロだ。
三分の一ほども倒壊した建築物の壁には、剥がれた大きな十字のマークが揺れていた。
もとは病院だったようだ。むきだしの鉄筋で空に突き出していて、今はまるで要塞のように見える。
集まってきた消防車が放水を始めていて、駐車場らしい地下から現れた消防士たちは、少し焦げた死体を、通りの真ん中に並べていた。死体は時々痙攣して、まだ新鮮であることを知らせている。
複数の車両爆弾による同時爆破テロ。
ニュースキャスターがなにかを早口でまくし立てていた。興奮して目が赤くなっている。
カメラが、死体の一つに注目した。
死体は、時々、渦巻く黒煙に巻かれていた。
その原型をととどめていない死体は、まだ若い女性のようで、妊婦だった。顔は判別が出来ないほど壊れているけれど、キャスターが興奮する様子で、その死体が何者かわかった。
ああ、そういうこと……と、唯斗は思う。
確かに、現実ってそんな感じだ。
「病院を移る途中で狙われた。警護の兵士と一緒に。即死。たぶん痛みは感じていない」
「そりゃよかった」
「ヌエ?」
「べつに皮肉じゃないよ。せめてもの幸いだったってことさ」
足元に、ひんやりとした感触が広がった。まただ――唯斗はため息をついた――日常に戻ろうとするたびに、追いかけてくる。たぶん、一生逃げることはできない。
「他のみんなには?」
「ヌエが最後」
「もう、寝るよ」
「邪魔してごめん。気を落とさないで」
気を落とす? ぼくが? なぜ?
「ヌエ? 大丈夫」
「……大丈夫だよ」
ヌエは通話ソフトを閉じた。それから、『ネブラ・ディスク』のコードを引き千切って、ベランダから投げ捨てた。
小心者なので、一応、下には誰もいないことを確認した。
マンションの下は小さな公園だ。街灯が間欠泉のようにゆっくりと明滅している。完全には暗くならないけれど、光度を周期的に落とすのは省エネ対応だ。
階下のアスファルトに激突して、『ネブラ・ディスク』のアルミフレームが歪み、外装パネルが割れてはじけた。
ディスクの読み取りユニットがはみ出して、『バルバロイ』のディスクが、筐体から転がり出た。街灯の光を反射するディスクは、ずっと遠くに転げていって、自動運転する車を急停車させた。
減速が間に合わず、ディスクが踏み潰されるのが見えた。
関係ない。勝手にすればいい。
殺し合いが好きなら、ぼくの知らない所で、いくらでもやればいい。