どっちの方が綺麗な死体になると思う?
「ど、どういうこと? 変だよ。どうしたの?」
――わたしは、いたって普通よ。あなたと違って。
クラスメートの何人かが、くすくすと笑った。
「こらぁー。唯斗君が困っているじゃないの」
その先生はまだ新任で、熱心だけど、やや空回りな感じだった。
学校に慣れないのか、時々、おどおどしていることがある。ボランティアの先生や、学校に批判的な生徒に、すごく気を使っている。
何度か、唯斗の家にも訪ねて来てくれた。話はかみ合わなかったけれど、とてもいい人だった。
「戦場から帰ってきたばかりなんだから。いっぱい人を殺したんだから。みんな優しくしてあげないと。たいへんな仕事なのよ」
そう言われて、唯斗はなんだか、裸でいるように恥ずかしかった。
どうして、ばれちゃったんだろう。秘密にしていたのに。誰にも知られないようにしていたのに。
――どうしてって、みんな知っているわ。でも、心配しないで。わたしたちは、あなたの味方よ。あなたが殺してくれるから、わたしたちは平和でいられるの。ちゃんとわかっているわ。もし、殺し足りなかったら、わたしも殺していいのよ。まだ、日本人を殺したことはないでしょう。あなたが殺したのは、肌が黒い人ばっかり。黄色い人や、白い人も試してみなくちゃ。誰だっけ、あの可愛い女の子。アリー。そうアリーね。あの子も殺しちゃえばいいのよ。きっと彼女そうして欲しいと思っているわ。
「そんなわけないだろ。そんなのおかしいよ」
――おかしくないわ。アリーとわたし、どっちの方が綺麗な死体になると思う? どきどきしてこない? ねぇ、どっちがいい?
先生が笑った。少女みたいに無邪気に。
「やーね、困っているじゃない。唯斗君たら、顔が赤くなっているわよ。えっちね」