わたしたちのせいじゃないし、わたしたちが気に病むことでもない
目を覚ました唯斗は、小さなグリーンの点滅に気がついた。
頭がおかしくなりそうだ。嫌な汗で、体がぬめった。変な夢は時々見るけれど、今日のは、特別にいかれていた。
点滅は、ゲーム端末【ネブラ・ディスク】のインジケータだった。
メールが届いている。『ハルシオン』からのメールだけは、チェックを忘れないようにしていた。
ハンドタオルを探したけれど、床から発掘できないので諦めて机に座った。【ネブラ・ディスク】は常時スリープ状態なので、キーボードに触れるだけで起動する。
メニュー画面から、メールソフトを起動した。〈キオミ〉からのメールだった。
本文にはリンクが貼ってあるだけで、クリックしたら通話ソフトが起動した。
画面に開いたウィンドウには、黒い髪を短く切った、女の人が映っている。
少年っぽい無臭性のルックスだった。学生にも社会人にも見えないことはない。
だぶだぶのTシャツを身に着けていて、ブラの肩ひもが見えていた。
普通の女の人は、透けて見えることさえ嫌がるけれど、この女性は、ずり落ちた肩ひもを直しても、べつに服の中にしまおうとはしなかった。それで、あまり見た目にはかまわないのだとわかった。
なんとなく、本人だと確信した。言動とルックスがちゃんと一致している。
「……キオミ?」
「……急にごめん」
「どしたの?」
作戦の関係者は、一部の仲良しを除いて、あまりオフで顔を合わせたりはしない。個人情報が流出した時に、芋蔓式に身元を特定される恐れがあるからだ。
唯斗自身の映像は、〈キオミ〉には届いていない。リクエストされていないし、許可もしていなかった。
でも凄腕のハッカーである〈キオミ〉には、唯斗の身元などとっくに知られているのかもしれない。コンピューターの専門家ではない〈アリー〉でも、簡単に唯斗を見つけてみせた。
唯斗は〈キオミ〉の様子を観察したけれど、感情の乏しい表情からは、なにも読みとれない。
ただ、なにかよくないことが起こったことだけがわかった。
「誤解しないで。べつに深い意味はない。わたしたちのせいじゃないし、わたしたちが気に病むことでもない」
メールには、動画ファイルが添付してあった。
「確認しろってこと?」
「知らせておく義務があると思っただけ」